映画コラム

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2016年09月29日

私と映画Vol.6「テラスカイ 佐藤秀哉社長を支えるストーリー」[PR]

私と映画Vol.6「テラスカイ 佐藤秀哉社長を支えるストーリー」[PR]

「米国出張の時は、飛行機に乗っている10時間で3本は映画を観ます」と話す経営者の登場だ。テラスカイの創業社長・佐藤秀哉氏。企業向けITシステムを開発、提供するビジネスを行い、創業10年で東証マザーズへ上場を果たした敏腕経営者は、どんな視点で映画を楽しんでいるのだろうか。

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テラスカイ・佐藤社長。実は、あの「厚切りジェイソン」が役員を務める企業でもある。

言葉にならない何かを読み取る愉しみ



 映画を観て感動したあと、私は作り手の視点で「じゃあ、なぜドラマチックだったのか」と考える癖があります。すると、共通点が見えてくるんです。

 まずは「登場人物を深く描ききっていること」。

 例えば子どもの頃、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』を見ました。アメリカの田舎町のビーチで遊んでいた女子大生が、足だけになって打ち上げられます。警察署長のブロディは死因を「鮫に襲撃された」と断定する。でも市長が「観光産業に打撃を与える」と公表が遅れ再び犠牲者が出る……というストーリーです。大まかに言えば人間と巨大なサメの戦いですが、素晴らしいのは、人物像が深く描かれていること。例えば、冷静な海洋生物学者のフーパー、あらくれ者の漁師・フリント。彼らは対立を繰り返しながらも、過去を共有するにつれ、友情で結ばれていきます。だから、最後のシーンが強烈に心に刻まれるのです。

 その後、私が大学に入って新潟から東京へ出てきた頃、世の中にはレンタルビデオ店が誕生し始め、ますます様々な作品を観るようになりました。ジョージ・ルーカス監督の『アメリカングラフィティ』は、恋人と離ればなれになる女の子の怒りや苛立ち、さらには謎の美女に「アイラブユー」と言われた青年の、謎だからこそ燃える恋心が抜群の描写で描かれていました。スピルバーグの『激突』は、顔も見えない相手が自分に敵意を持ち、次第に殺意にまで変わっていく、その過程の恐ろしい描写が印象に残っています。

 その後、私はIBMの営業になりました。国内の企業が売上を伸ばせるよう、様々なシステムをお薦めし、受注する仕事です。そして私はこの仕事で「言葉にならない何か」をつかむ術を身につけていきました。

 商品をお薦めした限りは、先方の企業で役に立って、できれば、目の前にいるシステムの担当者が出世していく姿も見たい。でも、その会社が何を求めていて、何をすれば売上が伸びるかは、なかなかわからないのです。自分が思っていることを100%言葉にする人間など絶対にいません。むしろ、立場上どうしても口にできない思いを抱えていたり、取り繕う癖があるなど、言葉を選ぶ人のほうが断然多いでしょう。

 そして、営業として人の思いを知ろうとする作業と、映画の登場人物の好意や、嘲りなどの感情を読み取る作業は似ていたかもしれない、と思うのです。私は、映画から何かを学ぼうと思って観たことはありません。でも、映画を見続けた影響は受けたかな、と……。

 私が読み取るのは、表情だけではありません。例えば、黒澤明監督の『七人の侍』に、うるさいくらいの雨音の中、侍たちが議論するシーンがあります。余談ですが『七人の侍』は不朽の名作で、だからこそ誰もリバイバルできない作品なのかな、と思っているほど完成度が高い。そのシーンも、台詞をかき消すほどの雨音が、逆に静けさを際立たせ、その議論の深刻さを描き出しています。

 言葉にならない何かをいかに拾っていくか――。私はそんな視点で映画を楽しんでいるのかな、と思います。

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「クラウドの未来」について講演する佐藤社長。

「知ること」と「体験すること」の埋められない差



 映画を観る時、意識して楽しむのは、人物描写やストーリーだけではありません。映像の美しさも意識して楽しみます。小説は文字を使って描写するから、読者は自分の体験のなかから似たシーンを思い浮かべて物語を追体験しますよね。しかし映画は、観る者が絶対に描けないシーンを描くことができるのです。

 とくに最近は、3Dに始まって、シーンに連動して座席が上下左右に動く4D、コンピューターによって創り上げられた世界を現実同様に知覚させる “VR(バーチャルリアリティ)”など新しい技術が続々登場しています。私はIT関連の仕事をしているので、必ずこれら新技術は体験しています。

 3D映画の最高峰は『アバター』かもしれません。映像だけでなく、ストーリーも素晴らしい。さらには『ゼロ・グラビティ』。「映画館で観なければ意味がない」と思って、なんとか公開期間中に見た作品です。これも、映像技術が生きるストーリーに仕上がっていますね。一方、4Dはとくに何も感じませんでしたね。シーンに連動して座席が動いたり、足に風がふきかかったり、煙が出たりしなくても、人間はストーリーに没頭するだけの想像力を持っているのだと思います。それなら“VR(バーチャルリアリティ)”のほうが、今後、より進化していくのではないでしょうか。

 そしてこれらは、面白さもさることながら、まずは「観ること」が大切なのだと思います。「知ること」と「体験すること」の間には埋められない差があります。3Dでも4Dでも、実際に映画館へ行って体験してみないと、将来どうなるかはわからないのです。例えばスマートフォンが出始めた時、とあるIT系の大企業の若手に「この中で、スマホ持ってる人は?」と尋ねたことがあります。所持率は1割程度で、残り9割がガラケーでした。しかも彼らは、古いテクノロジーを「これがメインストリームだ」と思っていた。これではどうしようもありません。

 映画だけでなく、ゲーム等も同じでしょうね。『ポケモンGO』を知らない人はいなくても、やってみたことがない人は多いと思います。でも、やってみないと「ポケストップがどう進化していくのか」などわからないし、このゲームが、ゲームの市場を、ひいては映像デバイス等の市場をどう変えていくかわからないでしょう。何でも、”Touch&Feel”と言われるように、試してみないと始まらない……それは、IT企業の経営者としての矜持かもしれません。

 ただ『ポケモンGO』はやめ時を逸して、少々ハマりすぎましたが(笑)。

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東証マザーズ上場時。現在も、様々な企業からシステムのクラウド化支援を依頼されている。

「情熱のピーク」にある作品を観ていく



 最後にもう少し、私が好きな映画について語るなら――どうも私は「ひたむきな人物」が登場する映画が好きなようなんです。

 例えば「幸せの黄色いハンカチ」。有名な映画なのでストーリーは語るまでもないでしょう。この映画の主演は高倉健さん。彼が演じる主役は、とても控えめな人物です。なのに、どこか、芯に何かあるような振る舞いを見せます。そして、少しだけダークな面もにじみ出している。そして観る側は、最後にどうなるかわかっているのに深い感動を覚えるのです。

 なぜ、感動するか。それは高倉健さん演じる主人公があくまでひたむきで、木訥で、その描写がしっかりとなされているからです。そんな人物が登場すると、私は思わず魅せられます。ほか、名作『ショーシャンクの空に』や、高倉健さんの『八甲田山』なども同じですね。

 また、作り手のひたむきさが感じられる作品も好きです。例えば『ロッキー』。この作品は『ロッキー2』までは本当に一生懸命映画を作っている感じがありました。つくりたくてたまらない、という情熱があって、どこかに一生懸命な人ならではの勢いがあります。私はそんな「情熱のピーク」にある作品を観ていくことが好きです。

 そして、企業も同じですが、現場が冷めてやるのと、好きでやるのとでは、アウトプットがまったく違うのです。

 決して奇をてらうようなドラマチックさは必要ない。乾坤一擲の勝負も必要ない。ただ、強い思いを持って、日々ひたむきに進んでいけばいい――。実は私もそんなタイプです。「これなら上場までいける」というビジネスモデルをつくり、思い描いたことをひたむきに実現する、そんな経営をしてきました。

 何かを学ぶつもりで映画を観たことはありません。でも、好きな映画に、自分の思いは投影されるのかもしれませんね。



【プロフィール】
佐藤秀哉


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株式会社テラスカイ代表取締役社長。1963年新潟県生まれ。1987年、東京理科大学理工学部卒業後、日本IBMに入社し、営業職に。その後、2001年に米国のセールスフォース・ドットコム日本法人の立ち上げに参画。2006年クラウドインテグレーターの現 テラスカイを起業。2015年4月、同社をマザーズ上場へと導く。




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