映画コラム

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2017年01月07日

大ヒット中の「14の夜」。オッパイ揉みたい!それが人生最大の問題だった!

大ヒット中の「14の夜」。オッパイ揉みたい!それが人生最大の問題だった!



(C)2016「14の夜」製作委員会



「百円の恋」の脚本で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した、足立紳。彼の監督デビュー作品としても話題の映画、それがこの「14の夜」だ。

都内単館での上映ながら、連日満員の大ヒットを記録している、この作品を、今回は紹介することにしよう。

予告編




予告編の印象からは、てっきり平成版「パンツの穴」的な内容を期待していたのだが・・・。さて、果たしてその内容はどうだったのか?

ストーリー


1987年のある田舎町。中学生のタカシは、ある事情によりずっと家でウジウジしている父親の事が、カッコ悪くて嫌いだ。
今日も、婚約者を連れて帰ってきた姉に対する、父親の情けない態度が我慢なら無い。町を歩いているとすぐに絡んでくる地元のヤンキーたちも鬱陶しいし、隣に住む幼馴染で巨乳のヤンキーのメグミのことも、ちょっと気になっている。
そんなどうにもならない悶々とした日々を送っているタカシが、柔道部の仲間たちと入り浸っている、町に一軒だけのレンタルビデオ屋があった。
なんとそこに、人気AV女優の「よくしまる今日子」が、サイン会にやって来るという噂が聞こえてきて・・・。予期せぬ事態と大騒動の果てに、タカシは「よくしまる今日子」に会えるのだろうか?(公式サイトより)




(C)2016「14の夜」製作委員会




舞台となる懐かしの1987年。そのディテールの再現力に注目!


本作の舞台となるのは、1987年のある一日。正にアラフォー世代の観客にとっては、自分が送った青春時代そのものだと言える。
スマホやネット、SNSはおろか、DVDさえも無いVHSレンタル全盛の時代だけに、本作でも重要な舞台となるのは、町に一軒しかないレンタルビデオ店。このレンタルビデオ店に、なんと人気AV女優がサイン会に来るらしい!そんな噂話を中心に物語が展開するのだが、とにかくこのビデオレンタル店の再現が素晴らしいのだ!
エンドクレジットによれば、このシーンで陳列されているビデオソフトは、映画評論家白井佳夫氏の提供によるものだそうだが、当時これだけの在庫を揃えたレンタルビデオ店があったら!本作を見ながら、そう思わずにはいられなかった。

今や貴重なこれらのビデオに加えて、更に店のカウンターには「ビーバップハイスクール高校与太郎行進曲」のポスターが!
実はこの作品、ちゃんと1987年の春に公開されており、おまけに店長(名優の駒木根隆介が好演!)も、モニターで「ビーバップ」の過去作を見ているという描写があり、この当時の中・高校生が抱いていた「不良カルチャー」への憧れと熱狂振りが見事に再現されている。

その他にも主人公たちが乗る、当時のスタイルのままの自転車や、主人公の部屋の壁に貼ってあるジャッキー・チェンのポスターなど、製作スタッフのディテールへのこだわりが随所に現れているので、是非劇場でご確認を!

現実は、そんなに簡単に変わらない。だからこそリアルに共感出来る!


映画のラスト、嵐の様に過ぎ去った一夜の出来事を思い返して、主人公のタカシはベッドの上で死ぬほど笑い転げる。
それまでは世の中に対して、全く自信も余裕も無かったのだが、数々の体験と苦難を越えた今の彼には、それまでの出来事と自分を笑って振り返れるだけの余裕が生まれているのだ。
ほんの僅かだが、これこそが主人公の「成長」の証であり、自分の「カッコ悪さ」を父親のせいだと責任転嫁していた過去の自分と、父親のカッコ悪さを笑い飛ばせるだけの精神的余裕とある種のあきらめを覚えた彼の、大人への第一歩だととも言える。

今回オーディションで選ばれた、主演俳優4人の演技は、どれも自然で瑞々しさに満ちていて素晴らしいのだが、その中でも、前述した一人で延々笑い続けるという、非常に難しい長廻しのシーンを見事に演じ切った、主演の犬飼直紀!彼の将来が非常に楽しみだと思った、と言っておこう。



(C)2016「14の夜」製作委員会



最後に


80年代の東映青春映画にあったようなパワーと笑い、そして下品な下ネタを期待して行かれると、確実にその予想を裏切られる本作。

あやふやで確実性の無い情報に惑わされ、一夜の冒険と異様な体験をすることになる主人公たち。
ただ、それによって主人公が置かれた閉鎖的境遇が、一気に劇的な変化を迎えることはなく、彼の内面の変化が僅かに現れるに過ぎない。

しかしこれは、今後の彼の長い人生において、本当に「第一歩」でしか無い。きっと彼はこの夜の様に、これからも一歩ずつ「大人への階段」一歩ずつ踏みしめながら昇って行くのだろう。それこそは、過去に我々が経験してきた物であり、きっとそこが観客の共感とノスタルジイを呼んで、今回のヒットに繋がっているのでは無いか?そう思えてならなかった。

むしろ一夜明けてからの、今後の彼らの生活の方が見たい!と思わせる本作。1987年に青春時代を迎えていた世代も、ビデオレンタルを知らない世代の方も、是非劇場で本作の主人公たちの「一夜の冒険」に、一緒に参加して頂ければと思う。

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(文:滝口アキラ)

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