封印が解かれた伝説の映画『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』

長いこと観る機会が失われていた映画が、再びスクリーンで日の目を見るというのは、映画ファンにとって何より嬉しいことだ。ここ数年、TSUTAYAの発掘良品を始め、見られなかった映画が簡単にDVDでレンタルできるようになったことも嬉しい話だが、それが劇場でかかるとなればより格別である。

今年の東京国際映画祭の最大の目玉は、そんな〝封印された映画〟だったエドワード・ヤンの『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が、上映されるということに他ならない。これはもはく

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.3:封印が解かれた伝説の映画『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』>

91年に日本公開された台湾の青春映画が、その後の映画界でこれほどまでに話題になるとは誰が予測できただろうか。当時ホウ・シャオシェンやアン・リーといった、台湾ニューウェイブの監督たちが相次いで登場して注目を集める中で、ひときわ異彩を放っていたのがエドワード・ヤンだった。

アメリカに渡り映画製作を学んだ彼は、80年代に帰国したのち、映画界入りを果たし、最初の長編映画『海辺の一日』で脚光を浴びる。そして91年、4作目の長編映画として発表したのがこの『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』だったのだ。

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60年代初頭に実際に起きた、台湾で最初の未成年による殺人事件からインスピレーションを受け、当時の台湾情勢と、複雑な家庭環境や友人関係の中で、やがて凶行に走る少年の姿を描いた約4時間にも及ぶ大作だ。

その236分間には、一人の少年が経験する一夏の時間感覚が凝縮され、もはや映画という枠では抑えきれないほどの情報量がひしめき合う。それでいて、正攻法の演出によって冗長さを一切感じさせず、体感時間は恐ろしく一瞬。ただひたすら、画面の中に映る、蒸し暑い台湾の一夏の中に誘われるのだ。

大陸からの移民である外省人の子供達は、高圧的な大人から逃れるために自分たちのグループを形成していた。町には二つの少年グループが対立関係を築いており、その中で主人公のスーは、自分の所属するグループのボスであるハニーの恋人・ミンに淡い恋心を抱く。ある時、町を離れていたハニーが帰ってくることで、再びふたつの少年グループの抗争が激化していくのだ。

いわば、物語の構造は対立するグループに挟まれた男女の恋模様。つまりは『ロミオとジュリエット』に端を発する、典型的な青春悲劇の様相を辿るということである。リサ・ヤンが演じるミンという少女が、おとなしい見た目とは裏腹に、なかなかの悪女に見えるから実に面白い。対立するふたつのグループは彼女の取り合いをし続けるわけだ。

主人公のスーを演じているのは、『レッド・クリフ』の孫権役や、『グリーン・デスティニー』などアジア圏作品では欠かせない俳優へと成長したチャン・チェン。デビュー作となった本作では、実の父である名優チャン・クォチューと親子役で共演しているのも興味深い。

91年に東京国際映画祭のコンペティション部門で審査員特別賞を獲得。初公開時は188分の短縮版が劇場公開され、VHSソフトは236分版でリリース。着実に評価を高めていったのだが、日本では公開当時の配給会社が倒産したことに伴い、その権利関係の事情から、98年のリバイバル公開を最後になかなか再上映の機会もソフト化の機会にも恵まれなかった。しかし、今年の春にアメリカのクライテリオンがリマスター版ブルーレイ発売を皮切りに国内でも再び話題が沸騰し、満を持しての日本での劇場再公開が決まったのだ。

あまりにも有名な木の下でのスーとミンを映したショット。そしてクライマックスの夜市の場面。これらを劇場の大きなスクリーンで観ることができるなんて、他のどんな映画でも決して味わうことのできない最高の映画体験が訪れる。

2000年の『ヤンヤン夏の思い出』の直後から闘病生活に入り、2007年に59歳の若さでこの世を去ったエドワード・ヤン。昨年『恐怖分子』と『光陰的故事』がリバイバル上映され(両作とも現在DVDがレンタル&発売中)、11月に行われる東京フィルメックスでは85年に発表したこちらも幻の一本『タイペイ・ストーリー』がデジタル・リマスター版で上映されるなど、ようやく時代が天才エドワード・ヤンに追いついてきた。

『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は東京国際映画祭のワールドフォーカス部門で上映されたあと、来年には角川シネマ有楽町ほかでロードショーされる。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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