アメコミ映画は日本でも、ヒット・ジャンルになるか?(前篇)
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」「デッドプール」

デッドプール (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

公開のタイミングが良かった「デッドプール」

先輩 6月1日から公開された「デッドプール」が、好調に興収を伸ばしている。これは注目すべき現象だね。

後輩 「バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの逆襲」「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」に続く、今年3本目のアメコミ映画ですが、前の2作品と違ってキャラクターの認知度がほとんどなかったにも関わらず、12日間で興収12.41億円をあげています。

先輩 最終的に興収20億円は確実。ただし30億円はちょっと難しいかな。

後輩 ゴールデン・ウィークに日本が先行公開となった「シビル・ウォー」も、現在までに興収25.83億円を上げていますから、これもヒットと言えますね。

先輩 ゴールデン・ウィークに「シビル・ウォー」、6月に「デッドプール」という、この公開順序が良かったね。知名度のあるヒーローが勢揃いした「シビル・ウォー」は、けっこうシビアな内容で、クォリティも高かった。それに対して「デッドプール」は脱力感満載。下品だし、適度にバカバカしいところが良い(笑)。

後輩 確かに公開順序が逆だった場合、「デッドプール」が「シビル・ウォー」の前座的なポジションになってしまったかもしれませんね。

先輩 「シビル・ウォー」がああいう作品だったからこそ、対照的な内容の「デッドプール」に注目が集まったと言えるだろうね。それと、公開時期に関しても6月1日という、つまりゴールデン・ウィークと夏休み興行の間で、周囲に大作がない時期を狙った。それが功を奏して746スクリーンという大規模なマーケット編成が可能になり、IMAX、4DXといった体感起動装置も稼働出来たのは、マーケティングの勝利だと言って良いだろう。

後輩 「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」のヒットともども、ようやくアメコミ映画も日本で認知されてきたかな、という感じがします。

先輩 タイトルこそ「シビル・ウォー」だけど、内容的には「アベンジャーズ3」と言った方が良いんじゃないかな。アントマンが巨大化したり、スパイダーマンをゲスト出演させたりと、マーベル・オールスター勢揃いって感じの内容だった。君が言うように、アメコミ映画がようやく認知されたと思いたいけれど、これはなかなか判断が難しい問題なんだなあ。

歴代アメコミ映画、日本での興収トップは「スパイダーマン」

先輩 試しに、こんなランキングを作ってみたんだよ。

1 「スパイダーマン」(2002年公開) 75億円

2 「スパイダーマン3」(2007年) 71.2億円

3 「スパイダーマン2」(2004年) 67億円

4 「アベンジャーズ」(2012年) 36.1億円

5 「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」
(2015年) 32.1億円

6 「アメイジング・スパイダーマン」(2012年) 31.6億円

7 「アメイジング・スパイダーマン2」(2014年) 31.4億円

8 「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」
(2016年) 25.83億円(調査時上映中)

9 「アイアンマン3」(2013年)25.7億円

10 「ダークナイト・ライジング」(2012年)19.7億円

後輩 相変わらず,数字を並べるのが好きですねー。なんすか?これ。

先輩 2000年以降のアメコミ映画の日本公開時興収トップテンさ。
でも正直言って、つまんないランキングだよな。

後輩 自分で作っておいて,なんてこと言うんですか?

先輩 だって、未だにトップ3が「スパイダーマン」シリーズ3本なんだぜ。2012年の「アベンジャーズ」から、アメコミ映画に対する注目度が上がったように思えたんだが、そうでもない。

後輩 そもそもアメコミの映画化って、昔からヒットに恵まれてなかったんですか?

「バットマン」から始まった、日本でのアメコミ映画の受難

先輩 そうだな。もう前世紀のことになるけど、1989年12月に「バットマン」って映画が公開されてな。これが当初、大ヒット確実と言われたんだよ。

後輩 昔のことは、さすがに詳しいですね(笑)。

先輩 じゃかあしい。当時はアメリカ映画の大作でも、日米同時公開なんてほとんどやってなくて、アメリカのサマーシーズンでヒットした作品は、日本で正月に公開されるというのがパターンだった。で、「バットマン」は89年のサマーシーズン、アメリカで大ヒットしていたのさ。当然、正月興行ナンバーワンの大ヒットを狙ったんだけど、同じく正月映画として公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」が配給収入55.3億円を上げる大ヒット。それに対して「バットマン」は19.1億円しかあげられなかった。

後輩 配給収入というと、現在の興行収入の半分ぐらいですか?

先輩 そうそう。だから「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」の興収は100億円超えたんだけど、「バットマン」は40億円も行かなかったんじゃないかな。まあ客観的に見ても興収40億円行けば大ヒットだと思うけど、この場合は期待が大きすぎたのさ。

後輩 それでアメコミ映画は日本ではヒットしないって定説になったんですか?

先輩 当時はアメコミ云々で語ってなかったさ。むしろハリウッド映画の大作ってイメージが、観客にアピールしていた。「バットマン」の前に、1979年に公開された「スーパーマン」なんてその大作感を前面に押し出して、配収28億円も上げたんだから。

後輩 じゃあ大作仕掛けで、アメリカでも大ヒットした「バットマン」は、なぜ日本で今ひとつだったんですか?

先輩 当時指摘されたのが、作品内容が暗すぎるってこと。ティム・バートン監督の世界観がダークすぎるってことだわな。なにせ当時、この国はバブル経済の真っ只中。世の中いつもお祭り騒ぎで、「暗い」ことイコール「悪いこと」みたいな風潮が、色濃くあった。

後輩 その後も「バットマン」は、シリーズ化されてますよね?

先輩 1992年に「バットマン・リターンズ」、95年に「バットマン・フォーエヴァー」、97年に「バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲」と公開されたけど、配収を順に言っていくと7億円、4,5億円、7億円と、1作目にまったく及ばない成績でね、これが。

後輩 あちゃぁ・・・・。

先輩 「バットマン・リターンズ」なんて僕は作品的には大好きで、今でも見返すぐらいだけど、この映画が世界的にヒットしなかったことで、ワーナーは「ティム・バートン監督のカラーが強すぎる」と、バートンをはずしてジョエル・シュマッチャー監督に交代するわけさ。よくある話だよ。

後輩 それが21世紀になって、なぜこんなにアメコミを原作にした映画が作られるようになるんですか?

(明日の後篇に続く)

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(企画・文:斉藤守彦

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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