「湯を沸かすほどの熱い愛」への出演をすぐさま決めた、女優・宮沢りえの姿勢は賞賛に値する!!

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(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

女優さんの営業は、けっこう大変なのだ。

先輩 日本のインディペンデント映画と女優を語るシリーズ第3弾は、中野量太監督の新作「湯を沸かすほどの熱い愛」で、宮沢りえが主演しています。

爺 中野量太監督って、「チチを撮りに」の、あの監督?

先輩 ご存じですか?

爺 この間、CSでやってたので録画して見たんだけど、これがけっこう面白かった。一言で言うと、「とても深刻な事情を抱えた人たちを滑稽に描きながら、でもその深刻さは観客の負担にならない程度に描かれていて、最後はうるっとしてしまう」、そんな映画だった。

先輩 「湯を沸かすほどの熱い愛」も、まさしくそういう映画ですよ。

爺 このタイトルからでは想像がつかないんじゃが、どんな映画なんだ?

先輩 いや、だからこのタイトルのままの映画ですよ。

爺 はあ? まあいいや。とにかく宮沢りえ、杉咲花、オダギリジョー、松坂桃李とけっこうな俳優さんたちが出ているじゃないか。

先輩 やっぱりこの映画で特筆すべきは宮沢りえですよ。

爺 彼女の演技が素晴らしいとか、あるいはとてもセクシーだとか、そういうことなのかい?

先輩 それ以前に、この映画のシナリオを一読した宮沢りえが、かなり早い段階で出演を希望したというのです。

爺 ほお。

先輩 失礼ながら、中野監督はまだ商業映画監督としての実績が、ほとんどない。にも関わらず、シナリオの面白さを信じて、「出ます!」と手を上げたのはエライと思うんです。

爺 そのあたり、女優さんとしても事務所に所属する立場であったりするから、必ずしも自分の意向だけで出演作品を選ぶことが出来ない。俳優さんの営業というのも、大変なんだなあ。

先輩 必ずしも大作やヒット作ばかり出ていれば良いというものではないんですよね。そうすればお金は儲かるかも知れないけれど、そうじゃない、別の価値観も俳優という職業には大きく作用する。

爺 そう。だからハリソン・フォードが「なんで低予算のインディペンデント映画に出なくちゃいけないんだ」と、さも自分は大作しか出ないと豪語していただろ。ところが最近では高齢のせいか、出演作品が減ってきた。よっぽど過去の栄光が忘れられないんだろう。ルーカスとスピルバーグに直談判して作らせたのが「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」。

先輩 痛々しかったですよね。よぼよぼになってムチをふるうインディは。

爺 だから、今回の宮沢りえみたいに、例え監督が無名でもシナリオの面白さを評価して、即出演を決める。金のために受ける仕事も生活のためには必要だよ。でもそうじゃなくて、俳優としての自分を進歩させてくれる、あるいは新しい出会いがある。必ずしも条件は良くないが、そういうモチベーションで受ける仕事があってもいい。その両方をやっていかないと、女優としての魅力が薄れてくると思うんだよ。

先輩 それと、ある程度の年齢になったら、自分の後に来る人たちのために、胸を貸してあげる。そういう気持ちも大切ですね。自分だって誰かにチャンスをもらったことで、今日まで仕事を続けてきたわけですから。

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(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

宮沢りえ演じるは、余命2ヶ月を告げられた、銭湯の女主人。

爺 ところで「湯を沸かすほどの熱い愛」というのは、どんな映画なんだい?

先輩 いや、だからタイトルのままの映画ですよ(笑)。

爺 宮沢りえはこの映画で、どんな役を演じているの?

先輩 旦那さんが失踪してしまった、銭湯の女主人を演じています。ところが彼女、ある日突然、余命2ヶ月と宣言されるんです。

爺 なんじゃなんじゃなんじゃ、難病にかかって死ぬ役なのか?

先輩 ところがどっこい。明るく前向きの彼女は、3つの誓いを立てるんです。それは「家出した夫を連れ帰り、家業の銭湯を再開させる」「気が優しすぎる娘を独り立ちさせる」「娘をある人に会わせる」こと。宮沢りえ扮する双葉は、娘・安澄とオダギリジョーの夫が別の女との間に作った娘・鮎子と共に、旅に出ます。そこで双葉は様々な人と出会い、様々な事態に決着をつけるのです。

爺 ふーん・・・で、映画としての出来は良いのか? それとも悪いのか?

先輩 とても、とても良い映画になりました。2016年を代表する日本映画の1本になることでしょう。まさにご隠居が言われた「とても深刻な事情を抱えた人たちを滑稽に描きながら、でもその深刻さは観客の負担にならない程度に描かれていて、最後はうるっとしてしまう」。そんな映画です。

爺 「チチを撮りに」といいこの映画といい、中野監督は一貫して家族ってものにこだわっているようだね。

先輩 今回の場合、宮沢りえの母親がその家族の中心で、ひとりひとりの登場人物が、彼女の持つ母性やおおらかさに救われたり癒されたり。でもそれだけではなく、娘に厳しく接したり、あてどなく旅をしている青年に目標を与えたり。やっぱりこの映画に宮沢りえは外せません。他の女優では彼女の持つ柔らかさは出せなかったと思います。

爺 なるほどなあ。こりゃあぜひ見なくてはなあ。

先輩 おそらくラストシーンを見たら、しばし呆然として、その後感動のあまり失神するかもしれませんよ(笑)。

爺 そんな映画なのか?

先輩 いや、だからそのタイトルのままの映画だと言ってるでしょうが。まったく物わかりの悪いジジイだなあ!!

(文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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