60年代に世界をバズらせたビートルズ!突然ライブ活動休止の理由とは?

本作「ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK – The Touring Years」は、1962年のコンサートツアー開始から、66年のコンサーツアー活動停止までの期間を通して、当時人気絶頂だったビートルズと社会との関係や、彼らの成長と意識の変化を追った、ファン待望の公式ドキュメンタリー映画だ。

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(C)Apple Corps Limited. All Rights Reserved.(C)Bob Bonis Archive

監督にアカデミー賞を受賞したロン・ハワードを迎え、世界中から集めた1000時間を越える貴重な映像と、更に存命中のメンバーである、ポールとリンゴの現在のインタビューも収録。過去を振り返りながら当時の心境や状況を、今の視点から語ってくれるのも、ファンには非常に貴重な体験と言えるだろう。

それに加えて、エルビス・コステロやシガニー・ウィーバー、ウーピー・ゴールドバーグなど、実際に当時のアメリカでのビートルズ公演を観たスターたちにもインタビューしているのだが、ウーピーの母親がコンサートに連れていってくれたエピソードは感動的だし、当時のシガニーウィーバーの姿が、コンサートフィルムの中にちゃんと写っていたのには驚いた!

生のビートルズを見た!と嬉しそうに話す彼らの姿を見ていて、「ああ、ビートルズと共に時代を生きた、そのことが一生の思い出になると共に、そのまま歴史の証言にもなるのか」、と再確認させられたのは言うまでもない。

デビュー前のエピソードなどは省き、ブレイク後の1963年から人気絶頂の時期を描いているので、初期ビートルズがお好きな方、あまりビートルズに詳しくない方でも、十分に楽しむことが出来る本作。文字通り、「ビートルズ入門編」としてもオススメ出来るこの作品が、描こうとしたものとはいったい何だったのだろうか?

彼らが、長期のコンサートツアーを行わなければならなかった理由とは?

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(C)Apple Corps Limited. All Rights Reserved.(C)Bob Bonis Archive

映画の中でも、メンバー本人の証言で語られる通り、実はレコード契約時の条件が悪すぎたため、彼らが金銭的に稼ぐためにはコンサートの収益に頼る必要があった、という点が大きい。

非常に多くの国を回る長期のツアーだったが、映画を見れば判るように、若い彼らにはその忙しさや疲労に呑み込まれず楽しむ余裕さえあった。

観客の前で自分達の曲を演奏をしていること、それ自体が彼らにとっての楽しみだったからだ。しかし、やがてそれもコンサート会場のキャパが拡大しすぎたこと、政治や社会との軋轢の中で、いつしか苦しみに変わっていくことに。

例えば、アメリカでのコンサート時には、人種隔離政策で白人と黒人の客席が別々のエリアに分けられる事を、ビートルズは拒否!この頃からやがて、彼らの政治的発言が取りざたされるようになっていくことになる。

若く自由な彼らの発想と行動は、アメリカを初めとして確実に世界の意識を変えていくのだが、ファンが求めるビートルズ像と、次第に成長し変革されていく彼ら自身とのギャップも、また次第に広がっていくことになる。この頃、有名なジョンの「ビートルズはキリストよりも有名になった」発言により、イギリス国内よりもアメリカで一挙にアンチが増え、遂にはコンサート会場での混乱・暴動へと発展!ついにメンバーは、コンサートでの演奏自体に意味を見出せなくなってしまうのだった。

確かに、アメリカ初上陸の頃はマスコミのインタビューに対しても、気の利いた返答で即答していた彼らが、この頃にはユーモアを忘れて世間の悪意を警戒するかのような返答しか返せなくなっているのが、映画を観ると良く判る。経済的事情があったとはいえ、長期化・大規模化したコンサートツアーが、彼らのアーチスト生命を蝕んだという事実。是非劇場で、当時の映像と証言をご自分の眼で確かめて頂きたい。

現代のネットやSNSを先取りしていた、当時の熱狂的ファン=「ビートルマニア」たち!

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(C)Apple Corps Limited. All Rights Reserved.(C)Bob Bonis Archive

映画の中で印象に残ったのが、あるインタビューで「なぜ、観客はあんなに叫んだりするんでしょうか?」と聞かれたビートルズのメンバーたちが、「僕たちにも判らないよ」、と答えるシーンだ。

確かにイギリスやアメリカでは、コンサート中の観客が悲鳴や絶叫を上げる現象が起こり、これらを形容していわゆる「ビートルマニア」なる言葉も生まれたほど。

確かに、当時は単なる「若者の熱狂っぷり」としか世間には見えなかったのだろうが、ネットやSNSがこれ程普及した今なら、いや今こそ理解出来る!あれは、ファンがビートルズに送った「コメント」なのだと。芸能人やタレントのFBやツイッターの投稿に、一般のファンが直接自分の意見や感想を伝えられたり、ニコ動で弾幕の様に流れていく無数のコメント。

60年代当時ファンレターという手段で、間接的にしか自分の想いを伝えられなかったファンにとっては、唯一彼らに出会えるコンサート会場で叫ぶことだけが、自分の想いを直に届けられる手段だったに違いない。情報の伝達ツールが飛躍的に進歩した現代と全く変わらない想い、それを伝えるための「コメント」としての「絶叫」こそが、「ビートルマニア」現象誕生の理由だと言える。(これは、あくまでも個人の見解です。念のため)

彼らがコンサートを止めた理由、現代に例えるなら、「ネット炎上&SNS疲れ」だった?

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(C)Apple Corps Limited. All Rights Reserved.(C)Bob Bonis Archive

前述した通り、あまりに不利なレコード契約により、金銭的理由からコンサート活動に頼らねばならなかった、ビートルズ。当初は会場規模も小さく、観客の顔が見える範囲で生の演奏を聞かせる喜びに、メンバーの表情も実に楽しそうに見える。

しかし、人気の高まりと観客数の増加により、次第に会場は巨大化し、開催地も世界中に及ぶようになっていく。遂には、観客数5万6千人という巨大な野球場「シェイ・スタジアム」でのコンサートという、アーティストにとっては文字通り夢の晴れ舞台に立つまでになるのだが・・・。皮肉にもその時、ビートルズのメンバーの顔に笑いは無くなっていた。

観客の顔も確認できず、自分達の演奏する音さえも聞こえない!その中でコンサートを行わねばならない状況への疲れと虚無感が、メンバーの表情に暗い影を落とす。いったい自分達は、誰のために演奏しているのか?観客たちは、実は自分たちを観に来ているだけで、演奏など関係ないのでは?

前述した、ジョンの不用意な発言により、マスコミや一部のファンからの誹謗中傷・バッシングを受けて、精神的に疲れていたことなどもあり、こうして彼らは以後の全てのコンサート活動を止め、スタジオでのレコーディング中心の活動へと移行することになる。

自分達がリアルに向き合える規模を超え、あまりに巨大化した世界=ネットワークに疲れて降りる、これは現代のネット社会での、SNS疲れ、炎上・アンチによるブログ閉鎖、ツイッターアカウント削除的なものと、非常に良く似ている。そう、我々が今利用しているネットやSNSが誕生する遥か以前、間違いなく世界中をバズらせた伝説の男たち、それこそがビートルズなのだ!当時でこそ炎上やアンチに苦しめられたとはいえ、現代でも未だに彼らの音楽は新たなファンを獲得し続けている。これこそ正に、時代が彼らに追いついたことの証明だと言えるのではないか?

一つだけ言えることは、劇場の規模が拡大するにつれてかれらの表情から笑いが消え、演奏を楽しんでいる余裕が、やがて疲労に変わっていったということだ。あれほど楽しそうだったコンサートでの演奏、もはやそこに意味が見出せなくなり、全てのコンサート活動を止めた彼らが、解散前の最後のライブとして選んだ場所とは?本作のラストに登場する、映画「レット・イット・ビー」の中にも登場した、1969年の有名なゲリラライブシーンがそれだ。

シェイスタジアムでの5万6千人の動員以降、一切のライブ活動を止めた彼らが、解散前の最後に行った演奏が、自分達のスタジオの屋上での極小規模な物だった事は、彼らの原点回帰への強い想いだったのだろうか?本作で描かれる彼らの状況を理解してから再見すると、このライブがまた違った意味合いを持ってくるはずだ。

最後に

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(C)Apple Corps Limited. All Rights Reserved.(C)Bob Bonis Archive

この映画の最大の魅力は、何と言っても過去のライブ映像の数々が、高画質で見られる点だろう。

今回久々に彼らの演奏する姿を観て感じたのは、やはりリンゴ・スターは凄かった!ということ。広いコンサート会場でも目立つその動き。あれだけ早く正確にリズムを刻む彼のドラム!

大スクリーンで彼らの演奏を観れば、きっと人それぞれに新たな発見があるはずだし、まだ若く成功への階段を駆け上っている頃の彼らの姿をスクリーンで観ることで、更に新たなファンの獲得に繋がるのではないかとの思いが強くなった。

特に本編終了後に特典として同時上映される「1969年8月のシェイスタジアムでのコンサート映像」の素晴らしさ!30分の特別編集版ではあるものの、今回4Kリマスターされたその映像は、50年前の映像とは全く思えないほど鮮明だ。

正直、最近流行している過去作品の4Kレストアバージョンに関しては、個人的に全く興味が無かったのだが、今回のように歴史的価値のある記録映像などは、こうした高画質で見返すことで新たな発見が生まれたりするに違いない。

残念ながらソフト化の際に、この映像が特典として収録されるかは今のところ不明なため、是非この機会に劇場の大スクリーンで鑑賞されることを強くオススメする。

(文:滝口アキラ)

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    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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