『BFG』『チャーリーとチョコレート工場』の原作者ロアルド・ダールは007の脚本も手掛けていた?

BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント


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ロアルド・ダールといえば、やはり児童文学のイメージが強いだろうか。今回はそんな彼の少し意外な作品と、王道をいく傑作ファンタジーを紹介し、今週から公開された『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』を紹介しようと思う。

イギリスを代表する児童小説家ロアルド・ダール


まずはロアルド・ダール自身について紹介しよう。

1916年にウェールズで生まれたダールは、第二次大戦中に空軍のパイロットとして活躍。ところが戦闘中に撃墜され、奇跡的に一命を取りとめるのであった。そんな彼が作家として活動を始めた初期の頃は、そのパイロット経験を生かした短編集『飛行士たちの話』(この小説は宮崎駿にも影響を与えたと言われている)など、のちの児童文学とは異なるジャンルを手がけていた。

飛行士たちの話



50年代に入りテレビシリーズの脚本家として活動を始めたダールは、サスペンスの神様アルフレッド・ヒッチコックの『ヒッチコック劇場』でも幾つかのエピソードを手がけ、64年に映画界へ進出。『飛行士たちの話』に収録されている一編「Beware of the Dog」を原作に、『三十四丁目の奇跡』(1948年版)のジョージ・シートン監督が手がけたスパイスリラー『36時間 ノルマンディ緊急指令』である。

そして、67年には世界中でも大ヒットとなるあのシリーズで、脚本を手がけることになる。それが、『007』シリーズ第5作目にして、日本を舞台にした『007は二度死ぬ』だ。

『007は二度死ぬ』


007は二度死ぬ (字幕版)


宇宙カプセルが姿を消す怪事件によって米ソの緊張が高まる中、その謎の解明のために日本を訪れた英国情報部のジェームズ・ボンドを描いた本作。ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドを演じた007作品の中でも、『ロシアより愛をこめて』に次ぐ人気を誇っている。

クライマックスの派手さといい、その後の007シリーズのブロックバスター感を作り出すきっかけになった作品とも言えるのではないだろうか。今作で初めてシリーズのメガフォンを執ったルイス・ギルバートは『私を愛したスパイ』と『ムーンレイカー』でも監督を務めたが、ガイ・ハミルトンよりもこのシリーズを掌握しきっているように思える。そこは彼の娯楽映画センスだろう。

もともと原作者イアン・フレミングと親交のあったロアルド・ダールが抜擢されることになったわけで、翌年に映画化されたフレミング原作の『チキ・チキ・バン・バン』でもダールは監督のケン・ヒューズとともに脚本を務めた。どちらかといえばこちらの作品の方のほうがダールの作風に近いものを感じることだろう。

『チキ・チキ・バン・バン』


チキ・チキ・バン・バン (コレクターズ・エディション) [DVD]


すでにこの時点で発表していた『夢のチョコレート工場』の映画化が71年に行われ、そこから数多くの児童文学を発表し続けてきたダール。一方で70年代の終わりには、サスペンス作家としての本領も発揮する。日本でもテレビ放映された『ロアルド・ダール劇場/予期せぬ出来事』がまさにその極地であり、さながら『未知の世界』のロッド・サーリングのように原作者のダール自らがストーリーテラーとして解説をしてくれるのだ。ダールの別の一面を楽しむ上で欠かせない作品である。

しかし、何と言ってもロアルド・ダールは児童文学の人だ。
映画化されたのは非常に最近ではあるが、1970年に発表した「すばらしき父さん狐」は間違いなく代表作のひとつだ。そして、その映画版はダール原作作品の最高傑作である。

『ファンタスティックMr. FOX』


ファンタスティック Mr.FOX(字幕版)



日本でも人気の高い個性的な作家ウェス・アンダーソンが初めて手がけたアニメーション作品である本作は、製作にかけられた労力とその完成度の高さに世界中が驚嘆したのである。その年のアカデミー賞では長編アニメーション賞にノミネートされるも、ピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』を相手に惜敗。それでも、先日アメリカのThe Playlistが発表した21世紀のアニメ映画ベストで8位に入る高評価を獲得している。

家族や仲間たちを守るために悪どい三人の農場主と対決することになるMr.フォックスの奮闘を、ストップモーションアニメの良さを活かしきってスピード感満載に描き出す。ウェス・アンダーソン作品の最大の魅力でもある、計算され尽くした画面作りの巧さは、ゼロから作り出すアニメーションの世界で最大級のパフォーマンスを見せる。キャラクター一匹一匹の毛並みまでしっかりと確認できるだけではなく、土の中のシーンでは構図の限界を感じさせない。

もちろん、随所に人間の傲慢さを風刺する描写を包み隠さずに見せつけるあたりは、いかにもダールの作品という感じがする。
2005年に日本でも大ヒットを飛ばした『チャーリーとチョコレート工場』と、そのオリジナル版でもある『夢のチョコレート工場』をはじめ、ダールの作品は児童文学でありながら、大人でも楽しめる少しビターなファンタジー作品が多いのが特徴だ。

それが顕著に現れているのが、今週末から公開されたスティーブン・スピルバーグの新作『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』。この苦みが、心温まる冒険ファンタジーの大事なアクセントになっているのだ。

『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』


BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント メイン1


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ロアルド・ダール生誕100周年を記念して製作された本作。原作は80年代に発表された「オ・ヤサシ巨人 BFG。ディズニーとダールのコラボレーションは、40年代に一度予定されていたが、頓挫してしまったようだ。
満を持して実現を果たしたこの夢のコラボレーションに、スティーブン・スピルバーグがメガフォンを執るという盤石の態勢が敷かれたのである。

序盤から、孤児院の窓から漏れる月明かりの美しさに心動かされ、BFGという巨人の登場。映像的なサプライズが溢れ、まるで夢を見ているような気分になるのである。中でも、BFGの暮らす家の奥のほうの美術は見事で、アメリカ同様に日本でも3D版の公開がされて欲しかったとつくづく思うばかりである。

もちろん、子供が見ても楽しめる作品にはなっているが、何よりも純粋な気持ちを忘れかけている大人たちにこそ必見の作品である。

(文:久保田和馬)

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