「君の名は。」「シン・ゴジラ」大ヒットの秘密? / 疾風怒濤!2016年夏休み興行の総括を試みる

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

「君の名は。」が大ヒットした理由を、色んな人に聞いてみた。

先輩 2016年夏休み興行を総括する試み、邦画篇第II部です。この夏、大方の期待を、もしかしたら東宝の人の予測をも大きく上回る大ヒットとなった「君の名は。」と「シン・ゴジラ」について語りたいと思います。ただし「シン・ゴジラ」に関しては、作品の内容や周辺について「君は『シン・ゴジラ』を見たか。」3部作で、たんまりと語っていますので、今回はビジネス的な視点でお願いします。

爺 で、どっちから検討する? 「シン・ゴジラ」か「君の名は。」か。

先輩 興収が多い順で、「君の名は。」から行きましょうか。公開後31日間の累計成績が、入場者数854万4969名、興行収入111億6597万300円。堂々たる大ヒットで、最終的にいくらいくのか分からない。

女の後輩 というか、最終見込みが聞く度に増えている(笑)。私が先々週あたりに耳にした数値は120億円でしたが、もう来週ぐらいには届きそうなので、またしても増額(笑)。

後輩 正月も続映するそうですから、もっと凄い数字が出る可能性もありますよ。

先輩 120億円といえば、宮崎駿監督の「風立ちぬ」が120.2億円だから、それを確実に上回るでしょうね。

爺 ふーむ。で、なんでこんなに大ヒットしたんだい?

先輩 いや、それを皆で話し合おうという座談会なんですが。

爺 わしは、いくら考えても分からないんじゃ。作品の質が良い。それはわしが見たって分かる。大変な傑作だし、感動的だし、画も素晴らしい。でも、過去そういう作品がこれほどの大ヒットになったことって、ジブリ作品以外なかったじゃないか。

後輩 大ヒット作というものは、そういう傾向にあるのかもしれませんね。何かひとつの要因で大ヒットしたのではなく、小さな要因が複合的に噛み合って、それで大ヒットとなる環境を形成した。だから一言で「こういう理由でヒットした!!」とは言い切れないと思いますよ。

先輩 そうなんだな。過去の大ヒット作の場合も、色んな人が「これだからヒットした!」と言うんだけど、どれも納得出来なかった。

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「東宝が配給したから大ヒットした?」

先輩 僕が色々な人たち、製作・配給・興行関係者に聞いてみたところ、一番多かったのが「東宝が配給したから大ヒットした」という意見です。

全員 (苦笑)

爺 まあ確かに、ヒット作の多い会社ではあるけれど、何でもかんでも「東宝だから」当たったってわけじゃないだろう?

先輩 ただ、優位性は持っていると思います。これは僕が考えたことですが、例えば8月26日という初日設定。「君の名は。」の主要観客になった中高生たちは、まだこの時期夏休みですよね。この映画をいち早く見たかった人たちが、夏休み中に見に行く。そして9月の新学期になって学校で映画の評判や内容を吹聴する。そこで一気に話題が広がるってことは、充分考えられることです。

女の後輩 確かに週末ごとの興収を比較していくと、第1週週末(8/27,28)に対して第2週週末(9/3,4)の成績が、上回っています。通常こういうことは、なかなか起こりません。

後輩 第1週週末の入場者数が68万7761名、興収9億2991万8800円。これに対して第2週週末の入場者数が86万7345名、興収11億6090万9500円。前週対比興収が24.8%もアップしています!

先輩 クチコミで大きく客足が伸びたということだろうな。それともうひとつ、配給会社の優位性を指摘するのならば、予告編が良かった。これは製作関係の人の意見だけど。

女の後輩 あれ、とてもキラキラしていて、キュンキュンきちゃいました。

先輩 気色悪い・・・(笑)。

女の後輩 なんだとっ!?(怒)

爺 やめんかっ!! 確かに予告編は力があったと思うぞ。というのも、昨今「この映画を見ることを、何を見て決めましたか?」というアンケートをとると、「予告編を見て」との回答がトップになることが多い。東宝はそれを重視して、予告編にはかなりの神経を使っていると聞くからな。

先輩 必ずしも予告編だけを見て、その映画を見ることを決めるのではないと思います。その前に雑誌やメディアで作品のことを認知し、最終的に予告編で「映像として」確認した上で、見るか見ないかを決めるのではないかと思いますが。

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「発見した」喜びを観客が感じた。

後輩 新海誠監督のファンが大挙押しかけて・・という側面もあるんじゃないですか?

先輩 いやいや。失礼ながら、新海監督の作品は今まで、今回ほど大規模に公開されたことがないから、言ってみれば「知る人ぞ知る」といったレベルだと思うよ。

爺 知り合いの興行関係者が言っていたが、「うちのコヤに来ている観客で、新海監督を知っているお客はわずかだろう」って。まあ例えば宮崎駿や庵野秀明みたいな知名度はまだないが、「これから国民的アニメ作家になるであろう監督」という認識はされたんじゃないかな。

後輩 従来新海監督の作品はコミックス・ウェーブ・フィルムが主体になって製作することが多かったんですが、今回東宝という大資本が参入してどうなるかと思いきや、新海監督の独自のタッチやストーリーテリングは健在。だから今まで新海監督作品を見たことのない観客たちにとっては、なんというか、とても「発見した」感じがしたのだと思います。

先輩 うん。その「発見した」感じというのは、とても大切だね。今、映画館で映画を見ている観客たちの中には、少なからずそういう欲求がある。「この監督を最初に認めたのはオレだ!!」みたいな(笑)。それだけ映画に関する情報が多すぎるからだと思うけど。

爺 こんな意見もあってな。「新海監督もさることながら、今回作画監督で安藤雅司、キャラクターデザインに「心が叫びたがってるんだ。」の田中将賀、そして音楽に今注目のRADWIMPSを起用するといった試みが行われた。あるシネコンの人は「うちは安藤さんが作画監督のジブリ作品も、『心が叫びたがってるんだ。』も上映し、たくさんのお客さんが来場されました。だから、それぞれファンがいる彼らが新海監督と組むのであれば、これは行けるだろうと確信しました」と言っていて、映画館の現場にいる人ならではの感触にもひっかかるものがあったようだな。

先輩 新海監督プラス気鋭のスタッフが集結したことは、作品のクォリティの高さを保証することにもなりますし、その中心である新海監督を「発見した」喜びにも繋がるというわけですね。

女の後輩 もちろん、作品そのもののクォリティの高さ、満足感といった要素もあった上でね。

爺 だからこういう場合、色々な要素はあるんだけれど、つまるところ作品の質の高さ、面白さから派生していることが多いんだよ。だから「作品が良かったから大ヒットした」という言い方になってしまう。なんとももどかしい。

後輩 で、「君の名は。」は最終的にいくらいくんでしょうか?

先輩 ううむ・・・僕の個人的予測では、興収120億円ぐらいかなと思っていたけど、たぶん次のサービスデーと日曜日(10/1,2)あたりでそこを超えそうだしなあ。

爺 勢いは本当に衰えない。あとこれまた東宝の配給力の強さなんだけど、スタート時点のスクリーン数301をずっと維持していることも大きいかな。いざ映画を見に行ったら、終了していたということがない。全国同じ鑑賞条件で映画を見ることが出来る。

先輩 これだけの大ヒットになったら、途中で興行を終える映画館なんてないですよ。

女の後輩 とりあえず、現時点では興収120億円「以上」は確実、ということになりますか?

先輩 そうしておこうか。これからどこまで数字を伸ばすか、まだまだ注目ってとこだね。

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

「シン・ゴジラ」もまたダウンが少ない推移

先輩 さて皆さん大好きな「シン・ゴジラ」ですが、7月29日の初日以来、従来の興行常識を覆すことが、色々と起こりました。これまでこの連載では「シン・ゴジラ」の内容的なものは扱いましたが、興行面については触れずにいました。今回は「シン・ゴジラ」の興行面においての特徴を語りたいと思います。

爺 全国441スクリーンで公開。初日だけの成績を上げれば、入場者数15万2030名、興収2億2106万4800円。金曜日の成績ということでは上々の部類だが、初日の成績としては、さてどうだろう。
先輩 初日の夕方、ある興行者から電話があり、「どう?『シン・ゴジラ』?」と聞いたところ「エヴァンゲリオンのファンらしい層は来ているけど、勢いは感じられない」とのことだったんです。

後輩 ところが、翌日からの勢いと来たら・・。

爺 元来ゴジラ映画は、2本のハリウッド版を除いて、すべて邦画系で、1984年公開の「ゴジラ」以来、正月番組として公開されていたんだよ。「ONE PIECE FILM GOLD」の時にも述べたが、正月は夏休みに比べて休日の数も少なく、しかも三が日を過ぎると極端に入場者数が減少するパターンが見られた。これまで東宝はゴジラ映画をファミリー映画として定義していたのも、そんな正月興行の休日で稼ぐことにウェイトを置いたのだが、今回は洋画系の公開で、しかも夏休み。

先輩 「ONE PIECE FILM GOLD」同様、夏休みがまるまる休日になり、しかも洋画系の上映ならばお客が来る限りロングランが出来る。

女の後輩 正月興行とは別の方法論で営業・宣伝展開が行われたというわけですね。

先輩 その通り。ただ宣伝に関しては、庵野秀明総監督の前作「エヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の時と同様、事前の情報を一切シャットアウトする方法がとられたのだが、実際にこの方法を行うに当たって、東宝の宣伝マンたちは相当不安感があったと思うね。

爺 こちらから作品内容をアプローチしたり、煽ったりしない。マスコミ試写さえ行わない分、もしも世間がこの映画のことを気にとめてくれなかったらどうしよう?という不安は絶対にあっただろうね。いつもは逆に、メディアに対してアプローチをするのが彼らの仕事だから。

先輩 ただ、これも「ヱヴァ:Q」の時と同じく、タイアップがもの凄い数、実現した。これは東宝社内に「ゴジ・コン」という横断的な組織があって、映画公開に先立ち、もう一度ゴジラのキャラクター・ビジネスを活性化すべく、大規模なタイアップを展開した。このことは「シン・ゴジラ」という映画だけでなく、ゴジラというキャラクターが、未だに人気と訴求力を持っていることを証明し、「シン・ゴジラ」が受け入れられる地ならしの効果を果たしたと思うぞ。

女の後輩 銭湯の画に至るまで、実に細かいタイアップをやってましたもんねえ。

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「平日も強く、リピーターも多い」。

先輩 興行が始まって、特筆すべきはダウンの少なさだ。第1週週末に対して、第2週週末が興収対比86.4%、第3週週末が第2週週末対比78.9%、第4週週末か第3週週末対比89.3%、第5週週末も第4週週末対比94.7%と、平均して8ガケを維持している。

後輩 「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」について触れた時、SF映画やアクション映画はダウンが激しいと言われましたが、そうではないんですね。

爺 「シン・ゴジラ」の場合は違ったね。しかも平日も強いから、極めて早いペースで興収50億円を達成し、現在累計興収73億6561万5000円。

女の後輩 リピーターもかなりの数、いるようですね。

先輩 それは作品の力だね。ああいう作品だから、1回見ただけでは情報を受け止めきれない。もう1回見ようという人も多かったということだ。

爺 そういう現象は、まさしくこれまでのゴジラ・シリーズの興行になかったものだよ。

先輩 それと、今回「シン・ゴジラ」の話題を大いに盛り上げたのは、ネット・メディアだと思います。ここも含めて(笑)。とにかくあらゆるメディアが「シン・ゴジラ」を扱いましたが、それぞれのメディアの特徴に沿った取り上げ方をしているのと、それぞれの記事にやたら力が入っている(笑)。

爺 それはマスコミ試写がなかったということが大きいと思う。取材がある人以外、試写を見ることが出来なかった。だから「シン・ゴジラ」について熱く語っている文章は、ほとんど書き手が映画館に行って、自腹を切って入場料金を払って映画を見たわけだよ。

先輩 試写で映画を見ると、「人より早く、タダで見せてもらったから、なるべき誉めてあげなくちゃ」みたいなしがらみが起こりがちですが(笑)。「シン・ゴジラ」の場合は「オレの金で見たんだ!! もとはとってやる!!」という気持ちで(笑)、言いたいことをぶつけた。その拡散が、「シン・ゴジラ」という作品を多角的に論じたり、あるいはこのキャラに萌えたとか(笑)。

女の後輩 「誰が何と言ったって、この映画のヒロインは市川実日子だ!!」って豪語した人もいたし(笑)。

先輩 尾頭さん・・・♡♡♡

女の後輩 やめんかっ!!!

後輩 とにかくネット・メディアで色々な「シン・ゴジラ」を語る記事が毎日アップされた。これはネットという速報性に優れたメディアならではですね。

先輩 雑誌や新聞も幅広く露出されたけど、やはりネット・メディアでの文章には熱いモノを感じたなあ。

爺 日本の映画宣伝・パブリシティで最大最高の成功例になるんじゃないかな?

先輩 やっばりこの結論になってしまうんですが、作品がそうさせるんでしょうね。あの映画を見たら、何か言いたくてたまらなくなる。語りたくてたまらない。それだけ話題性を喚起する情報が詰まっている作品なんですよ、「シン・ゴジラ」という作品は。

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田中友幸が「シン・ゴジラ」を見たら、どう評価するだろう?

爺 「シン・ゴジラ」の内容について、実はずっとずっと考えていたことがある。

先輩、あの、ご隠居、興行総括なんですが今回は。
爺 まあまあ、わしの遺言だと思って聞いてくれ。ずっと考えていたのは、「シン・ゴジラ」をあの男が見たら、どう評価するかということだ。

女の後輩 誰が・・ですか?

爺 田中友幸。

全員 おおっ!!

爺 ご存じのように、田中友幸はブロデューサーとして、最初のゴジラ、昭和29年版だな。これを製作し、以後1996年公開の「ゴジラVSデストロイア」まで、一貫してゴジラ映画を製作した偉大な人じゃ。

先輩 ご隠居は、田中プロデューサーとお会いになったり取材したことはあるんですか?

爺 残念ながらないんじゃよ。まあプロデューサーという存在は、資本の側に属するから、監督や脚本家のようにクリエイターとは見なされない場合が多いな。ただ田中友幸なくして「ゴジラ」は存在しなかった。これは事実だ。

先輩 確かに今回の「シン・ゴジラ」で外部から庵野秀明総監督を起用したあたり・・・。

爺 そうなんじゃよ。田中プロデューサーは、新しいタイプの作品を作る時、外部の才能を映画作りに参加させた。例えば最初の「ゴジラ」には、原作があってだな・・。

後輩 ええっ?「ゴジラ」って原作があるんですか?

爺 若いお前さんが知らなくても無理はないが、当時人気のあった幻想小説家・香山滋が田中プロデューサーの依頼に応じて検討稿と原作小説を書いているんじゃよ。文庫本にもなっているぞ。わしはずっと、この夏この文庫本を読んでいた。特に「G作品検討用台本」では、志村喬演じる山根博士の性格設定が違っていたり、なかなか興味深い。

女の後輩 田中プロデューサーが香山滋に「こういう映画を作る」とオーダーし、ストーリーの部分を創作してもらったっていうことですか?

爺 それと登場人物、設定もな。映画で最も大切なストーリーを、外部の才能に託したんじゃよ。そこから本多猪四郎監督や円谷英二特技監督が映画として創り上げていく。田中プロデューサーは、ゴジラ映画や特撮映画に外部の才能を起用することを、もう一度やっている。1984年版「ゴジラ」の続篇である「ゴジラVSビオランテ」の本編監督を、自主映画出身でまだ若かった大森一樹監督に委ねたんじゃよ。

先輩 もっとも大森監督は、「ゴジラVSビオランテ」に至るまで、斉藤由貴主演の「恋する女たち」「トットチャンネル」「『さよなら』の女たち」と3本、東宝映画で撮っていますが。

爺 それも東宝映画や東宝スタジオのスタッフとチームワークを高めるために、田中プロデューサーが配慮したんだろうな。で、「シン・ゴジラ」を田中プロデューサーが見たら、どう評価するか?という疑問じゃが、大森監督にメールで聞いてみた。

女の後輩 お知り合いですか?

爺 うん。まあちょっとな。そのメールの一部をここで披露しようと思う。ただし私信としてやりとりしたものなので、わしが編集したものを大森監督が確認していることを承知しておいてくれ。

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「ゴジラ映画には対戦怪獣が不可欠と決めた理由」

爺 まず大森監督は、「シン・ゴジラ」という作品の特徴を「ゴジラが単体ででてくること」。ここに注目しているんだ。
「これまでのゴジラ映画全30本のうち、ゴジラが単体で登場し、対戦怪獣がいなかったのは、最初の『ゴジラ』(1954)と1984年の橋本幸司監督版『ゴジラ』、ローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA/ゴジラ』(1999)、そして『シン・ゴジラ』の4本。その中で橋本監督の『ゴジラ』が最も『シン・ゴジラ』に近いように思います」。

先輩 そうそう。所謂ハチヨン・ゴジラ=橋本監督版『ゴジラ』は、『シン・ゴジラ』のベースになったと思われる箇所がいくつかあります。

爺 「そしてその橋本版は、田中友幸プロデューサーが満を持してゴジラ復活を賭けた一本です。当時、田中友幸プロデューサーの頭には、『ジョーズ』『キングコング』『エイリアン』(いずれも単体ものです)の大ヒットに、何よりも自作『日本沈没』の大成功があり、今こそゴジラ復活の思いに至ったと想像します。ですから『日本沈没』のスタイルを踏襲し、学者、ジャーナリストら専門分野の特別スタッフをクレジットして製作に臨みました」。

先輩 そう。橋本版『ゴジラ』には、各分野の専門家が特別スタッフとして参加していて、その中に田原総一朗さんもいた(笑)。

女の後輩 外部の人材を起用することを、ここでもやっていたんですね、田中プロデューサーは。

爺 続きを読むぞ。
「その内容も、現代に(当時の)ゴジラが現れたら、日本政府、自衛隊はどう対応するか、核兵器は使用されるかなど、概ね『シン・ゴジラ』のコンセプトに近いもので、その意味では“日本対ゴジラ”“現実対虚構”というのは、今回が初めてとは思いません。ただ、『シン・ゴジラ』は、圧倒的な量の情報と調査、さらには監督の才気で、それをはるかに凌駕するものになったことは誰の目にも明らかなことです」。

後輩 ・・・なるほど。

爺 橋本監督版「ゴジラ」はヒットしたものの、田中プロデューサーとしては、不満だったそうなんじゃ。
「橋本版『ゴジラ』は当時で320万人の観客動員で大ヒットを記録しました。しかし田中プロデューサーは、映画の出来には少なからず不満で、何よりゴジラの相手が日本というコンセプトはよかったのかと。政府の会議が続くと、子供が退屈して席を立って動き回っていた、その3倍も4倍も観客動員があった『モスラ対ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』は、子供も大人も怪獣対決で釘付けにしたではないか。やっぱり、ゴジラの相手は怪獣だ、次のゴジラはやはり対決物で行こうと。私に『ゴジラ2』の話が来た時、田中プロデューサーからは、そういうお話を伺いました」。

先輩 ゴジラ映画には対戦怪獣が不可欠というのは、田中プロデューサーの考えですが、それは映画館の内部を見て決めたことだったんだなあ。

女の後輩 この『ゴジラ2』が、やがて『ゴジラVSビオランテ』になるわけですね。

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「『シン・ゴジラ』の変態シーンは、田中Pが見たら絶賛されたでしょう」

爺 ここが面白い。
「田中プロデューサーが『シン・ゴジラ』を見て、これは絶対に絶賛されただろうと確信する映像表現があります。それは“ゴジラの変態”です。幼虫から繭を破って成虫になるモスラを例に出せばおわかりと思いますが、田中プロデューサーは怪獣の変態には並々ならぬ関心がありました。私の脚本で未映画化の『モスラ対バガン』に登場するバガンも、田中プロデューサーが創案した変身する中国の怪獣で、山の形状から怪獣に変身するものでした。ビオランテも第一形態から第二形態に変化するというのが脚本の注文でした。そこで『ゴジラVSキングギドラ』では、ゴジラに変身する前の恐竜、ゴジラザウルスをこちらから提案しました。多分『ゴジラの変態』は田中プロデューサーの願望だったのではないかと想像します。ただ、アナログ特撮の時代では一つの画面の中で変態するという表現は、最初から想定不能でした。それがデジタル、CGの時代になった『シン・ゴジラ』では、1カットの中で芋虫様の怪獣がゴジラへ見事に変態していきます。あれを田中プロデューサーが見たらきっと、“俺はこれを見たかったんだ!”と興奮されたに違いないと思います。着ぐるみゴジラでは不可能な映像表現が、初めてCGゴジラで可能になったあのショットだけでも、『シン・ゴジラ』はゴジラ映画史に残ると私も信じます」。

全員 おおおお・・・・!!!

先輩 本当に、見せたかったですね。田中プロデューサーに「シン・ゴジラ」を。きっと楽しんでくれたと思います。

爺 それと、これは大森監督自身の感想として、こんなことが書かれていたよ。
「個人的なことを申せば、もう一つ、ゴジラに対抗する兵器として、新幹線ほか在来線による列車爆弾です。あれは私が十年近くゴジラの脚本に携ってきて全く思いもよらないものでした。ゴジラの破壊対象物とばかり思っていた列車が、攻撃の材料となるとは!と感服した次第」。

女の後輩 ゴジラ映画という存在を、私は「シン・ゴジラ」で改めて認識しました。なぜこの怪獣が日本人をここまで熱くするのか。田中プロデューサーの製作者としての姿勢と、大森監督からのメールで、それが少し分かったような気がします。

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夏休みの日本映画、トータル興収は329億円。

後輩 ところで、「君の名は。」と「シン・ゴジラ」を加えた、今年の日本映画の夏休み作品の興収は、いくら行くんですか?

先輩 おっ、そうだったな。興行総括をやっているんだった(笑)。ただ、この2本の興収が未だ固まらないので、とりあえず「君の名は。」は120億円、「シン・ゴジラ」は75億円と仮定するよ。どちらも「120億円以上」「75億円以上」と解釈してくれてけっこうだ。興収10億円以上あげた8番組の興収を合計すると、329億円という金額が出た。

爺 昨年は?

先輩 231.6億円です。10億円以上は「バケモノの子」58.5億円、「HERO」46.7億円、「進撃の巨人」32.5億円、「ラブライブ!」28.4億円、「BORUTO」26.2億円、「ポケモン」26.1億円、「日本のいちばん長い日」13.2億円の7本。

後輩 洋画の分を加えて、興収10億円以上の作品は14番組。トータルすると528億円。

爺 ただし、10億円に満たない作品もプラスされるから、最終的には600億円は超えると思うけどな。

先輩 年間興収2000億円だった場合、夏休み興収のノルマというか配分は、500億円と言われているんだ。それを考えると今年は大成功なんだけど、「君の名は。」と「シン・ゴジラ」の分を引くと、333億円になっちゃう。

爺 まあともかく、「君の名は。」と「シン・ゴジラ」の大ヒットは、製作・配給・興行関係者に意識改革をもたらしたと思うよ。

先輩 観客の嗜好の多様性に対応出来てない部分がありましたからね。それは良いことだと思いますよ。

後輩 若い女性が怪獣映画を見ながら、サイリウム振り上げて絶叫する。こんなことが、この国の興行で起こるんですね。

女の後輩 起こるわよお。あんた、若いのに頭固すぎだよ。

先輩 まさか、行ったの?女性限定絶叫上映会。

女の後輩 あたぼうよ。さあさあ、これでお開き。皆で「君の名は。」と「シン・ゴジラ」を見に行くわよ!!

(文:斉藤守彦)

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君は「シン・ゴジラ」を見たか。

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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