雨を意識するフェリーニの名作とユ・ヒョンモクの名作

夏が進むにつれて、突然の雨に見舞われることが多くなった。毎年のことである。現実の世界でいきなり雨が降ってくれば、どこか避けられる場所に逃げたくなるのだが、これがスクリーンの中だと、なぜこうも魅力的に見えるのだろうか。

個人的に「雨の映画」という括りで何か紹介しようと思うと、どうしても『お引越し』で田畑智子が突然の土砂降りに遭う場面や、『東京上空いらっしゃいませ』のクライマックスシーンや、『台風クラブ』だったりと、やたらと相米慎二の映画を思い出してしまうのだけれど、一応このコラムがクラシック映画を扱う程でやっているから、なかなか80年代のような最近の日本映画は選びにくい。相米の作品はまた別の機会に取り上げるとしよう。

とはいえ、何か他に良い作品はないかと、記憶を辿っていくと、急に思いついた作品がまた87年の映画だったから、少し悩んだけれども、これがいいだろう。

フェデリコ・フェリーニ監督『インテルビスタ』

ネオレアリズモ時代から君臨するイタリアの巨匠、フェデリコ・フェリーニの晩年の傑作『インテルビスタ』だ。

イタリアを代表する映画撮影所〝チネチッタ〟の創立50周年記念作品として作られた本作は、フェリーニ自身が映画を撮影しているところを日本のテレビ局がインタビューに訪れ、過去のチネチッタスタジオでの思い出を想起させる作品になっている。

劇中にはフェリーニ本人を筆頭に、マルチェロ・マストロヤンニとアニタ・エクバーグが一緒に『甘い生活』を観たり、助監督のマウリツィオ・メインも出演するなど、現実と虚構の境界がわからなくなる作りがまた魅力的である。

劇中で、フェリーニが撮ろうとしているのは、ストローブ=ユイレが『階級関係』で映画化したのと同じ、カフカの『アメリカ』。その屋外シーンでの撮影中に、突然の雨に見舞われるという場面が印象的だ。

撮影中に大雨が降り、中断するというのは夏の屋外撮影では珍しいことではない。4、5年前に公開した沖田修一監督の『キツツキと雨』の中でも映画撮影の途中で豪雨が降ってくる場面が登場して、『インテルビスタ』を思い出してしまったのである。

その雨によって、映画が終盤に向かうという転換の役割を果たしているのだから、決して虚仮威しの雨降らしというわけではないのだ。

それでも本作のように突然振り始める雨が、ただ映し出されているだけでも、充分映画らしさというものは増していく。何せ、雨降らしのような効果を使った作為的な雨であっても、水の動きは人間の予想を超えるのだから。

ユ・ヒョンモク監督『長雨』

中には、雨が登場人物の感情から映画の抑揚をつける役割を果たすこともある。韓国映画が勢いをつけ始めてきた70年代に活躍した、ユ・ヒョンモクの『長雨』はまさにその典型である。

朝鮮戦争中、ソウルを離れ農村地帯の家に疎開した家族が、思想の違いから対立しあうこの物語は、韓国軍と人民軍に別れた義兄弟の視点と、それぞれの祖母が対立する視点、そして中立的な立場にある幼い子供の視点で描かれる、韓国映画きっての名作だ。

韓国映画の感情のつけ方は、日本映画やアメリカ映画、感情表現を抑えるヨーロッパ映画に比べると、かなり大味に観られてしまうことがある。序盤からしばらくの間、雨が降り続く劇中。ひとたび雨が止んだと思うと、大喧嘩の場面で荒れ狂う感情を表現するかのように再び雨が降り始め、さらに雷まで激しく響き渡る。たしかに大味な演出ではあるが、この激しさはこの時代の韓国映画でしか堂々とできなかっただろう。

不仲の祖母同士の片方で、良い人のほうを演じているファン・ジョンスンの演技また涙を誘うのである。さすがは出演作130本を超える大女優である。
この作品は日本ではVHSでしかリリースされていないが、韓国の映像資料院が公式にアップロードしているYouTubeで、英語字幕付きで観ることができる。必見の作品だ。

(文:久保田和馬)

    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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