「反戦」と「尊厳死」、命の重さを問うふたつの映画

現在公開中の映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』で描かれている脚本家ドルトン・トランボ(最近はダルトン・トランボで表記されている)。

ハーバート・ビーバーマンやエドワード・ドミトリクらと共に「赤狩り」の対象にされた彼は、下院非米活動委員会の証言を拒否したため議会侮辱罪で実刑判決を受けた。その後、映画界から追放。友人の名前を借りて「イアン・マクレラン・ハンター」として、かの名作『ローマの休日』の脚本を執筆したという逸話はあまりにも有名な話である。

『ジョニーは戦場へ行った』

彼が、晩年に唯一監督した作品が、『ジョニーは戦場へ行った』というあまりにも衝撃的な一本なのだ。

ジョニーは戦場へ行った [DVD]

第一次大戦へと出征したジョー・ボナムは、<生命不詳重症兵台407号>として、陸軍病院に運ばれた。手足を失い、延髄と性器だけが助かり、かろうじて心臓が動いている。しかし、そんな彼を軍医長のティラリー大佐は生き長らえさせるのだ。彼は病床に伏しながら、出征前の記憶を辿る。父と過ごした日々、恋人のカリーンとの出会いと別れ。そしてふと、彼は重要なことに気が付く。彼の顔は、すでに額の下まで無くなっているといたのだ。

助けてほしい、それができないのなら殺してほしいと、無言の叫びを続ける主人公の姿に、戦争というものが生み出した絶望を徹底的に見せつけたこの映画。第一次大戦後に実際に15年間生き長らえさせられた兵士の話を知り、トランボ自身が執筆した小説が原作となっている。

第一次大戦を描いた反戦小説の名作として、大きな話題となった作品であったが、その後の2度の戦争、第二次大戦と朝鮮戦争の際には発禁処分となった。そしてトランボは、それをベトナム戦争真っ只中の1971年に自ら映画化したのである。

トランボは当時のインタビューでこう語っている。「ベトナム戦争は第二次大戦の8倍の身体麻痺戦傷者を生んだだろう。完全な不能者は3倍。切断手術適用者は35%増になる」。そしてこう続けた。「こうした生ける屍の内、何百人ないし何千人が確実に我々の目に入っているのか? 時は迫る。死は健康な我々をも待ち受けている。」トランボは、30年以上の時を経て、再びベトナム戦争の時代に反戦と、命のメッセージを提示したのである。

そして、この映画は同時に「尊厳死」の是非を問う映画としても語られる。

尊厳死、つまり延命行為を中断することによって、死期を早めるということ。投薬などによって死期を早める安楽死と対照的に、消極的安楽死とも呼ばれる。
同じようにこのテーマを扱った作品といえば、アレハンドロ・アメナーバルの『海を飛ぶ夢』やドゥニ・アルカンの『みなさん、さようなら』が挙げられよう(ちなみに、最近公開された『ある終焉』や『ハッピーエンドの選び方』、森鴎外の『高瀬舟』は安楽死を描いている)。

『この生命誰のもの』

そして、現在日本では観ることができない作品ではあるが、ジョン・バダムの『この生命誰のもの』という作品もある。

Whose Life Is It Anyway? [DVD] [Import] (1981)

同作と『ジョニーは戦場へ行った』は、まるで対照的な印象を持つ作品ではあるが、主人公が持つ覚悟は共通している。

『この生命誰のもの』でリチャード・ドレイファス演じるハリソンは、首から下が動かなくなり、一生麻痺したままだと告げられる。鎮静剤を打ち続けられることを拒否し、死を待つことを決意する。延命措置をするのが医者の務めと主張するジョン・カサヴェテス演じるエマーソンと対立。裁判に持ち越され、彼の尊厳死が認められるかどうかが争われるのである。彼が最後まで求め続けるのは、唯一残された「意識」という希望なのだ。

患者の「自己決定権」は極めて重要な存在である。ただし、『ジョニーは戦場へ行った』のジョーのように、意思疎通ができない患者に対して、その決定権の所在がどこにあるのかは、いまだに議論の分かれているところである。

近年、世界各国で尊厳死のみならず安楽死も容認する動きが出てきている。日本ではかろうじて尊厳死は黙認されているが、安楽死は現在でも殺人罪に問われる可能性のある行為である。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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