映画コラム

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2016年09月13日

松田翔太版「探偵物語」!「ディアスポリス」は犯罪ロードムービーの傑作!

松田翔太版「探偵物語」!「ディアスポリス」は犯罪ロードムービーの傑作!

ディアスポリス01


(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会



すぎむらしんいち画、リチャード・ウー(長崎尚志)原作の人気コミックを、松田翔太主演で実写化したTVドラマ「ディアスポリス 異邦警察」。

本作「ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-」は、その待望の劇場版だ。監督に「私の男」の熊切和嘉監督、主人公の久保塚役を松田翔太、相棒の鈴木役を浜野謙太、裏都庁の助役・阿さん役を柳沢慎吾と、ドラマ版のキャストがそれぞれ演じ、須賀健太、NOZOMU、安藤サクラらの若手演技派俳優陣が脇を固める本作。特に今回の劇場版は、原作マンガでも人気の高い「「ダーティー・イエロー・ボーイズ」篇の実写化ということで、原作ファンやドラマのファンの間でも期待が高かったのだが、果たしてその出来栄えは?

ストーリー


東京在住の密入国外国人たちが、自分たちを守るため組織した秘密組織「異邦都庁(通称・裏都庁)」。その異邦警察「ディアポリス」の警察署長として、国籍不詳の久保塚早紀(松田翔太)は、奮闘の日々を送っていた。ある日、誘拐された裏都民の風俗嬢の監禁先を見付けたものの彼女は殺害されてしまう。相棒の鈴木とともに捜査に乗り出した久保塚は、ヤクザ組織の若頭・伊佐久から、殺害現場から逃げた若者たちが、留学生崩れのアジア人集団「ダーティー・イエロー・ボーイズ」の周(須賀健太)と林(NOZOMU)だとの情報を得る。関西方面へ殺しと逃亡を続ける彼らを追跡する久保塚たちだが、周と林はダーティー・イエロー・ボーイズを乗っ取り、ある計画を進めていくのだった。果たして、久保塚と相棒の鈴木は、彼らを止めることが出来るのか?

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(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会



とにかく脇役に至るまで、魅力的な俳優たちが勢ぞろい!


テレビドラマ版でお馴染みのキャラクターたちはもちろんだが、新たに本作で登場する犯人役の須賀健太とNOZOMUの演技と存在感!理不尽な理由により母国で迫害を受け、国を追われた者たちの悲しみと狂気を見事に演じきっているので、要チェックだ。

それに加えて是非注目して頂きたいのが、数々登場する脇役や、強烈な印象を残す外国人俳優たち!

特に個人的に印象に残ったのは、周や林たちと行動を共にするホセ役のOMSBの自然な演技だ。ヒップホップユニット「SIMI LAB」のメンバーである彼が放つセリフ!これが自然とフリースタイルっぽくなる感じは、さすが本物だと思わされた。

ちなみにOMSBは、過去にドキュメンタリー映画「The COCKPIT」に出演しているが、本作の見事な演技により、本格的な役者としても十分に活躍出来ることを証明したと言っておこう。。

あと個人的なオススメは、「ダーティー・イエロー・ボーイズ」関東支部長のウルフを演じた俳優なのだが、その強烈な個性は是非劇場でご確認を!。

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(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会



賛否両論、余韻を残すラストシーン


残念ながら、ネットでの反応で目立つのが、「あまりに救いの無い展開なので、テレビシリーズの感じと違っていて違和感がある」、あるいは「ラストシーンが良く分からない」、との意見だ。確かにテレビ版とは違い、本作はロードムービーの形を取っているし、なぜ久保塚が犯人たちの命を救おうとするのか?の理由が、映画の中では明確には説明されていないため、そこにいまいち乗り切れない方も多いのではないだろうか。

事件の決着と、それに続くラストシーンも、あえて明確な結論を観客には提示せず、観た人それぞれが自由に考えられる物となっている。最近の傾向である、何でもかんでも説明します、という親切過剰サービス映画とは一線を画す作品なので、そこは観客側にも一定の理解力が要求されるのは仕方がないところなのではないか。

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(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会



「探偵物語」ファンも必見、蘇る工藤俊作!


テレビ版と違って本作ではセリフも少なく、かなりハードなキャラクターを演じる松田翔太。今回観ていて気が付いたのだが、ふとした仕草が完全に松田優作にオーバーラップするのに驚いた!普段はいいかげんな男だが、不法滞在の外国人たちを何とか救おうとする、その内に秘めた「熱さ」を、言葉でなく行動で表現する主人公!今回の作品内容からしても、本作は正に松田翔太版の「探偵物語」だと言えるだろう。

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(C)リチャード・ウー,すぎむらしんいち・講談社/「ディアスポリス」製作委員会



最後に


類似の作品として「探偵はBARにいる」シリーズの様な、「エンタメ系バディ物」的な内容を期待して観に行くと、正直違和感を持たれるかもしれないが、劇場版ならではのハードで救いの無い展開と、セリフを一切排除した本作のラストは、正に大正解だったと言える。

久保塚と相棒の鈴木、この二人もまた日本では異邦人なのだ、という点を見事に表現したラストであり、異邦人として日本で生きていく以上、所詮は傍観者とならざるを得ない主人公の境遇を描いた作品として、本作は大いに評価出来る。もちろん、原作マンガやTVドラマ版を見ていなくても、独立した作品として十分に楽しめるし、逆にこの劇場版を鑑賞後に、原作やドラマ版に触れて頂いた方が、より劇場版のメッセージを理解しやすいのではないだろうか。

「君の名は。」や「シン・ゴジラ」にいまいち乗り切れない方、是非この「ディアスポリス」で、リアルな現実に向き合ってみては?

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(文:滝口アキラ)

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