『栄光のランナー』を五輪開催中に観るべき5つの理由!オリンピックの精神性が現れた傑作だ!

栄光のランナー/1936 ベルリン2
(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

8月11日(木・祝)より、『栄光のランナー/1936ベルリン』が公開されます。
本作は実在の陸上選手ジェシー・オーエンスを描いた伝記映画。そして、リオオリンピックが開催されているいまでこそ観るべき作品であると、強く思うことができる傑作でした!

その理由を、以下に紹介します。

1.“ヒトラーのオリンピック”に反旗をひるがえす物語だった

副題が示す通り、本作はドイツのベルリンで1936年に行われた夏季オリンピックが舞台。初めて聖火リレーが行われた大会としても知られています。

実は……このオリンピックは、ヒトラーによるプロパガンダ(政治的宣伝)でもありました。その目的は、白人の優秀性を広め、ナチスドイツの力を示すという、人種差別的なものです。このプロパダンダへの反発の声も当然あり、アメリカではオリンピックをボイコットするべきであるという世論が強まってしまいます。

もちろん、黒人のジェシー・オーエンスにとってもナチスの人種差別政策は認め難いものであるので、“自分が出場するべきなのか”と深く悩むようになります。自分のせいで、そのプロパガンダを後押ししてしまうのではないかと……。

彼がどのように苦悩を乗り越え、差別と偏見がはびこるオリンピックに、どのような成績を残すのか。そこが見所になっているドラマなのです。

2.“表面的には”人種差別をしていないように見えたオリンピックだった

このオリンピックで巧妙なのは、宿舎や食堂を人種で隔離しないなどで、表面的にはヒトラーの人種差別的な面が現れていないことです。
(これはヒトラーの宣伝相・ゲッペルスが、オリンピックの政治利用について “ドイツに悪しき思想がないと他国に信じ込ませる”ことを熱心に説いたおかげだそうです)

しかし、その“中身”はやはり差別と偏見に溢れています。ヒトラーはオーエンスとの面会を拒否するばかりか、400メートルリレーに出ようとした二人のユダヤ人が出場できなくなったりするのですから。

また、当時はテレビがなかったため、ヒトラーはオリンピックのドキュメンタリー映画を作って全世界に映像を発信しようといたのですが……女性監督に「オーエンス(黒人)を撮るな」ときっぱりと命じていたりもするのです。

この“表面上では見えなくても、裏では差別がはびこっている”ことが、なんとも嫌悪感を煽ってくれます。これは今の世にも少なからず残っている、差別や偏見にも当てはまるのではないでしょうか。

栄光のランナー/1936 ベルリン1
(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

3.“圧巻の長回し”を体感せよ!

圧巻なのは、オーエンスがはじめてベルリンの会場に行ったときの、すさまじいまでの長回し! “会場内ではこうだった”という事実をつきつけるこのシーンは、鳥肌が総立ちになりました。

カットなしの長回しで撮ったことで、一気にオーエンス(と観客)を“四面楚歌”の状況に追い込むことにも成功しています。
この状況に立ち向かうために、彼にはどれほどの精神力が必要だったのか……それをまさに“体感”できるこのシーンだけでも、必見と言えるでしょう。

また、レースシーンそのものに迫力があり、かつ不自然に“スロー”を使ったりしないことも大好きでした。このおかげで、ひとつひとつのレースが短くとも、とても濃密で重要なものに思えてきます。
これは、実際のオリンピックを観るときのような、“擬似リアルタイム”のような感覚にも一役買っていますね。

4.友情の物語でもあった!

映画の序盤は、人種差別や裏取引といった対立のドラマ、オーエンスとその妻の絆などが丹念に描かれているのですが、終盤には “友情”が深く描かれるようになっていきます。

その友情の相手とは、ドイツの陸上選手ルッツ・ロング。彼とオーエンスは人種も境遇も違う、同じ競技でのライバルどうしにも関わらず、お互いに尊敬の念を抱くようになるのです。

ジェシー・オーエンスは以下の言葉を残しています。

「競技の場で生まれた友情こそが、真の金メダルである。
メダルは腐食するが、友情は色あせることはない」

オーエンスは愛する妻や頼れるコーチがいたほか、「走っている10秒は黒人も白人もない、速いか遅いかだけだ(In those ten second, there’s no black or white, only fast or slow.)」という信条を持っている強い人間でした。

しかし、周りが差別や偏見だらけの会場では、とても心細く、さすがの精神力も保てなかったのではないでしょうか。
その場所で培った友情は、何よりも美しく、強固なものに思えました。

栄光のランナー/1936ベルリン サブ1
(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

5.原題『Race』の意味も奥深い!

『栄光のランナー/1936ベルリン』という邦題に対し、原題は『Race』とシンプルです。
このRaceは、“(競技の)レース”のほかに、“人種”という意味もあります。劇中でオーエンスが「あなたはレースが好きか?(Do You Love Races?)」と答うシーンも“レースが好きか?”と“人種が好きか?”のダブルミーニングと言っていいでしょう。

タイトルに冠詞が付いていないのも意味深です。“The”は特定のものからひとつを限定する表現なので、多種多様な人種の活躍を肯定する本作のタイトルには不要なのです。

また、全ての人種(Race)は、同じ人間として見られるべきなので、複数形の“s”も付いていないのでしょう(もともと人種という意味でのRaceは不可算名詞なのですが)。このタイトルは“世界中の人たちは、たったひとつの人種である”ということも訴えていたのかもしれません。

そういえば、『her/世界でひとつの彼女』も、タイトルに冠詞も複数形も付いていませんでしたね。このタイトルも、映画を観れば大納得できるものでした。

栄光のランナー/1936ベルリン
(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

まとめ.オリンピックの精神が現れた作品である

“オリンピックの父”と呼ばれるピエール・ド・クーベルタンは以下の言葉を残しています。

「オリンピックでもっとも重要なことは、勝つことではなく参加することである」

(もともとは主教が述べた戒めの言葉)

「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」(オリンピックのあるべき姿、オリンピズム)

クーベルタンは、オリンピックにおいては、相手を打ち負かすことではなく、いかに公正に奮闘したかが重要であると、宣言しているのです。

本作『栄光のランナー/1936ベルリン』で描かれたことは、このクーベルタンの精神に反する“ナチスのプロパガンダによるオリンピック”でした。また、ジェシー・オーエンスのように人種差別を受けていたスポーツ選手は少なくありません。現在のリオ五輪においても、完全にこうした人種差別が撤廃できているとは、断言できないところがあります。

そのため、本作はオリンピックが開催されている、いまでこそ観る価値がある作品なのです。選手はもちろん、競技を見ている私たちが、この言葉を知り、本作を観ることで、人種差別が如何に悪しきものであるか、それに屈しないオリンピックの精神がどれだけ尊いかを、再認識できる重要な機会なのですから。

もちろん、オリンピックを抜きにしても、ひとりの男の数年間を追った、友情、挫折と成長の物語としても存分におすすめします。
人種差別とスポーツを扱った映画では『42 世界を変えた男』とも似ているので、こちらも機会があればぜひ観てみてください!

(文:ヒナタカ)

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