映画コラム

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2016年12月14日

「淵に立つ」は必見の問題作!「地獄の寅さん」浅野忠信は、実は無実だった?

「淵に立つ」は必見の問題作!「地獄の寅さん」浅野忠信は、実は無実だった?

「淵に立つ」メイン


(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA



「歓待」「ほとりの朔子」などで世界的注目を集める深田晃司監督が、浅野忠信主演でメガホンをとり、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した人間ドラマ、それがこの映画「淵に立つ」だ。

静かな狂気を秘める主人公を浅野が熱演し、彼の存在に翻弄される夫婦を「希望の国」「アキレスと亀」の筒井真理子と「マイ・バック・ページ」の古舘寛治がそれぞれ演じる本作。上映館を移しながらロングランを続ける本作の内容と出来は、いったいどうだったのか?

ストーリー


下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた鈴岡利雄・章江夫婦とその娘・蛍の前に、利雄の昔の知人である前科者の男・八坂が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。
8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから、遂に八坂の消息をつかむのだが、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。そして迎える悲劇的な結末とは?


「淵に立つ」サブ11


(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA



浅野忠信、実は無実説の根拠とは?


本作で重要な要素となるのが、浅野忠信演じる八坂が8年前に起こしたとされる、ある悲劇的な事件だ。
本編中でも、一見彼が手を下した?かの様に見える形で描かれているのだが、残念ながらその明確な描写は、映画の中には無い。
しかし実は、良く見ると本編中に「重大なカギ」が隠されているのだ。

八坂が失踪後、鈴岡夫婦を尋ねて来るのが、八坂の息子である孝司。その後の映画の展開を見ていくと、実はこの息子の行動が、そのまま8年前の八坂の行動をトレースしているのに気が付く筈だ。

本編中には孝司がふとした好奇心から、重度の障害で寝たきりの蛍の顔に触れようとして、章江に「娘にいたずらしようとした!」と勘違いされて責められ、そのまま家から失踪するという描写がある。
この描写から考えれば、8年前の八坂の行動も彼自身が手を下したものでなく、息子の孝司と同様に「勝手な勘違い」だったと考えることが出来る。

そう考えると、実は鈴岡夫婦の思い違いが原因となり、無実の八坂を死に追い込んだばかりか、跳ね返って自分たちまでも8年間苦しめ続けたということになり、本作の悲劇的なラストの重さが更に倍増する筈だ。これから劇場で鑑賞される方は、是非その辺りにも気をつけて頂ければと思う。

「淵に立つ」サブ8


(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA



最後に


日常の平和な生活に入り込んだ、ちょっとした異物。それをきっかけにして、遂には崩壊してしまう家族の姿を、一切の容赦無く描いた傑作、それがこの「淵に立つ」だと言える。
ただ、そのぶった切った様なエンディングのせいで、正直観客の賛否が分かれているのも事実。
問題はこの映画を通して、観客がそこに何を見るか?だろう。

ニーチェの有名な言葉である、「深淵を覗く時、深遠もまたこちらを覗いているのだ」の通り、見た者の心の中がそのまま自分に跳ね返ってくるような映画だけに、観客側にもそれなりの理解力と想像力が要求されるのは、当然と言えば当然かも知れない。

本作を未見の方は、是非劇場に足を運んで頂いて、果たして自分の心の淵の向こうに何があるか、それを確かめてみては?

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(文:滝口アキラ)

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