日韓の美しき懸け橋となる愛の映画 『ひと夏のファンタジア』チャン・ゴンジェ監督インタビュー

なら国際映画祭の映画製作プロジェクト“NARAtive”2014年度作品として製作され、昨年の第37回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)でもサプライズ上映された『ひと夏のファンタジア』。

奈良県五條市を舞台にしたチャン・ゴンジェ監督の日韓合作映画が、ようやく日本でも劇場公開されます……

ポスター ©「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2016

キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.139

今回はチャン・ゴンジェ監督インタビュー!

異邦人の目線で綴られる
映画と愛、ふたつのドラマ

『ひと夏のファンタジア』のストーリーは、映画製作のシナリオハンティングのために奈良県五條市を訪れた韓国の映画監督が、そこで現地のさまざまな人々と邂逅していく前半と、そこから生まれた実際の映画そのものを見せる後半、といった2部構成がなされています。

ユニークなのは、前半部がモノクロ映像で、後半部の韓国人女性と現地日本人の男性の淡い恋模様がカラーで綴られていることで、これによってドキュメンタリー・タッチの前半が妙にファンタジックなものとして映え、対する虚構のドラマたる後半が、異邦人の目で捉えた日本として、前半部とはまた違った意味でファンタジックに映えていくことです。

また前半部で通訳者を演じていたキム・セビョクが、後半部のドラマではヒロインを演じるなど、同じ俳優が双方で異なる役を演じていることで、見ている側がどこかしら惑わされているかのような錯覚を覚えてしまうというのもユニークな趣向ではあります。

監督のチャン・ゴンジェは1977年生まれ。

男子高校生の葛藤を描いた2009年の監督デビュー作『つむじ風』がバンクーバー映画祭グランプリに輝き、自身の結婚生活をベースにした『眠れぬ夜』(12)は全州映画祭グランプリと観客賞をダブル受賞し、本作も韓国で大ヒットを記録するとともに釜山国際映画祭監督組合賞を受賞しています。

では、それそろチャン監督のインタビューを始めてみたいと思います。

監督PHOTO1

©「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2016

まるでクロッキーのような
シンプルで奥深い映画

―― 『ひと夏のファンタジア』、大いに楽しませていただきました。当然かもしれませんが、韓国人のチャン監督の目線で捉えられた奈良県五條市が、われわれ日本人の目線で捉えられたものとは大いに異なる独自の魅力を発していて、そこがとても新鮮でユニークです。

「この映画は、なら国際映画祭の映画製作プロジェクトとして、奈良県五條市で撮ることが絶対条件でしたので、まずは五條を舞台に何を撮ればいいのか、シナハン(シナリオ・ハンティング)でかなり歩き回った思い出があります(笑)。
もともとは河瀨直美監督からいただいた企画でもありますが、彼女の作品の大ファンでしたので本当に嬉しかったですし、何が何でもこの企画は成功させねばと奮い立ちました」

 

―― 今回はどういった発案で、二部構成のラブストーリーというスタイルに行きついたのでしょうか?

「第1部は韓国の監督がシナハンのために五條を訪れるという内容で、第2部はその結果出来上がった作品といった構造になっていますが、もともとはそれぞれ別のものを作る予定でいたのです。でも実際に五條の町を歩き、一度韓国に戻って調査した取材などを文字に起こしていく中で、いっそこのときの自分の体験を反映させていくのが面白いのではないかと思うようになり、そこで第1部のシナリオを完成させたのですが、そうなると必然的に第2部の構想も違う形に変わっていきました。
しかしスケジュールの関係で、予定よりも半年早く、急きょ夏にすべてを撮らなくてはならなくなってしまい、第2部のシナリオが未完成のままクランクインせざるを得なくなったものですから、ならばラブストーリーにしようという漠然とした意図のもとで、現場で俳優さんたちと毎日相談しながら、かなりの部分を即興で演出していきました。ですからこの映画は絵にたとえるとクロッキーのような映画だなと、自分では感じています」

 

―― クロッキーとは言い得て妙ですね。シンプルな中に奥深さがある。

「ありがとうございます。第2部のクライマックスで男女が抱き合うシーンも、撮影の段階でキム・セビョクにはある特定の台詞を言うようにお願いし、対する岩瀬亮さんには彼女を抱きしめてキスするようにと、それぞれ別々のミッションを与え、スタッフには1回しか撮らないから絶対に技術的なミスはしないようにと念を押し、それでやったのがあのシーンなのです。撮影後スタッフもかなり驚いていましたね」

 

―― 撮影の藤井昌之、照明の松隈信一と、日本人スタッフを起用した理由は?

「もともとは河瀨さんが推薦してくれたかたがたですが、キャメラの藤井さんは私が大好きだった篠田昇さんに就いていた人なので、私からもぜひにとお願いしましたた。さすがにいつもの韓国人スタッフではないということで、現場に緊張感はありましたが、大先輩で頼れる部分も多かったですし、いろいろ相談しながらやらせていただくこともできました。また、やはり日本人スタッフは仕事が早くて正確だなという印象を受けましたね」

ドキュメント・タッチのファンタジーと
虚構のドラマの持つリアル

―― 1部がドキュメンタリー・タッチで、2部は完全なる虚構としてのドラマなわけですが、不思議なことに1部のほうがモノクロームの映像も功を奏して、むしろファンタジックに映えている印象を受けました。逆に2部のドラマはひじょうにリアルな印象です。そこは狙っていました?

「自分で意図したというよりも、やはり作っていくうちにそうなっていったというのが正しい言い方のような気がします。確かに、既にご覧になったかたがたからも2部のほうが現実的だという意見は多数聞きました。自分たちがいつも見ている世界はカラーなわけですから、どうしてもモノクロで撮った1部のほうがファンタジックで抽象的に捕らえられるのでしょうね」

 

―― そもそも、なぜ1部をモノクロームで撮ろうと思われたのでしょうか?

「まずは五條を訪れたとき、現代の地方都市特有のどこか活力をなくした弱々しいダウンしたものを感じまして、それを画で表現するにはモノクロームがふさわしいのではないかと。また1部は町の人々に取材していく構成でしたので、モノクロ写真のような感じにしたいと思いました」

 

―― 1部に登場する少女も、不思議なイメージを引きずっていますね。

「あの少女は、ケンジ(康すおん)の小学校のときの初恋の子というイメージなのですが、監督のテフンが思い描くファンタジーのインスピレーションとして登場させています。あのシーンを撮影した篠原という村の真横には渓谷があって、その隣に小学校があるのですが、大雨のときとかに子どもたちが川に呑み込まれることもあったのではないかと想像し、もしケンジの初恋の女の子も溺れ死んでしまっていたら? という設定を考えてみたのです。だから登場する彼女はずっとずぶ濡れの姿なのです。ただ、撮影のときは日本側のスタッフが『リング』の貞子みたいだとからかったりもしていたのですが、この映画は決してホラーではありません(笑)」

 

―― おそらくは監督が五條という町をシナハンで歩いていくうちにファンタジックな情緒を感じ、それが第1部に反映されていったということなのでしょうね。

「というよりも、この映画の制作過程そのものがファンタジーであったという印象があります(笑)。日本の映画界でも五條での撮影は珍しいことだったそうで、要はみんなが知らないところに集まり、知らない人同士で寝泊まりしながら作り上げた。その感覚がファンタジックなのです」

映画としての曖昧な心地よさを
楽しみながらの撮影

―― 監督役を自分で演じようという発想はなかったのですか?

「実は河瀨監督から、それを強く要求されたのですが(笑)、もしそうするならば、撮影監督は韓国人にしてほしいと逆にお願いしたのです。自分が出演してしまうと、どうしても現場全体を自分でひっぱっていくことができなくなる部分もありますので、そうなるとやはり言葉の通じる撮影監督がいてくれたほうがいい。
ですから、最初は藤井さんの推薦もお断りして、ある時期まで自分が演じる予定で準備を進めていたのですが、急に韓国側の撮影監督が撮影に参加できなくなってしまい、そこで自分が出ることを諦めて、藤井さんに参加してもらうようになったというのが真相なのです。
本当に二転三転、行き当たりばったりの制作体制でしたが、結果としては監督役のイム・ヒョングクさんの佇まいや存在感などのほうが、よりドラマチックなビジュアルとして映えていますし、画そのものも藤井さんの撮影によって、よりクオリティの高いものになったと思っています」

 

―― キム・セビョク演じる二役のヒロインに対する監督の想いは?

「まず、日本語がある程度できる韓国の女優さんということでキム・セビョクさんを紹介してもらい、とても前向きなエネルギーを感じまして、ぜひ一緒に仕事してみたいと思いました。もともと彼女は1部だけの出演予定だったのですが、撮っていくうちに2部も彼女でいったらどうだろうかと思うようになり、そのまま即興的に引っ張っていったという感じです(笑)」

 

―― 1部で通訳を演じていた彼女が、そのまま何の説明もなく2部でヒロインを演じているので、正直最初は混乱してしまいましたが、その混乱もまた観客を迷宮に誘い込むための狙いなのかなと。

「さて、どうでしょう(笑)。でも、彼女が2部でどんどん綺麗になっていく感覚を受けると、ご覧になったかたがよく言ってくださいますね」

 

―― 映画ならではの、どこか曖昧な心地よさが満ち溢れています。

「実を言いますと、私たちも撮影しながら、その曖昧な心地よさを楽しんでいました。何だかキム・セビョクさんをだましているのではないかという気持ちで撮っていたのは事実です(笑)」

 

―― いずれにしましても、普通ならば2部のラブストーリーだけでも映画として十分に成立するものを、こうした不思議な形に仕上げたこと自体、監督の挑戦だったのかとも思えます。

「お恥ずかしい話ですが、この映画は諸条件が厳しく苦しい中、まずは完成させることが目標だったのです。しかし、撮っているうちに、これは運のいい映画だなと思えるようになっていきました。ただ、この運はそうそうついてくるものでもないので、常に気持ちは引き締めておかないといけないですね(笑)」

 

―― 韓国ではインディペンデント映画としては異例のヒットを記録しています。その要因は何だと思われますか?

「うーん。劇中の90パーセントは日本語の台詞が飛び交う映画を、韓国の映画ファンが韓国映画として受け入れてくれたことが、自分としては不思議というか驚いていますが、公開された6月という時期は、韓国の映画市場ではパワフルな超大作などが勢揃いするので、逆に『ひと夏のファンタジア』みたいなものはのんびり見られるものとして歓迎されたのかもしれません」

 

―― チャン監督は成瀬己喜男監督の『乱れ雲』などがお好きと聞きまして、やはりと思いましたが、逆にドンパチまみれの映画を撮りたいとは思いませんか?

「映画ファンとして見る分には、三池崇史監督や園子温監督の作品も大好きなんです。でも自分で撮るとなると、なぜかこういったロマンティックな方向へ流れてしまいますね。でも、いずれはそういったものもやってみたいと思います(笑)」

監督PHOTO2

©「ひと夏のファンタジア」プロジェクト2014-2016

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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