広瀬すず、限界を超えた過激な演技!映画「怒り」は女優魂のガチ勝負!

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

2010年公開の大ヒット映画「悪人」を世に送り出した、原作吉田修一X監督・脚本李相日の名コンビが、豪華キャスト集結で再び世に問う話題作、それがこの映画「怒り」だ。

残念ながら「聲の形」や「BFG」と同時期公開のためか、初日の夜の回で鑑賞した時には、場内は3割ほどの入り。年齢層的にも若干高めで、広瀬すずや綾野剛のファン層はアニメの方に行ってしまったか、と思ったのだが、公開初週の興業成績ランキングでは、見事第3位にランクイン!映画の内容的にも、スタートダッシュで爆発的ヒット!というよりも、実際に観た人たちの口コミで噂が広がっていく性質の作品なので、今後1位になる可能性は十分あると思われる本作。その内容の凄さや高い評価も、そろそろ皆さんの耳に届いている頃ではないだろうか。

「悪人」同様、非常にシンプルなタイトルである「怒り」。果たして、この言葉に込められた意味とは何か?そして、気になるその内容とは?

ストーリー

八王子で突然起こった、夫婦惨殺事件。壁に「怒」の血文字をのこした犯人は、自身の顔を整形して逃走を続けていた。事件発生から1年後、千葉、東京、沖縄の別々の土地に、ほぼ同時に素性の知れない3人の男が現れた。果たして彼らの内の誰かが殺人犯なのか?運命のいたずらからか、彼らと関わりを持った人々にも、やがて人生を大きく狂わせる出来事が訪れようとしていた。
「愛した人は、殺人犯だったのか?それでも、あなたを信じたい。そう願う人々に、信じたくない結末が突きつけられるー」(宣伝コピーより)

本作のタイトル「怒り」が意味するものとは何か?

作品中、犯人と繋がりのある犯罪者の口から語られる、そのあまりに身勝手で自己中心的な犯人の殺害動機。

周りの人間からの尊敬も得られず、注目もされない境遇の中、そんな周囲の人間達を見下すことで、かろうじて精神の均衡を保っていた犯人。彼を残忍な殺人へと走らせたものとは、いったい何だったのか?

実はそれは、自分自身の中の「弱さ」に対する「怒り」に他ならない。そう、タイトルの「怒り」とは、正に自分自身に対する「怒り」なのだ!(この部分は、妻夫木聡と綾野剛のエピソードのラストに良く現れている)

人を信じたい、愛したいと願いながら、それでも心のどこかで疑心暗鬼に陥ってしまう人間の弱さ。本作のタイトル「怒り」とは、そんな人間の弱さに向けられた、心の叫びとも言えるだろう。

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

現代の人間関係の危うさ、それでも人は誰かを信じたい生き物なのか?

実は、本作の登場人物たちが度々口にする印象的なセリフがある。

「この人といると、ほっとする」、がそれだ。表面上は、「この人といると安心出来る」、あるいは「信頼出来る人と出会えて幸せなの」的な意味に聞こえるかも知れないが、実際はその真逆の意味で使われていることに気付いた時、この映画が内包する真のテーマが見えてくるに違いない。

なぜ、映画の登場人物たちが「ほっとする」のか?それは、自分よりも相手の方が社会的に弱い存在だったり、自分の秘密がバレる心配のない存在だったり、するからだ。それは単に自分の都合、自己中心的な思いからであり、そのためにほんの小さな疑惑が元で、一見純粋で強い絆のように見えていたものが、簡単に崩壊していく。いや、最初から彼らの心の中には、ずっと相手に対する不信感や疑惑が潜んでいたのかも知れない。

もしかしたら、人間はそれでも誰かを信じたいと願う生き物なのだろうか?時には失敗し、裏切られ傷つきながらも、人は他者との繋がりを求めずにはいられないのだろうか?

もう一つ、本作の重要なテーマがある。それは、「過去に人生が破綻した者が、再び平穏で幸せな時間を取り戻せるのか?」、ということ。

本作で、この問いに答えと救いを見出すのが、宮崎あおいのエピソードでの結末だ。

映画「怒り」では、東京・千葉・沖縄の3つの土地で、それぞれのエピソードが同時進行で描かれ、どれも現実的で厳しい内容と結末が用意されているのだが、唯一明るい希望を残すのが、この宮崎あおい主演による千葉でのエピソードなのだ。人生を見失っていた彼女の成長を描きながら、しかも見事に映画の冒頭にリンクするという、このエピソードを観るためだけにでも、劇場に足を運ぶ価値は十分にある!とだけ言っておこう。

まるで脆い砂の上に建てられた城のような、現代の人間関係。李相日監督がこの映画に込めたメッセージを、是非ご自分の眼で確かめて頂きたいと思う。

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

妻夫木聡×綾野剛だけじゃない、実は女優陣の真剣勝負も見所!

実は映画を観る前、予告編の印象では妻夫木聡と綾野剛のパートが、一番衝撃的な内容だと思っていたのだが、それは甘かった。まさか、意外にも広瀬すずと森山未来主演による沖縄パートこそが、本作最大の衝撃だったとは!

公開直後のネットの評価でも騒がれていたように、広瀬すずの勇気と覚悟、そしてその女優魂には、もはや脱帽と言うしかない。まさか「ちはやふる」と同じ年に、この役柄に挑戦するとは!詳しく書くのは自粛させて頂くが、文字通り「広瀬すずの女優宣言」とも言える、彼女の限界を超えた演技だけに、ここは是非とも劇場で!

確かに、妻夫木聡と綾野剛の勇気、森山未来の限界越えの熱演、渡辺謙の受けに徹した見事な演技など、本作「怒り」での男優陣の演技は、どれも素晴らしいものばかりだ。しかし、残念ながら男優陣に比べて、どうしても女優陣の素晴らしさが印象に残るのも事実。前述した広瀬すずの女優魂、そして非常に難しい設定の役を見事に演じた宮崎あおいの演技は、今年の映画賞を総なめにするに違いない。

そんな中でも、個人的に驚かされたのが、ラストにちょっとだけ出る高畑充樹の演技だ。いわゆる「熱演」でもなければ「自然な演技」でもない、いままで見た事の無い不思議な雰囲気と表情には、その出演時間の短さにも関わらず、完全に心を持っていかれた、とだけ言っておこう。

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(C)2016映画「怒り」製作委員会

1200人のオーディションから選ばれた驚異の新人、佐久本宝に注目!

同時進行で描かれる3つの物語の中でも、衝撃度と話題性では一番である、沖縄でのエピソード。広瀬すず、山本未来の文字通り「限界を超えた演技」を相手に、一歩も引かない素晴らしい演技力を見せ付けたのが、本作オーディションで1200人から選ばれた新人俳優、佐久本宝だ!

自身が招いたある「悲劇」への、行き所の無い自分自身への「怒り」、沖縄という土地に対する扱いへの「怒り」など、難しい部分を見事に演じてみせたその演技力と存在感は、とても本作が映画デビューとは思えないほどだ。今後の日本の映画界にとって、必ず重要な存在となるに違いない佐久本宝。新しい才能が誕生する、その瞬間をお見逃しなく!

最後に

シンプルな「怒り」というタイトルと、その厳しく重い内容から、いまいち劇場に行くのを躊躇されている方も多いと思う。確かに非常に過激な描写やショッキングなシーンもあるが、決してそれだけで終わらないのが、本作の素晴らしいところだ。現代の人間関係の危うさと厳しい現実を逃げずに描きながらも、ラストには将来への明るい希望を見せてくれるので、ここは是非とも劇場でご覧になるのがオススメです!

(文:滝口アキラ)

    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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