日本映画のオリジナル率は、どうなっているんだろう?(後篇)

君の名は。 サブ12

(C)2016「君の名は。」製作委員会

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日本映画のオリジナル率は、どうなっているんだろう?(前篇)

2016年上半期の日本映画ヒット作における、
オリジナル作品興収比率は10.23パーセント。

爺 ところで、今年の日本映画はどうなんだろ?原作のないオリジナル作品の比率、高いのかな?

先輩 上半期のヒット作の成績を見ると、興収10億円以上をあげた日本映画は、全部で25本。興収トータル570.1億円。そのうち原作が存在しないオリジナル作品は「母と暮らせば」19.5億円、「家族はつらいよ」13.6億円、「TOO YOUNG TOO DIE/若くして死ぬ」13.1億円、「杉原千畝」12.1億円の4本でした。

女の後輩 山田洋次監督作品が2本も。

爺 この場合も、山田監督には松竹というホームグラウンドがあるからな。企画は実現しやすいんじゃないかな。

後輩 「―若くして死ぬ」も、宮藤官九郎のオリジナル・シナリオですよね。これまた三谷幸喜監督や細田守監督みたいに、テレビ局や映画会社が監督育成を目論んでのことでしょうか?

先輩 この場合はアスミック・エースが企画をピックアップして、東宝と製作委員会を組成し、東宝=アスミック・エース共同配給作品になったケースだ。だから個人の着想をオリジナル作品として開発して行ったという点では、それに該当するかな。

女の後輩 「杉原千畝」の場合は?

先輩 日本テレビ放送網が製作幹事としてクレジットされているね。誰も映画会社にオリジナル作品の企画を持っていかないのかな(笑)?

後輩 映画会社に企画書を持って行っても断られることが多いんじゃないですか?

爺 だいたいテレビ局は歴史的に企画には強いんだよ。朝から深夜まで、夥しい量の番組をオンエアしていて、そのすべてに対して視聴率という結果が出る。

先輩 ただし現在ではそのテレビ局製作作品も、一時期の勢いを失いつつあります。これまた「良い企画がないから」との理由でしょうか?

爺 良い企画というものは、大金を出せば買えるものじゃないからな。それが一番難しいところなんじゃよ、映画ビジネスの。

後輩 上半期作品の興収レベルでのオリジナル作品比率は何パーセントになるんですか?

先輩 10.23パーセント。かろうじて10パーセントは超えた感じだ。

「オリジナル作品『君の名は。』の興収は、結局いくらになるんだ?」

君の名は。サブ

(C)2016「君の名は。」製作委員会

女の後輩 今年の場合は、夏休み以降に日本映画の大ヒット作が出たじゃないですか。それを含むとかなりオリジナル作品比率は高まるんじゃないですか?

先輩 うん。まず上げられるのが「君の名は。」だね。これは新海誠監督が、映画のために書いたシナリオがもとだから、オリジナルとして扱うべきだろう。ただしこの映画の場合、あまりにも大ヒットしすぎて、興収いくらで計算して良いのか分からないんだよ!!

爺 200億円を超えるだろうしなあ、最終的には。

先輩 一応200億円としておきますか。

爺 わしが大好きな「シン・ゴジラ」は?

先輩 これは庵野秀明総監督がシナリオも書いていますが、ゴジラというキャラクターは彼のオリジナルではありませんし、あくまでシリーズの1本という位置づけです。なのでオリジナル作品には該当しないと判断しました。

爺 なるほど。キャラクターがオリジナルかどうかというのは、大きなポイントになるね。

先輩 ですので、10月末現在で興収10億円以上を上げた、下半期公開の日本映画のうちオリジナル作品は、「君の名は。」と「超高速!参勤交代リターンズ」の2本だけなんです。

後輩 「超高速!参勤交代リターンズ」の、現在の興収は?

先輩 10.9億円。これはまだ増える余地があるけどね。

爺 じゃあ、今年上半期と下半期、ただし10月末までに公開された日本映画で興収10億円を超えたオリジナル作品は、トータルで6本ってことになるか。

先輩 まだ今年は2ヶ月残っていますし、続映中の作品も興収を伸ばしていますから、本数的にはもうちょっと行くんじゃないでしょうか。昨年の5本を上回るのは良い傾向だと思います。

爺 興収ベースにすると?

先輩 それが「君の名は。」の200億円を入れると、269.2億円になってしまうんですよ。これでは全体の傾向を反映した数値にならないよね。

後輩 誰かが「オリジナル作品がどれほど観客に望まれたかを測る上で、興収は重視すべき」なんて言うから、妙なことになっちゃうんですよ。

女の後輩 あたしのせいじゃないもんっ!!

先輩 まああくまで、ヒット作を対象にこういう視点で集計していったら、こういう結果が出たということだけどね。

あらゆる映画は、個人の脳味噌から始まる。

爺 理想を言えば、「湯を沸かすほどの熱い愛」みたいなオリジナル作品が全国300スクリーン以上の規模で拡大公開され、中野監督の次回作がまたオリジナルで実現し、大手映画会社の配給で全国拡大公開されるというのが一番良いんじゃよ。

先輩 ここ数年の事例を見ていくと、そうはなりませんね。今年の日本映画は質・量共に豊作だと思いますし、中小規模のマーケットで公開された作品にも、上質だと言われるものが例年より多く、オリジナルの発想が活かされた作品も少なくないと思います。でも、そうした作品に携わった監督や脚本家が、すぐさま大きなマーケットに打って出られるかといえば、そうではない。何か大きな壁が立ちはだかっている気がしてならないんです。

爺 この問題は、またこのメンバーで改めて話し合う必要があるな。そうなるだろうとは思っていたけど、原作モノとオリジナル作品について云々すると、つまるところ企画についての話になる。今、映画会社が総力を上げて取り組まないといけないのが、この企画についての問題だ。当たり前のことだが、企画というモノは個人が脳味噌を使って考えるものだ。オリジナル作品となれば、なおさらのこと。だからそういう企画を考える人たちと、どういう関係性を構築し、どういうやりとりをして、企画開発をどうやっていくかは映画会社にとって大きな課題なんだ。

先輩 オリジナル作品に関しては、ハリウッドみたいにファースト・ルック・ディールを交わしても良いんじゃないですかね?

女の後輩 なにそれ?

先輩 不勉強だなあ。つまり、映画になるネタを考えついた人が、それを書面にする。その書面を最初に読む権利さ。日本では一時期、周防正行監督がミラマックスと、一瀬隆重プロデューサーがフォックスと交わした前例がある。どちらも映画には結実しなかったけど。

女の後輩 その前に、原作のある作品かオリジナルかという評価を、きちんとするのが先じゃないでしょうか。アメリカのアカデミー賞には「脚本賞」と「脚色賞」があるでしょ。原作を脚色する技能と、ゼロからキャラクターやストーリーを考えて形にする力は、別のものです。それを一緒くたにしてはいけないんじゃないですか?

爺 そうだな。日本アカデミー賞を見ても「脚本賞」しかないし。それってけっこう重要なことだぞ。

後輩 しかし考えてみれば、アホな話ですよね。シネコンが増えたおかげでマーケットが拡大した。なのにそこでどんな映画を作ってかけたら良いのか分からないなんて。だから商業的な実績のある原作ばかり映画にしたがる。

先輩 ずっと我が国の映画産業は、製作・配給・興行を一貫経営して来たんだ。その良さというのは、興行、つまり映画館を経営することで、観客の動向が把握でき、それを企画・製作に活かせることだった。それが今、一貫経営はしていても観客の動向が分からないのか分かろうとしないのか。それだけ観客の嗜好も価値観が多様化複雑化していることは事実だけど。原作モノにせよオリジナルにせよ、作品を作る上で中心になるのはプロデューサーだから、今、観客は何を望んでいるかを、プロデューサーはきちんと把握して欲しいね。

女の後輩 「君の名は。」はオリジナルで大ヒットしているじゃないですか。

先輩 新海誠監督をここまで育てたのは、今の東宝が持つ余裕の反映だろうな。儲かっている会社は先のことを考えたり、企画開発をしたり、若手監督にチャンスを与えたり、先行投資をする余裕がある。これから映画を実際に作るのは誰なのか?を考えているわけだ。ただ、逆の見方をすれば、そうしたことに取り組まなくてはならないほど、強い危機感を感じているとも言えるだろうね。

爺 「商品」を作っているわけだから、ベストセラーを映画にしたり、ヒットする要素は盛り込みたいと思うよ。でも、観客にとってそれは「作品」だからな。そのあたりの認識は、ちゃんとしなくちゃいけない。つまり、金儲けばかりに目の色を変えているだけではいけない、ということだよ。

(企画・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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