レディオヘッドギタリスト、『JUNUN』で魅せた音を巡る旅。

みなさん、こんにちは。去る8月6日から12日、東京・目黒シネマにて一本のドキュメンタリー映画が公開されました。監督は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』など、賞レース常連の実力派、ポール・トーマス・アンダーソン。そんな名監督が海を渡り遠く異国の地にまでカメラで追ったのは、一人のアーティストでした。

今回の「映画音楽の世界」では、レディオヘッド(RADIOHEAD)のギタリストでもあるジョニー・グリーンウッドがインドで行ったレコーディング・セッションを映像に収めたミュージック・ドキュメンタリー映画、『JUNUN』を紹介します。

JUNUN02

実力派監督が切り取る、インド音楽の情熱

収録の舞台となったのは、インド・ジョードプルにあるメヘランガール城塞。この城塞は15世紀に建てられたとされる巨大な岩山に聳える荘厳な建物で、眼下に町を見下ろすロケーションは圧巻の一言。この歴史的建造物の一室を即席のセッションルームに仕立て、ジョニー・グリーンウッドがイスラエル出身のミュージシャン、シャイ・ベン・ツールと共に現地のミュージシャンを招集、録音が行われました。

本作は時折インタビューが差し込まれるものの、ほとんどの尺をレコーディング・セッションに充てていて常に音楽が映画の中心にある印象です。それもそのはず、このセッションに参加した北インドの演奏家たちのトラディショナルなプレイ、音色、歌声が響き渡る空間と音楽そのものこそが本作の主題になっていて、ツールによる作曲とグリーンウッドの演奏が見事にそれに融合を見せた形になってます。

インドの音楽、というと例えばベリーダンスのようなどこかエキゾチックな音を思い浮かべそうですが、今回演奏される音楽はナガラ(太鼓)の強烈なビートとトランペット、男性コーラスが交錯する表題曲[JUNUN]や、同じく伝統弦楽器であるカマイチャと、教典・宮廷歌手の歌声が神聖的な雰囲気すら醸し出す[HU]、[CHALA VAHI DES]など、まさに“JUNUN=情熱”というタイトルが持つテーマが現地録音、現地ミュージシャンという舞台を得て炸裂しています。それは音の洪水といっても過言ではないスケールで、いかに本作でグリーンウッドとツールが邂逅するインド音楽というジャンルの表現に重要性を置いているかが解ります。

Ost: Junun

だからといって映像表現に抜かりがないのが実力派監督。自らもカメラを回し、メヘランガール城塞の様式美(インド様式の独特の窓枠や内装、素材に至るまで)をしっかりと切り取ることで、音の残響や窓を抜けた空気にまで響き伝わる、目には見えない音の伝播を観客に見せています。また、岩山に聳え立つ高低差を鳥の視点と重ね合わせたドローン撮影は、音が溶け込んでいくインドという土地の空気と私たち観客が一体化するには実に効果的。音楽が映像を補足するのではなく、映像が音楽を補助するような形で、この辺りアンダーソン監督の本作での設計が冴え渡り、インド音楽の「響き」を視覚的に表現することに成功しています。

映画音楽作曲家としてのジョニー・グリーンウッド

そもそも、なぜポール・トーマス・アンダーソンという独特の作家性、スタイルを持つ監督がミュージックドキュメンタリーを撮ったのか。そこには、本作と同時上映されたレディオヘッドの新譜[DAYDREAMING]のミュージックビデオをアンダーソン監督が演出をしたという繋がり以上に、ジョニー・グリーンウッドの「映画音楽作曲家」としての顔が大きく関係しています。

ファン以外にはあまり知られていませんが、グリーンウッドは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降アンダーソン監督作品の劇伴を作曲していて、いかにアンダーソン監督がグリーンウッドの音楽に信頼を寄せているかが窺えます。そんな作曲家が海を越え遠くインドの地で現地ミュージシャンとコラボレートする、となれば映画監督としてのポール・トーマス・アンダーソンというよりは、一人の「作家」として、その世界を直に見たい、という思いがあったのではないでしょうか。それが結果的に、物語性を排して音楽そのものを主人公にしたドキュメントに仕立て上げさせたような気もします。

そんな鬼才に惚れこまれたミュージシャン、ジョニー・グリーンウッドはギター演奏だけでなくピアノやヴァイオリン、チェロ、シンセサイザーといった映画音楽との相性のいい楽器をも使いこなすマルチプレイヤーで、アンダーソン監督作品以外の作曲ではティルダ・スウィントン主演の『少年は残酷な弓を射る』を担当、また、邦画『ノルウェーの森』も作曲しているので知らずグリーンウッドの音楽を耳にしている映画ファンも多いのではないでしょうか。

まとめ

本作は残念ながら全国ロードショーの形態はなく配信のみが行われていて、現在ソフトリリースのアナウンスは聞こえてきていません。本作の魅力はセッションと同時に行われた収録によりサウンドトラック盤にしっかりと刻まれていますので、まずは耳でその情熱を感じ取るのも良いかも知れませんが、主人公は音楽そのものと言えどそれでもやはりその音楽を奏でるプレイヤー、空間、空気も同じく重要なピース。「視覚で感じ取るインド音楽」という意味においても、本作の鑑賞は十二分なほどの価値があると思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

(文:葦見川和哉)

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    葦見川和哉

    葦見川和哉 映画が好き。旅が好き。小説が好き。 映画開眼と同時に映画音楽の魅力にも取りつかれたサウンドトラック収集家。

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