「君の名は。」皆が疑問に思った、あの「引き戸」シーンの意味とは?

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

公開からほぼ1ヶ月が経つが、未だに劇場での勢いが衰えそうにない「君の名は。」。その日の第一回目上映開始時点で、既に夜の回までのチケットが完売!という事態に、せっかく劇場まで行っても観れなかったり、仕方なく別の作品を観たという方も多いと聞く。

新海誠監督にとっては、実に3年振りの新作映画となる本作が、これほどまでに幅広い観客層に支持され、大きな社会現象にまで発展するとは、いったい誰が想像しただろうか?確かに公開前から、ファンの間では既に評価・話題共に高かったが、公開直後のレビューでも4、5点という高得点!しかも、否定的意見や意図的に低評価をつける人は極めて少なく、5点を点けている人が多いというのは、非常にまれなケースだと言える。

特にアニメや新海誠作品に詳しくなくとも、感動的なラブストーリーとして十分に楽しめる本作なのだが、その裏に隠されたあまりに膨大な情報量を、107分という最近では短めの上映時間内に納めているため、深く理解するには、鑑賞後に小説や過去作のチェックによる自己補完が必要、とも言える本作。果たしてその内容とは、どの様なものだったのだろうか?

初回鑑賞後の疑問・モヤモヤ解消には、小説版がオススメ!

前述した通り膨大な情報量と、短い上映時間にまとめるための巧みな省略により、より深く理解するためには、鑑賞後の情報収集による補完作業が必要な本作。文字通り新海誠監督にとっての集大成とも言える内容のため、過去作品からの引用や過去作品のキャラの登場など、新海監督作品初鑑賞の観客にとっては、初回鑑賞でその深い内容まで理解するのは、困難かも知れない。だが、それでも一本の映画として十分に楽しめるし、感動して泣けるのは間違いないため、映画鑑賞前に予習する必要までは無い、と断言しておこう。

それよりも重要なのが、「あのシーンがちょっと分からなかった」「あれってどういう意味?」など、鑑賞後によりその内容を深く理解するために、何を見たら良いのか?という点だろう。

もちろん、新海誠監督による「君の名は。」小説版が、その点大いに役立つのは間違いないのだが、ここでオススメしておきたいのが、角川スニーカー文庫から出ている「君の名は。Another Side:Earth Bound」だ。

例えば、ノベライズ版やコミック版には、三葉が瀧くんに入っている状態の時に、父親の仕事場に行ったとの記述がある。この点などは、一般に良く言われている、「瀧くんの家庭描写が無い」との意見に対して、理解のための大きな助けとなるだろう。何回もリピーターとして鑑賞する中で、実はこの部分は、都会に住む瀧くんと、地方に暮らす三葉の生活の違いを表したものだと分かる。

例えば都会出の生活=バイトなどで早くから大人社会への参加が可能、薄い家族関係、希薄な父権などであり、地方の生活=家に縛られ、大人社会には参加させてもらえない。家族との距離が近い、強い父権などだ。二人の環境の違いを現すための効果と、107分という限られた上映時間内に、より多くの情報を盛り込むための工夫だと考えれば、瀧くん側の家庭描写の省略も、より理解しやすいのではないか。

君の名は。008

(C)2016「君の名は。」製作委員会

まばたき禁止!どんな短いカットにも、重大な意味がある!

初回鑑賞で戸惑うのが、その時間経過の表現だろう。現在と過去の時間軸が巧みに交錯する上に、ほんの数カットで半年が経過したり、残念ながら、初回の鑑賞ではストーリーを追うのに手一杯で、細かい部分までは注意しきれないのも確かだ。自分も初回の鑑賞では、細部まで見る余裕が全く無かったのだが、その後のリピート鑑賞の中で、OPタイトルでの短いカットの持つ意味とか、冒頭の電車のシーンが成長した二人の時間軸であり、そのままラストに繋がるという点に気がついた。

特にラストの時間の経過は、就職活動中の冬〜クリスマスから一気に桜の花が映って春を向かえ、瀧くんも社会人として通勤している中で、三葉と会ったのだと、三回目の鑑賞でようやく気が付いたくらいだ。よく観ると映画のOPタイトルにも時間の経過が描かれているので、リピート鑑賞時には是非その辺にも気をつけてご覧になって頂ければと思う。

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

度々登場する、「扉や引き戸をローアングルで捉えた」印象的なカット!その意味とは?

実は、本作に度々登場する印象的なカットがある。地面スレスレの独特なローアングルで捉えられた、引き戸や電車のドアが開閉するカットがそれだ。この部分を観て「おや?」と思われた方も多いのではないだろうか?

「これって、いったい何?」、「どんな意味があるの?」などなど。おそらく観た方の殆どが疑問に思われたに違いない、このカット。

実はこれを理解するために、是非観て頂きたい作品がある。新海誠監督が自主制作した短篇アニメーション「彼女と彼女の猫 Their standing points」と、これを元に製作されたテレビアニメ版「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」がそれだ。特に「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」は、就職活動に追われる短大生と、その飼い猫の物語であり、東京に移転して来てから瀧くんに再会するまでの、三葉の物語を補完するものとして見ることが出来る作品であり、猫版「君の名は。」とも言える作品として、非常に似たテイストを持っているからだ。

前作「言の葉の庭」の登場人物である「ユキちゃん先生」こと雪野百香里が、「君の名は。」に登場していることは、既に公にされている。新海誠監督にとっての集大成とも言える「君の名は。」だけに、こうした過去作品の登場人物が関係していたり、他の作品の設定が盛り込まれていたりすることは、紛れも無い事実だ。

実は、本作でのあのローアングルの視点は、新海誠監督の初期作品「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」に登場する飼い猫「ダル」の視点だと考えると、全てに納得がいく。もちろん、こうした扉の開閉=二人の世界の境界線の象徴とも見ることが出来るのだが、それだとあの極端なローアングルの説明がつかない。

何故か度々登場する犬といい、実はあの事件後、東京に避難してきた三葉が都会で暮らす中で、自身の就職に悩む際の物語が、そのまま「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」に繋がって行くと考えれば、飼い猫「ダル」の視点が入り込むことも納得がいくというものだ。
(※これはあくまでも個人の見解です、念のため)

 

君の名は。メイン(C)2016「君の名は。」製作委員会

実は三葉の両親の想いを繋ぐ物語、神に裏切られた男と、その家族の再生の物語だった!

妻の死を防げなかったことで神に裏切られたと感じ、家族からも離れた三葉の父。「君の名は。」は、実は三葉の両親の未清算の思いを、時を越えて再び「つなぐ」物語、そして一度は壊れた三葉の家族の絆、その再生の物語でもあることは、前述した「君の名は。Another Side:Earth Bound」を鑑賞後に読まれると、よく分かるはずだ。この小説の中では、三葉の父親、妹の四葉、友人のテッシーそれぞれの立場から、各人の視点で映画の場面が語られ、より多面的に本作を楽しむことが出来るので、鑑賞後に読むのことをオススメする。

特に理解に役立つのが、三葉の父親の隠されたエピソードだろう。早すぎる妻の死によって、一度は神の存在を否定して家族と離れた父。運命によって入れ替わった瀧くんと三葉だったが、ある事態によって再び神のきまぐれともいえる試練に襲われることに。決定的な事件が起こるのが、ハレの場である「祭り」の夜というのも、本作における神の存在を連想させる根拠となっている。

1200年前に防げなかったであろうその試練を、町の住人達が自分の手で克服する事で現在と過去が繋がり、三葉の父はようやく妻の死を受け入れて、家族の再生を見たのだろうか?更には自分たちを縛り付けていた糸守町から解き放つため、神が与えた大いなるチャンスだったのか?
是非とも自分なりの答えを、探してみて頂ければと思う。

君の名は。006

(C)2016「君の名は。」製作委員会

最後に

確かに、あのまま二人が出会わないで終わる展開も、過去の新海監督作品の流れ的には「有り」だろうが、就職してこれから自身の将来を築くスタートラインに立った瀧くんに、自身の将来を自分の手で掴み取った三葉が出会うからこそ、このラストのハッピーエンドに意味があるのだと言いたい。そして、そこに絶妙のタイミングで現れる「君の名は。」のタイトル文字!それこそは、二人の新たな物語がここから始まることをも、また意味する。

それはまた、新海誠という映像作家が、幅広い一般観客の認知を得て、これから本格的に自身の世界を世に問おうとすることにも繋がるだろう。個人的に、あのエンディングこそが新海誠監督のNEXT STAGEへの幕開けだと思いたい。

とにかく、満員の劇場で、皆と鑑賞後の感動を分かち合ってこそ、「君の名は。」。

色々と書いてきたが、これだけの大ヒットとリピーターを生んだ理由は単純だ、それは観客の「もう一度あの二人に会いたい」との強い想いに他ならない。
最後になったが、音楽を担当したRADWINMPSの素晴らしい歌の数々!これも「君の名は。」大ヒットの重要な要因と言えるだろう。実はその歌詞の内容も、作品世界の理解にかなり役立つので、是非気をつけて読んでみて頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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