『この世界の片隅に』監督のキャリアを探ってみた!『君の名は。』と二分する今年のアニメ映画の傑作!

この世界の片隅に01

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

今年のアニメーション映画はいつになく大豊作の年で、特に後半は『君の名は。』をはじめ『聲の形』『GANTZ:O』など毎月必見の作品が目白押しという驚異的状況の中、11月12日にはいよいよその絶好調国産アニメ映画のトリを務めると言っても過言ではない(まだ11月ですけど、まあいいや!)傑作『この世界の片隅に』が公開となります。

戦時下の広島・呉にお嫁入りしたヒロインすずの日常を淡々と、しかしながら驚くほどリアルな当時の風俗や社会状況などを画とドラマに巧みに組み入れながら、従来のアニメーション映画の記号的概念を覆す斬新な描写や、声優を務めるのん(能年玲奈)の好演など、おそらく完成度としては今年随一の作品と言っても過言ではないでしょう。これは冗談ではなく、マジな気持ちで『君の名は。』に迫る大ヒットになっていただきたいと祈ってやまない作品でもありますが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.173》

では、その監督を務めた片渕須直とはどのようなキャリアの持ち主なのか、ちょっと振り返ってみましょう!

あの『魔女の宅急便』を監督する
予定だった才人!

片渕須直監督は1960年8月10日、大阪府の生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コースに入学してアニメーションを専攻し、そのとき特別講師として来た宮崎駿と出会ったことが縁となり、『名探偵ホームズ』(84)の脚本に携わることになりました。

また、高畑勲や近藤善文、大塚康生など多くの才人が参画しては監督交代を繰り返した果てに、ようやく完成した日米合作のアニメーション映画超大作『ニモ』(89)の制作にも携わっています。また、その過程の86年、20代半ばの若さで、早くもアメリカのテレビスペシャル“The Blinkins”を監督しています。

こうした実績を買われて、80年代後半に彼が任されたのが、『魔女の宅急便』でした。そう、もともとあの作品は片渕監督の映画監督デビュー作として準備が進められていたのです。この事実だけで、彼がいかに当時の若手有望株の筆頭であったかがおわかりいただけるでしょう。

しかし、まだ一般的知名度がないといったスポンサー・サイドの意向などもあり、最終的には当初プロデューサーのみを引き受ける予定だった宮崎駿が監督。彼は演出補佐という立場でつき、作品は89年に完成、公開されました。

ファンタジーからバイオレンスまで
振り幅の広い監督作品群

この後、彼は『私のあしながおじさん』(90)など多くのTVアニメの画コンテや、戦時下の東京の庶民の生活を描いた虫プロのアニメ映画『うしろの正面だあれ』(91)の画面構成、TVアニメ『名犬ラッシー』(96)監督、短編アニメ映画『この星の上に』(98)などを務めながら、『魔女の宅急便』スタッフなどで立ち上げたスタジオ4℃に参画し、構想8年、製作3年の長編映画『アリーテ姫』(02)に取り組んでいきます。

『アリーテ姫』は塔の中の姫君と、彼女を連れ去らう魔法使いを描いたファンタジーですが、そこには与えられた環境に縛られて生きる若者たちが、自信がない中でも己を信じ、手探りで可能性を見出そうとし、いつしか能動的に前を進んでいくヒロインを姿を通して、孤独な現代社会を生きる人たちにエールを送る秀逸な内容となっていました。

続いて手掛けたのが、何とバイオレンス・アクションTVアニメ・シリーズ『BLACK LAGOON』(06)です。タイの架空都市を舞台に、南シナ海の運び屋ラグーン商会の船ブラック・ラグーン号に乗り込む日本人青年ロックを主人公とし、裏社会に生きる者たちの攻防を描くという、一見これまでの片渕監督のキャリアからは真逆に思える作品ですが、実は航空史研究家としての一面も持つ彼は、『エースコンバット04』(01)などのゲームにも携わってきた才人で、軍事メカなどハード面にも精通していたのです。

そしていよいよ『マイマイ新子と千年の魔法』(09)を発表します。原作は高樹のぶ子。昭和30年の山口県防府市を舞台に、小学生の少女・新子が千年前のこの町に思いをはせる小学生の少女・新子と都会から転校してきた貴伊子との友情を描いたものですが、ここで片渕監督は当時の防府市と千年前の国衙としての町の状況などを徹底的に調べつくした上で演出。リアリティとファンタジーが同居する快作となり、劇場公開時は口コミでどんどん観客が増えていき、結果1年以上のロングランとなりました。今も上映されるたびに活況を呈する作品です。

片渕作品の集大成ともいえる
『この世界の片隅に』!

この世界の片隅に02

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

『この世界の片隅に』は、これまでの片渕監督の特色がすべて詰め込まれています。『マイマイ新子と千年の魔法』と同じように綿密なリサーチによって戦時下の状況や風俗などをリアルに活写していくことで、逆に『アリーテ姫』のような一種ファンタジックな世界観を構築し得ており、また空襲の惨禍なども『BLACK LAGOON』などでの人とメカがもたらす残酷な暴力性を隠さない腹をくくった姿勢が大いに功を奏しています。

『この世界の片隅に』は映画ファンを自称する人は必ず見ておかないと後々後悔する傑作であり、反戦映画としての要素を持ちながらも、そこには拳を振り上げた鬱陶しいメッセージ臭は微塵もなく、そのほんわかとした世界観ゆえに繰り返し見たくなるような衝動を覚える作品です。

映画館で『この世界の片隅に』を映画館で鑑賞された後は、ぜひとも片渕監督の旧作もDVDなどでご覧になっていただくと、さらに『この世界の片隅に』の面白さが引き立ち、リピートしてみたくなること必定です。

繰り返しますが、映画ファンならば(いや、ならずとも)、これは本当に劇場で見ておかないと、後々後悔しますよ。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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