巨匠たちに、そして日本映画に愛され続ける香川京子

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.39

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。

 日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

香川京子

東京・ラピュタ阿佐ヶ谷にて8月28日から香川京子出演映画の特集上映が行われます。ありとあらゆる巨匠監督作品に出演し続けた彼女だけに、そのラインナップを組む側も毎回苦労しつつも楽しそうな、今回もそういった作品群が上映されますが、ちょうどよい機会なので、香川京子自身の歩みを振り返ってみましょう。

女優臭くない
素朴で清廉な存在感

香川京子は1931年12月5日、茨城県の生まれ。まもなくして家族で兵庫県芦屋の自宅へ戻り、37年に東京へ移転。49年に都立第十高等女学校(現・豊島高校)卒業後、東京新聞社主催のニューフェイス・ノミネーションに応募して、6000人の中から1人だけ合格。母の妹の夫で、当時新東宝の宣伝課長を務めていた永島一朗の斡旋で、新東宝に入社しました。

 3か月の養成期間を経て、『帰国(ダモイ)』(49)で本格デビュー。この時は喫茶店のウエイトレス役で、主演の池部良に「ありがとうございました」と言うだけの端役でした。

50年、島耕二監督『窓から飛び出せ』に出演予定だった久我美子が急きょ出られなくなり、代打として香川京子が出演。新興宗教にはまった母に困りつつも明るく健気に生きる娘を演じ、その清潔感あふれる可愛らしさが注目され、一気に新人女優のホープとして躍り出ることになりました。

51年、成瀬己喜男監督、田中絹代主演の『銀座化粧』に出演し、つづく成瀬監督『おかあさん』では田中の娘を演じ、初期の代表作とします。

同年6月、新東宝との契約が切れ、以降はフリーとして各社から引っ張りだこの存在となっていきます。

成瀬監督『稲妻』(52)『ともしび』(54)『驟雨』(56)『杏っ子』(58)、今井正監督『ひめゆりの塔』(53)、小津安二郎監督『東京物語』(53)、溝口健二監督『山椒大夫』(53)『近松物語』(54)、久松静児監督『女の暦』(54)『女囚と共に』(56)、清水宏監督『しいのみ学園』(55)、豊田四郎監督『猫と庄造と二人のをんな』(56)、黒澤明『どん底』(57)『悪い奴ほどよく眠る』(60)『天国と地獄』(63)『赤ひげ』(65)、内田吐夢監督『森と湖のまつり』(58)、山本薩夫監督『人間の壁』(59)などなど……。

いずれも聖女に淑女、果ては狂女まで、一作一作多彩な役柄を巨匠監督らに鍛えられながら演じ続け、瞬く間に日本映画界を代表する映画女優として台頭していきますが、当時、成瀬監督が「大方の女優さんは二、三、役がつくとたちまち女優臭くなってしまうものだが、香川君にはそれがない」と讃えたように、その素朴さと清廉さを一貫して失うことなく、活動し続けていきました。

さまざまな世代から
リスペクトされ続けての今

もっとも、こういった50年代から60年代半ばまで活躍を経て、63年に読売新聞社社会部記者(当時)牧野拓司と結婚。65年に長女を出産した後、ニューヨークに赴任していた夫のもとへ移り、68年に帰国しますが、そのために映画出演は山本監督の『華麗なる一族』(74)までなく、その後も新藤兼人監督『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』(75)、堀川弘通監督『翼は心につけて』(78)、山田洋次監督『男はつらいよ 寅次郎春の夢』(79)、神山征二郎監督『春駒のうた』(86)と、決して多くはありません。

しかし90年、熊井啓監督『式部物語』で主人公の母親を演じ、キネマ旬報助演女優賞および山路ふみ子映画賞女優賞を受賞してからは、映画への意欲が蘇ってきたかのように活性化していきます。

93年には黒澤明監督の遺作となった『まあだだよ』で主人公・内田百閒の妻を好演し、日本批評家大賞女優賞やブルーリボン賞助演女優賞、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。また同年、反戦アニメーション映画『蒼い記憶 満蒙開拓と少年たち』でナレーターを務めています。

95年には再び熊井監督『深い河』に出演。また社交ダンスを題材にした『Shall we ダンス?』(96)には写真のみの出演を果たしていますが、これは彼女がもともとバレリーナ志望であったことを知る周防正行監督のリスペクトに応えてのものでした。

以降も是枝裕和監督『ワンダフルライフ』(99)、篠原哲雄監督『天国の本屋~恋火』(02)池田千尋監督『東南角部屋二階の女』(08)『東京の日』(15)、山崎貴監督『BALLAD 名もなき恋のうた』(09)など時の若手監督からリスペクトされての出演は数多く、一方では黒澤映画の助監督出身・小泉尭史監督の『阿弥陀堂だより』(02/日本映画批評家大賞助演女優賞)、成瀬映画にオマージュを捧げた原田眞人監督『自由戀愛』(05)、また日本テレビの名ディレクターで70代にして映画監督デビューを果たしたせんぼんよしこ監督の『赤い鯨と白い蛇』(05)では主演を務め、映画評論家でもある樋口尚文監督の『インターミッション』(13)では本人役で出演しています。

このように、若き日の活動がリスペクトされながら、自身のさらなる活動が促進されていく、それが映画女優・香川京子の現在なのです。

(文:増當竜也)

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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