映画はアイデア次第でまだまだいかようにも面白くなる。

今年も8月15日が過ぎ、第2次世界大戦に関するさまざまな催しなども一息ついた感はありますが、戦争そのものに対する視線は常に持ち続けていくべきでしょう。
そう思わせるに足る、戦時下のアメリカを舞台にした秀作が公開されます……
 
キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.153

リトル・ボーイ 

(C)2014 Little Boy Production, LLC.All Rights Reserved.

『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』、これは単なるヒューマンドラマではなく、日本人も見ておくべき優れた内容の作品です!

戦場の父親を取り戻すための
リトル・ボーイの大作戦⁉

『リトルボーイ 小さなボクと戦争』は、第2次世界大戦中のアメリカ、カリフォルニア州の小さな町を舞台に、背が小さくて周りから”リトル・ボーイ”とあだ名され、からかわれている8歳の少年ペッパー(ジェイコブ・サルヴァーティ)が、太平洋戦線に駆り出されて行方不明となった父親(マイケル・ラパポート)を取り戻そうと奮闘するお話です。

どうやって取り戻すのか?

ペッパーはある日ベン・イーグルのマジックショーのアシスタントをさせられ、自分の念力で瓶を動かした(?)ことを機に、この力を用いて、はるか遠くにいる父に念を送って奪還しようとするのです。

作戦実行のため、彼は司祭(トム・ウィルキンソン)や、日系人ハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)の協力を得ます。

戦時下のアメリカでは、日系人は主に収容所に入れられるか二世部隊として出征するか、いずれにせよ差別と偏見、迫害の対象とされていたわけですが、いずれにせよハシモトのようにアメリカへの忠誠を誓って収容所から解放された日系人に対しても、多くのアメリカ人は敵国の人種として差別と迫害を繰り返していました。

ペッパーもまた、最初はハシモトに敵意をむき出しにしていました。

しかし、そんなペッパーを諭す司祭は「信仰こそが力を与える」として、古くから伝わるリストを彼に渡します。そこに記されていたのは……。

◎貧しい人に食べ物を
◎家なき人に屋根を
◎囚人を励ませ
◎裸者に衣服を
◎病人を見舞え
◎死者の埋葬を

そして司祭は、こう書き加えました。

◎ハシモトに親切を

やむなくハシモトと交流し始めるペッパーですが、次第に人種も世代も越えた友人関係を築くようになっていきます。

やがて周囲のやっかみやイジメにもめげず、リストに記されていることをすべて成し遂げたペッパーは、日本に向かって毎日念を送り続けますが……。

秀逸なアイデアに基づくストーリー
キャスト陣の好演

本作は製作・脚本・監督のアレハンドロ・モンテヴェルデと共同脚本のペペ・ポーティロが、広島に投下された原子爆弾が“リトル・ボーイ”と呼ばれていたことに着目し、それと同じあだ名を持つ少年の目線から、家族愛はもとより、人種差別や偏見、イジメなどを乗り越えた友愛こそが世界に平和をもたらすのだという確固としたメッセージと、一方では戦争そのものに対する痛烈な批判を訴えるべく製作されたものです。

ほのぼのとした牧歌的で愛らしいキッズ映画としてのタッチを一貫させながら、その実深いテーマに肉薄していく秀逸な視線とそれを裏打ちする構成と演出。

ペッパーを演じる主演のジェイコブ・サルーティの素朴な可愛らしさや、彼の母親を演じる名優エミリー・ワトソンなど、キャスト陣の好演も特筆もので、特にアメリカで活躍し続ける日本人俳優ケイリー=ヒロユキ・タガワのいぶし銀のごとき存在感には嬉しくなってしまいます。

ハシモトが日本のサムライについて、ペッパーに教え聞かせる際のファンタジックな情緒も微笑ましいものがありますが、そんな彼が地元の人々から迫害され続ける描写にはいたたまれないものもあります。

一方では、米軍捕虜に対する日本軍の非道などもさりげなく描かれていて、いずれにせよ戦争にどちらの国も正義などないことが示唆されています。

最後まで見終えて、よくぞこういったストーリーを思いついたものだと感服してしまいますが、それは同時に、映画はアイデア次第でまだまだいかようにも面白くなり、奥深いメッセージを届けることができるという事実を本作は見事に証明してくれています。

戦争がもたらすさまざまな悲劇を回避するためには戦争そのものを回避させるしか術はないことを改めて痛感させられるこの秀作、8月15日が過ぎて秋になろうが冬になろうが、戦争の惨禍を忘れないためにもぜひ見ていただきたい作品です。

個人的にはここ数年の戦争を描いた邦洋合わせての作品群の中で一番感銘を受けました。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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