映画コラム

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2016年09月03日

『君の名は。』RADWIMPSが彩る「時と音の世界」を紐解く。

『君の名は。』RADWIMPSが彩る「時と音の世界」を紐解く。

■「君の名は。」関連記事

■「映画音楽の世界」


君の名は。008


(C)2016「君の名は。」製作委員会


みなさん、こんにちは。

8月26日より神木隆之介と上白石萌歌が声優を務める『君の名は。』が公開となりました。監督は2013年の『言の葉の庭』以来の新作公開となる新海誠。『言の葉の庭』は46分の中編アニメーションだったので、長編作品としては2011年の『星を追う子ども』以来、実に5年ぶりとなります。

作品を発表するごとに新たなファンを惹きつける新海誠監督の最新作は、公開初日の金曜と翌土日の週末興収の三日間合計が12億円超えという破格のスタートダッシュを決め、文句なしの初登場1位を記録しました。

今回の「映画音楽の世界」では、早くも社会現象となりつつある『君の名は。』とその音楽を紹介したいと思います。


新海誠という才能が魅せる「青春の時」。


前述のように、長編作品としては5年ぶり、満を持しての登場となった『君の名は。』はまさに現時点での新海誠というクリエイターの集大成的な作品となっていて、同時に、原作小説を新海誠自身が執筆していることからも本作に注ぐ監督の並々ならぬ熱意が伝わって来ます。

都会に憧れ田舎での生活に不満を抱える高校生、宮水三葉と、東京で高校生活とアルバイトに励む立花瀧。1200年ぶりの彗星最接近を目前に控えたある日、三葉は瀧の体と、そして瀧自身も三葉の体と入れ替わっていることに気が付きます。『転校生』など、「入れ替わり」は過去にも名作を生み出して来ましたが、本作でも、それが夢ではなく現実に互いに入れ替わってしまった「現象」を受け止めた瀧と三葉それぞれの生活を、男子と女子、都会と田舎、恋心と友情を、新海誠監督の持ち味である美しい背景美術の中で織り交ぜながら瑞々しく描いています。
確かにここまで書けば、言ってしまえば物語としては「よくある入れ替わりもの」になってしまいますが、本作はここからその入れ替わりの命題である、なぜ瀧と三葉は互いに入れ替わったのか、そしてその意味がもたらすものを中盤から大きく展開させ、突き詰めて行くことになります。この先については、記事後半のまとめにて(内容に一部言及しつつ)記したいと思います。
君の名は。メイン


(C)2016「君の名は。」製作委員会



RADWIMPSが、音楽で伝えるもの。


今年春に解禁となった予告編公開時から話題となっていたのが、人気バンドのRADWIMPSが本作の音楽を一手に任されたことでした。新海誠監督が同バンドのファンだったことから実現したコラボレーションで、自身の渾身作に主題歌だけでなく劇中歌、劇伴までも依頼していることから監督のRADWIMPSのサウンドに絶大な信頼を寄せていることが解ります。

その信頼に見事に応えた劇中音楽を集めたサウンドトラック盤は言ってみればRADWIMPSの新作アルバムということもあり、映画同様にオリコンアルバムランキングでも堂々の初登場第1位を獲得しています(8月22日~28日集計週)。

実際、本作を鑑賞してみると劇中歌、インストゥルメンタル曲どちらの劇伴も素晴らしい出来栄えで、その音楽はRADWIMPSのネームバリュー以上の存在感を映画の中で発揮していました。そもそもバンドグループやポップスアーティストが映画音楽を担当することは珍しく、ボーカルの野田洋次郎の俳優デビュー作となった『トイレのピエタ』でもRADWIMPSは主題歌を担当するにとどまっていました。

RADWIMPSにとっても映画音楽の作曲は初めての挑戦になりますが、結果、見事としか言いようがない「音楽としての『君の名は。』の世界観」がそこにありました。瀧や三葉の心情を表現するためにピアノと弦楽が繊細なメロディを刻み、映像美にさらなる彩りを与え、観客へと届きます。この心象的な音楽の采配が素晴らしく、キャラクターの台詞に合わせるようなメロディもあれば、台詞では補いきれない感情表現を音楽で引き継いでいく流れは、映画音楽初挑戦とは思えないバランス感の上に成り立っていました。

例えば、瀧と三葉が夢の出来事ではなく初めて互いが互いに入れ替わっていることに同時に気付いた瞬間に流れ始める歌詞が「やっと眼を覚ましたかい」と、まるで二人に問い掛けるような言葉になっているのです。[前前前世]という予告編でも使用された躍動感あふれるこの楽曲の歌詞の世界観では「僕」の一人称視点ですが、捉え方によっては劇中には登場しない第三者の視点で瀧と三葉、二人の秘密に気付いている者だけが作り出せる歌詞であり、二人の切なく壮大な物語を応援する曲のようにも聞こえてくるのです。キャラクターの感情やその場面が持つ心情を正確に歌詞へと転換させていく手法は、劇伴作曲家ではなくリリックを大切にするアーティストだからこそのものだと感じさせます。

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また、サウンドトラックには映画の興奮や感動を音楽を聴くことで追体験できる効果があります。本盤には劇中に使用されたインストゥルメンタルも多く収録されていて、中でもクライマックスに流れる[かたわれ時]はピアノのシンプルで優し気なメロディが涙を誘い、すっと私たちを映画の舞台へと引き戻しもう一度あの景色に立ち会わせてくれる、静かな、静かな名曲となっています。
君の名は。サブ


(C)2016「君の名は。」製作委員会



まとめ──観客はなぜ『君の名は。』に心を打たれたのか。 *一部ネタバレあり


本作では美しい尾を引く彗星の美しさとは裏腹にある大災害が描かれ、この出来事が瀧と三葉、彼女たちを取り巻く多くの運命を揺るがすことになります。

美しい風景描写や、近づき、そして離れゆく心の距離感を巧みに描くことに定評のある新海誠監督ですが、本作では、3.11のあとに誰もが心から願わずにはいられなかった、「もしもあの日に戻ることが出来たなら」という、叶わぬ想いを実直なまでに真正面から描き、叶わないからこそその希望を「縁」「出会い・巡り合い」に託した監督の、クリエイターとしてではなく人間的な優しさが染み込んだ物語になっていたような気がします。そこに、多くの観客が魅了された理由があり、現実に起きてしまったあの大災害のあと、ただただ立ち尽くし、言いようのない不安を背負った私たちが、せめて瀧と三葉に叶わぬその想いを重ね合わせ、気付けば二人を必死になって応援していたのではないでしょうか。そしてその先に見せた新海誠監督の答えこそが、レクイエムになっているように思えました。

託されたその想いを歌詞に転換し、あるいはメロディに乗せて伝え響かせたRADWIMPSの音楽も映画の大切なパートを担い、運命に翻弄されそして立ち向かっていく瀧と三葉の背中を後押しします。そのメッセージ性は、観客の誰もが共鳴し二人に寄り添い続けます。

既に本作をご覧になった方も、まだ未見の方も、新海誠監督とRADWIMPSが伝えたかったものを、瀧と三葉の未来を、大きなスクリーンと音響で見届けに行きましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)

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