映画コラム

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2016年12月18日

庵野秀明もこよなく愛する『ブルークリスマス』『激動の昭和史 沖縄決戦』などのサントラCDが遂にリリース!

庵野秀明もこよなく愛する『ブルークリスマス』『激動の昭和史 沖縄決戦』などのサントラCDが遂にリリース!

■「キネマニア共和国」

2016年の日本映画界のみならず、海外でも現代日本を描出したことで大きな話題を振りまき続けている『シン・ゴジラ』。

その監督でもある庵野秀明が大の映画マニアであることはご承知の方も多いことでしょうが、そんな彼が愛してやまない名作映画のサントラCD群が発売されます……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.186》

岡本喜八監督&佐藤勝作曲の『ブルークリスマス』『激動の昭和史 沖縄決戦』!(プラス『獣人雪男』と『連合艦隊司令長官山本五十六』もあるよ)

わかる人にはわかる、これら伝説の作品群がついにリリース”!

UFOと遭遇した人の血が青くなる!?
戦慄のSF『ブルークリスマス』


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庵野秀明監督はかねてより岡本喜八監督作品の大ファンで、特に岡本映画のテンポなどはアニメーションに応用できるとして、彼のタッチをリスペクトした作品群を多々演出しています。『シン・ゴジラ』でも前半部の政府首脳たちの描写など、まさに『日本のいちばん長い日』を彷彿させるものがありました。

では、今回サントラCDとして発売される作品群に関する思い入れはいかばかりか、その前に作品そのものを紹介していきましょう。

12月21日発売の『ブルークリスマス』は1978年作品で、『スター・ウォーズ』が日本公開されてSFブームが巻き起こっていた時期、あえて特撮を使わないSF映画ということで異彩を放った作品です。

その内容は、UFOを目撃遭遇した者の血が青くなるという怪現象が世界各地で勃発し、これを憂慮した各国の政界トップが軍隊をひそかに派遣し、クリスマス・イヴの夜、青い血の者たちを惨殺していくというショッキングな内容。

何と『北の国から』などで知られる名匠・倉本聰のオリジナル脚本を基に制作されたものです。

血が青くなった者たちは実際のところ、それまでの攻撃的性格が収まり、むしろ穏やかに丸くなっていった者がほとんどなのですが、国家権力は彼らの存在そのものを敵視するようにしむけ、人々に恐怖を植え付けながら虐殺を実行します。

そこにはナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺と同じモチーフを感じる方も多いことでしょう。

庵野監督の出世作でもある大ヒット・アニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』では、人類の敵として扱われる使徒の正体は不明なままでしたが、彼らの血は「青」でした。また『ブルークリスマス』の当初の英語タイトル“BLOOD TYPE:BLUE”の文字が、最新作映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版Q』の中に映されたりもしています。

壮絶なる沖縄戦を天と地の視線で捉えた
『激動の昭和史 沖縄決戦』


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1月11日発売の『激動の昭和史 沖縄決戦』は、戦後長らくアメリカに占領されていた沖縄が本土復帰を果たす前年の1971年、東宝の戦争映画大作“8・15”シリーズ第5作として作られたもので、ここでは太平洋戦線で多大な犠牲を強いられた沖縄戦をパノラマ的俯瞰の姿勢の中、おびただしい人の命が失われていく様を地を這うかのような目線で追っていく異色作です。

庵野監督はこの映画を90年代半ばの時点で100回は見ていると公言し、レーザーディスクが発売されたときは熱い文を寄稿しています。

『沖縄決戦』の全体を覆うテンポの良さや、また多くの人々を巧みに裁いた演出は、やはり『シン・ゴジラ』などにも如実に反映されているとみていいでしょう。

これらは現在DVD化されていますので、比較的容易に鑑賞できることかと思われますが、中でも『ブルークリスマス』は毎年この季節になると必ず見るという熱心なマニアが多いことでも知られていますので、DVDレンタルされる場合はお早めに。

そして、この2作の音楽にもぜひ注目していただきたいと思います。

映画音楽一筋に生きた
作曲家・佐藤勝の生涯


これらを作曲した佐藤勝は、生前308本の映画音楽を担当した、文字通り日本映画音楽界の巨匠で、その中には『用心棒』『天国と地獄』などの黒澤明監督をはじめ田坂具隆『五番町夕霧楼』、山本薩夫『戦争と人間』、稲垣浩『風林火山』、沢島忠『股旅三人やくざ』、福田純『ゴジラ対メカゴジラ』、山田洋次『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』、五社英雄『陽暉楼』、佐藤純彌『敦煌』、澤井信一郎『わが愛の譜(うた) 滝廉太郎物語』などなど、90名を越す監督とコンビを組んで名作音楽を発表しつづけてきました。

その中で佐藤は、岡本喜八監督が生前手掛けた全39本の映画の内、実に32本の音楽を担当しています。

これはスティーヴン・スピルバーグとジョン・ウィリアムス、アルフレッド・ヒッチコックとバーナード・ハーマン、フェデリコ・フェリーニとニーノ・ロータなど、名監督と名作曲家のコンビと並べるに足るものがあります。

その中で『ブルークリスマス』は佐藤勝が珍しくシンセサイザーを用いて、はるか彼方の幽玄なる世界観を醸し出しながら、前半部の国営放送から始まるミステリ劇と、後半部の赤い血の特殊部隊隊員と青い血の女性との悲恋を巧みに結びつけていきます。

まずはオープニング、メインタイトルが浮かび上がる際の音楽を聴くだけで、壮大なる作品世界に魅了されることでしょう。

『沖縄決戦』では、沖縄の五音階を用いた楽曲をメインに、しかしながら蛇皮線などの沖縄民俗楽器を一切使わずオーケストラで堂々と奏で上げていくという、「映画音楽は音色だ」という彼ならではの主張を汲み入れた壮大なものとなっています。

驚くのは、壮絶かつ凄惨な描写が特に後半は多数配されているにも関わらず、音楽はその悲愴を盛り上げるのではなく、むしろ最後の最後まで生きようと欲した者たちの「元気」こそを奏でていきます。

公開当時こそ楽曲の明るさに対する批判もありましたが、結果としてはその音楽ゆえに沖縄戦の悲惨さが逆に耳にこびりつくといった効果をもたらしています。「哀しいシーンに哀しい音楽入れたって仕方ないじゃない?」といった佐藤の自信が伝わってきます。

映画音楽一筋に生きた彼は、「映画音楽こそ管弦楽を一般大衆に普及させる絶好の手段」として、実にさまざまなアイデアを駆使して、また作品の資質に応じてジャズから演歌、民俗音楽などの要素を盛り込み、そのための楽器のチョイスには万全を期し、それでいてメロディメーカーとして観客の印象に残りやすい楽曲の構築に努めることに腐心し続けていました。

一方で、とかく映画音楽を見下しがちな純音楽作曲家たちが発案した「劇伴」という映画音楽を侮蔑した言葉を忌み嫌い、「俺は劇の伴奏なんて一度たりとも書いた覚えはない!」と豪語(『羅生門』『七人の侍』など知られ、佐藤の師匠でもあった早坂文雄は、彼に「劇伴という言葉がある限り、日本の映画音楽に未来はない」と漏らしていたといいます)。

名匠たちとの見事なる
画と音のコンビネーション


岡本監督は当然ながら、そんな言葉など知る由もなく、佐藤に自作映画の音楽に対して全面的に信頼し、また佐藤も「岡本作品はいろいろ実験がしやすい」と、毎回あの手この手でユニークな映画音楽を披露。「何故か、気が合うて忘れられぬ~」と軍歌の替え歌交じりに彼のことを表し、打ち合わせも世間話ばかり。「優れた映画も映画音楽も、雑談から生まれるんだよ」とは、岡本&佐藤、共通の認識でした。

なお、今回は岡本作品2作品以外にも本多猪四郎監督の1955年作品『獣人雪男』(12月21日発売)、丸山誠治監督による1968年作品『連合艦隊司令長官山本五十六』(17年1月11日発売)もリリースされます。
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前者は、本多監督が『ゴジラ』に続いて手掛けた特撮映画で、日本アルプスに棲息していた雪男にまつわる惨劇を描いたもの。佐藤は本多監督からの要請で、ドイツ民謡《ムシデン(別れ)》をモチーフにした抒情的なものから、雪男と人間のドラマに絡むスリリングな楽曲まで多彩に披露。諸事情で現在なかなか鑑賞できない作品なだけに、レア度も高い作品です。

『連合艦隊司令長官山本五十六』は、東宝8・15シリーズの第2作で、対米戦争に徹底的に反対しつつ、いざ開戦が決まるや最も勇猛果敢に戦った山本五十六の生きざまを描いたもの。山本を乗せた一式陸攻機が撃墜され、ジャングルへ墜ちていくラストは円谷英二特技監督が手掛けた数々の特撮シーンの中でも屈指の名シーンですが、そこに流れる佐藤の楽曲も、これぞ東宝戦争映画の白眉とばかりに誉れ高いものがあります。

この年末年始、岡本喜八、本多猪四郎、丸山誠治の諸監督と組んだ佐藤勝の優れた映画音楽に、ぜひとも触れていただきたいところですが、佐藤は「まずは映画を見て、そこから自分の音楽に接してもらい、興味が沸いたらサントラ盤を聞いてほしい。ただ、先にサントラを聞いて、そこから映画そのものに興味を持ってもらえるのならば、それはそれで嬉しいことだよね」と、常々語っていました。

よろしければ、ぜひ画と音の双方を愉しんでみてください(もっとも『獣人雪男』だけは、音だけの鑑賞にならざるを得ないですけど)。

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(文:増當竜也)

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