『何者』と『大学は出たけれど』、不況時代の就活という妥協

何者 場面カット

(C)2016映画「何者」製作委員会

15日より全国ロードショーされている『何者』。『桐島、部活やめるってよ』の原作者・朝井リョウの直木賞受賞作を映画化した本作は、就職活動を通して自分自身が「何者」なのかを模索する若者の姿を描いた青春群像劇だ。主人公の佐藤健をはじめ、有村架純、菅田将暉、岡田将生、二階堂ふみと、今をときめく若手有望株の俳優たちが顔を揃える本作は、新たな青春映画の一ページとして記憶されることだろう。

今回は、この現代の若者社会を象徴した『何者』という映画と、同じ「就活」をテーマにした往年の名作を見比べてみたい。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.2:『何者』と『大学は出たけれど』、不況時代の就活という妥協>

小津安二郎が1929年に手がけた『大学は出たけれど』という作品がある。元々70分の作品であったが、現在観ることができるのはその一部の11分程度。それでも起承転結は辿れ(本来の作品意図とは変わっているのかもしれないが)、史上空前の就職難の時代にあくせくする主人公の光景がうかがえる。

大学を出た主人公の野本徹夫(高田稔)は、就職活動で訪れた会社で欠員がない代わりに受付なら採用をすると言われる。しかし、大卒者のプライドが邪魔してそれを断ってしまう。下宿に帰ると、郷里から婚約者の町子(田中絹代。現在観ることができる彼女の出演作では一番古いのではないだろうか)を連れて母親が上京してきている。野本は、母親を安心させるために、就職が決まったと嘘をついていたのである。母親の滞在中は会社に行くふりをして、公園で子供達と遊ぶ日々を送る野本。町子を置いて母親が帰ると、彼は自分が就職していないことを町子に告げるのだった。

当時、世界恐慌のあおりを受けて、日本の経済にも大きなダメージがあったそうだ。当時の資料を探してみると、28年度の就職率は2〜30%ほど。翌年にはそれがさらに深刻となり、ひと桁まで下降していたと言われている。
それを考えると、現在の就職事情はまだ恵まれている方なのかもしれない。たしかに、近年景気が上昇気配にあり、就職率も上がり始めていると報じられている。それでも、『何者』を見てみると、とてもその実感が得られない。

主人公たちはあの手この手を使いながら、嘘を並べ、就職戦線に勝とうと試みる。面接で自分の経歴を誇張したり、友人同士の中でさえ建前を並べることがすっかり当たり前のようになってしまっている。何だか思い当たる節が嫌という程出てくるから、多くの就活経験者は何だか居た堪れない気分になるだろう。

『大学は出たけれど』の野本のように、あまりにも厳しすぎる時代下や状況下に置かれれば、どこでもいいから入らなければならないというのも仕方ないことである。それでもプライドを貫き通そうとした彼は、婚約者がカフェ(当時は社交場のようにあまりいい印象を持たれない場だったのだろう)でアルバイトしているのを見て、居てもたっても居られなくなって、就職活動に本腰を入れるわけだ。

一方で、『何者』で佐藤健演じる主人公の拓人は、演劇への夢を半ば諦めきれない中で、妥協に妥協を重ねた就職活動に悪戦苦闘している。

何者 映画

(C)2016映画「何者」製作委員会

逆に、大学時代に没頭していた音楽活動にすぱっと見切りをつけて、新しい目標に向かい始めたルームメイトの光太郎(菅田将暉)は、着実に内定に近づいていくのだから、やはり企業側も人を見るプロである。それが誰かのための妥協ではなく、自分のために妥協した人間は、まったく魅力的ではないのだ。

まだ自分が「何者」かもわからない学生が、漠然とした〝なりたいもの〟を抱えて、それになれないからと妥協を重ねる。それが今の就職活動のリアルであるならば、自分がいま「何者」で、将来「何者」になれるのかをきちんと知るところから始めなければならないだろう。誰だって、〝なりたいもの〟になれれば、そんなにいいことはない。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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