『レッドタートル ある島の物語』と〝しゃべること〟をやめたアニメーション

レッドタートル ある島の物語02

現在公開中の『レッドタートル ある島の物語』。2000年にアカデミー短編アニメーション賞に輝いた『岸辺のふたり』を観たスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが、同作の監督であるマイケル・デュドク・ド・ヴィットに直接オファーし、約8年の歳月をかけて実現した奇跡の一本だ。

今回はあらゆるアニメーション映画の原点に立ち返った本作と、同じくスタジオジブリと所縁のあるヨーロッパアニメ界の巨匠フレデリック・バックの代表作を比較してみようと思う。

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レッドタートル ある島の物語03

この『レッドタートル ある島の物語』が最初にアナウンスされたとき、大きな話題になったのは、「セリフがない」ということだった。もちろん、出来上がった作品をみれば一目瞭然。先日一部の劇場で上映された難聴者用字幕付き上映の字幕では、ひたすら環境音の説明と「おおっ」とか「うーっ」といった言葉にならないものばかりであった。

劇中には登場人物が、ごくわずかしかいない。もっとも、途中までは独りで進行するのだから、余分なセリフがなくても然るべきだろう。しかし、二人目の人物が登場してからも、そこに会話らしい会話は一切生じないのである。

思い返せば映画は元々喋らずに、画面だけで物語ってみせることができた。ウォルト・ディズニーが『蒸気船ウィリー』で、音楽だけでなく動きに合わせたサウンドを得てもセリフを語らなかったのは、そこに映像としてのシンプルなかつ雄大な魅力があったからに他ならない。それはすべてをゼロから作り出すアニメーションの最大のメリットが生かされているということだろう。

セリフを語らないアニメーションというフィールドに立ち、『レッドタートル』に一番緊密な影響を与えている作家と言えば、フレデリック・バックだろう。50年代にカナダ国営放送の仕事を請け、70年代に短編アニメーション映画へと進出する。2011年に日本で彼の展覧会が行われたときにスタジオジブリが大々的にバックアップしただけでなく、宮崎駿と高畑勲、スタジオジブリを代表する二代監督が共に影響を受けた作家として知られているのだ。

レッドタートル ある島の物語 01

言わずもがな、マイケル・デュドク・ド・ヴィットもその影響を受けていることは間違いないだろう。前作『岸辺のふたり』はバック作品の音楽で知られるノルマン・ロジェとドゥニ・シャルランが務めており、セリフがないということ以上の共通点が見受けられる。もっとも、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメを始め、現代のヨーロッパの手書きアニメーション作家はほぼ確実にその影響下にいるとみて間違いないだろう。

『大いなる河の流れ』

バックの遺作となった、93年の『大いなる河の流れ』は、セントローレンス川の歴史を辿った、一種のドキュメンタリーアニメーションの部類に入る。おなじみのパステル調のタッチの画面に、動物や人間が行き交い、水の波紋さえも忠実かつ繊細に描きとる。環境問題に対して提起するテーマ性を持つバック作品は、代表作『木を植えた男』でも同様に、〝人間が自然に影響を与える〟ことを、良い意味でも悪い意味でも描き出す特徴がある。

対して『レッドタートル』は、タートルとの遭遇や、中盤の大津波の場面など、〝人間は自然に対抗できない無力な存在〟であることを示している点で、大きな違いがあるとも言えるだろう。現に、『レッドタートル』の主人公は、島に長く住むことがあっても、決してそこに人工物(つまりは住むための家だ)を作らなかった。あくまでも、自然の中に身を置き続けていたのだ。

レッドタートル ある島の物語05

今回の『レッドタートル』では、詩人の谷川俊太郎氏が作品に寄せた詩を贈っている。その谷川氏は『木を植えた男』が上映された当時、バックについて「彼は言葉ではなく動きによって語った」と賞賛している。どちらも動きによって語る映画であるが、大きな違いがひとつある。バックの作品にはナレーションが存在している。ところが『レッドタートル』はそれすらも削ぎ落とし、手本であるバックを超える純粋なまでにアニメーションの〝動き〟の限界を追求しているのだ。それは同時に、言葉という人工物を徹底的に排除した、自然で無防備な姿を堂々と晒した傑作であるということだ。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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