日活ロマンポルノが真にリブートするためには?

行定勲監督 ジムノペディに乱れる 日活ロマンポルノ2

(C)2016日活

1971年、経営不振に陥って久しかった老舗メジャー映画会社の日活は、ついに大英断を下しました。

従来の一般映画から成人映画=ロマンポルノへと大きく路線をシフトさせたのです。

それまで石原裕次郎や吉永小百合主演映画などで一世を風靡していた日活が「ポルノ映画を作るとは何事か!」と、当時は世間を大きく賑わせ、やがては警察が介入して「芸術か猥褻か」といった裁判にまで発展するなど、大きく映画界は揺れ動きました。

しかし、いつしか日活ロマンポルノは、実は人間の本質でもある性の問題に真っ向から挑み続けていくことによって、またたくまに映画ファンを唸らせる秀作を連打するようになり、またそこから優れた人材を輩出させていくようにもなっていきます。

今、映画史を振り返ると、日本映画界はロマンポルノがなかったら生存できていなかったかもしれません(それほどまでに当時の日本映画界は弱体化し、活気を失っていたのです)。

結局、ロマンポルノは88年に終息するまでの17年の間に、およそ1100本の作品群を世に残しました。

そして2016年、日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクトが発動し、11月26日よりその第一弾『ジムノペディに乱れる』(行定勲監督)が公開されますが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.177》

そのおよそ1週間前の11月20日、今回のリブート作品群を上映する新宿武蔵野館にて、ロマンポルノ誕生45周年記念イベントが開催されました!

日活ロマンポルノ 20161126

映画の灯を消したくないからと
つらい道のりを歩み続けた白川和子

まず、11月20日という日にちには大きな意味があります。

実は45年前の71年11月20日、西村昭五郎監督による日活ロマンポルノ第1作『団地妻 昼下りの情事』が公開されたのです(併映は林功監督の『色暦大奥秘話』)。

そして45年後のその日のイベントで『団地妻 昼下りの情事』が特別上映されることになり、主演女優・白川和子さんと70年代末から80年代初頭のロマンポルノを支えた風祭ゆきさんが、今回のリブート作品群の若手主演女優5名に迎えられて登壇し、当時の思い出などを語ってくれました。

場内は女性客も多く、またマスコミ陣も若い女性が目立つ中、壇上に立った白川さんは当時を振り返ります。

「2、3日前に妹に電話したら『当時、私たち家族はどん底だったのよ』と言われました。ロマンポルノに出演するようになって、妹は婚約破棄され、父は勤め先の役所を辞めると言い出して……。でも私は(日活という)映画の灯を絶対に消したくないと思いながら、ロマンポルノに出演し続けました」

先ごろNHK・BSでオンエアされた「アナザーストーリーズ『ロマンポルノという闘い 日活・どん底からの挑戦』」(まさかNHKでロマンポルノの特番が組まれる日が来ようとは!)によると、もともとピンク映画(60年代より勃興した独立プロ製作の成人映画)の世界で活躍していた白川さんは、ピンク映画の仲間たちから「裏切り者!」と言われたそうです。

(当時、マイナーながらも健気にピンク映画に従事していた映画人たちからすると、日活ロマンポルノは老舗メジャーのくせに、自分たちのテリトリーに入り込みやがって! と敵視したい存在でもあったのです)

「その後も楽しいことよりもつらいことのほうが当時は多かった。ナイフ入りのファンレターが届いたこともありました。でも、そんな私に『頑張れ!』と背中を叩いてもらえたのが大島渚監督でした」

大島渚監督は1976年のハードコア・ポルノ映画『愛のコリーダ』の脚本やスチル写真を掲載した書籍がもとで検挙され、裁判沙汰となっていく際に「ワイセツがなぜ悪い?」の名言を残しています。

ロマンポルノを女性にも見てほしいと
訴え続けた風祭ゆき

その大島監督の事務所に当時所属していたのが風祭ゆきさんでした。

「初めて映像で濡れ場があることに悩んでいたら、大島監督から『せっかくの主役をやらなくてどうするんだ。役者なんて肉体労働なんだから、体操だと思ってやってみなさい」と励まされて出演を決めました。あの頃(80年前後)はもう、白川さんたちが頑張ってくださっていたおかげで、ロマンポルノも明るいイメージが広がっていましたね」

当時、風祭さんはマスコミの取材を受けるたびに「ロマンポルノにも素敵な作品はいっぱいあるので、ぜひ女性にも見てほしい」と訴え続けていたのを思い出します。

さすがに当時はまだ女性が見てくれる雰囲気には程遠かったものですが、時が経って21世紀になるとビデオやDVDの普及などもあって女性たちも徐々にロマンポルノに接する機会が増えていき、シネフィル向けの特集上映や女性だけの上映会、また今はなき新橋ロマン劇場のように女性専用シートを設置するなど、以前よりは見やすい環境になっていったように思えます。

そして今回の日活ロマンポルノ・リブートには、5人の若手女優が自らの意思で作品に臨んでいます。

リブートに主演する若手女優たちの
初々しい意気込み

では、その5作品に出演する女優たちのコメントも紹介していきましょう。

芦名すみれ『ジムノペディに乱れる』
(行定勲監督/11月26日公開)

行定勲監督 ジムノペディに乱れる 日活ロマンポルノ1

(C)2016日活

「長編映画の出演も初めてなら、濡れ場も初めて。ファースト・カットも濡れ場でした。立ち食いそば屋のシーンで監督から『のれんの下から見える足に表情がほしい』と言われ、少し動きをつけるだけで大きく表現を変えることができるということもわかりました」

間宮夕貴『風に濡れた女』
(塩田明彦監督/12月17日公開)

塩田明彦監督 風に濡れた女 日活ロマンポルノ2

(C)2016日活

「アクション・シーンが多い映画で、中でも自転車で海に飛び込むというシーンがあったのですが、絶対に失敗が許されない状況だったもので、最後は開き直って一発でやり遂げましたが、あんなにプレッシャーを感じたのは初めての経験でしたね」

井端珠里『牝猫たち』
(白石和彌監督/17年1月14日公開)

牝猫たち 16

(C)2016日活

「初めて縄で縛られるシーンがあって、あまりにも痛くて、縛られたままの待機中に泣いてしまったとき、SMクラブ・ママ役の白川さんが私を抱きしめてくださったんです。痛くて泣いていたのに、今度は白川さんの優しさが嬉しくて、また泣いてしまいました」

冨手麻妙『アンチポルノ』
(園子温監督/17年1月28日公開)

ANTIPORNO 園子温監督 日活ロマンポルノ1

(C)2016日活

「『お前、脱げるか?』と園監督に初めてお会いしたときに聞かれて『脱げます!』。そして出演が決まり、何度もリハーサルを繰り返して現場に望んだら監督から『リハーサル通りにやってんじゃねーよ! つまんねえだろ!』と怒られてびっくりしました(笑)」

飛鳥凛『ホワイトリリー』
(中田秀夫監督/17年2月11日公開)

ホワイトリリー 中田秀夫監督 日活ロマンポルノ1

(C)2016日活

「初めて女同士のラブシーンをやりました。最初は緊張して上手く演じられずに泣いてしまうほどでしたが、慣れてくると女同士のほうがいいかもと思うようになりました。女性のほうが男性よりも肝が据わっているというか、女って強いんだなって……」

最後の飛鳥さんの「女性のほうが肝が据わっている」という発言には、全員がウンウンと大きく頷き、場内は爆笑となりましたが、逆に言えば肝が据わっていないとやり遂げられない仕事でもあるのでしょう。

そんな肝の据わった若手たちに白川&風祭のベテランふたりもご満悦。

「こんな素敵な後輩たちができて本当に嬉しく思います。私なんて“一滴”にすぎませんが、45年の月日を経て、日活ロマンポルノは“大河”になったんだなと」

ロマンポルノという名の“大河”に
行きつくための、それぞれの“一滴”

白川さんの発言を聞きながら、こちらもハッとさせられました。

カミングアウトしますと、実は私自身、今回の日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクトに対して、ずっとモヤモヤした感情を抱いていました。

個人的には80年代、日活がにっかつと社名を改めていた時期に20歳を迎え、バブル景気にそぐわないまま、どことなく場末の名画座で4本立て500円のロマンポルノやピンク映画を見て、日がな一日を過ごしていた身としては、あの当時のどこかエロ目的で見ていること自体がどこか後ろめたい、しかしながら時折“映画”としてハッとさせられるものに遭遇してしまったときのカタルシスなどなど、ロマンポルノに対しては常に一言では言い表せない複雑な想いが走ります。

また、最近はベテラン映画評論家が盛んにロマンポルノがいかに素晴らしいものであったかを力説する文章等に触れる機会が増えてきていますが、実際のところ、およそ1100本のロマンポルノの中で真に優れているのは数割で、大方はやはり男性の欲望を満たすだけのものが大勢を占めていたと思います。

現に、ロマンポルノは80年代半ばのアダルトビデオの台頭によって姿を消すことになります。

要するに日活ロマンポルノとは、所詮男たちの欲望の産物に過ぎなかったのではないか?

しかし、そんな男たちの欲望に、女優たちそれぞれが「一滴」となって真摯に対峙し続けていった結果、とてつもない化学反応が生じて、人間の重要な本質でもある「性」をテーマにした傑作が多々生まれていったことに相違なく、
また、そう考えると、単にロマンポルノが素晴らしいものであったというよりも、ロマンポルノというジャンルの中からとてつもない傑作が多々生まれたと捉える方が適切のように思えてなりません。

ここに至り、私もようやくモヤモヤがとれ、心の底から今回のプロジェクトを応援したいという気になりました。

表に出せない人の闇の心情を
描き続けた日活ロマンポルノ

世界に昼と夜があるように、人もまた昼の営みと夜の営みが存在します。

そして人は明るい昼間の営みのみを表に出したがり、夜の暗闇の中での営みを隠したがります。

しかし、夜の営みを見て見ぬふりして生き続けることもまた不可能なわけで、とかく性に関する問題は、「愛」とも「欲望」とも名を変えながら、こちらに提示されていくものです。

あるとき、白川和子さんのところに40歳手前くらいの女性が「SEXのときの声の出し方を教えてください」と来たのだそうです。

話を聞くと、夜毎の声の出し方がよくわからず、結果として夫に離婚されたとのこと。そして再婚話が舞い込んだとき、今度こそ離婚したくないけど、どうしたらいいのかわからないので、白川さんに相談してきたというのです。

今でこそ女性誌のSEX特集とかは珍しくも何ともない時代ですが、当時女性たちがその手の情報を得る術はほぼなく、ひとりで抱え込むケースがほとんどだったようです。

「こういった人たちの悩みの相談を受けながら、私も頑張ろうという気になっていました。今の若い女性たちは(性の問題などに対して)明るくていいですね」

日活ロマンポルノとは、その存在を肯定するにせよ否定するにせよ、やはり性に関する問題意識を人々に与えてくれていたのかもしれません。

日活ロマンポルノの原点たる
第1作『団地妻 昼下りの情事』

イベント当日に上映された日活ロマンポルノ第1作『団地妻 昼下りの情事』は、今見ると実にベタな内容の映画です。
団地妻 昼下りの情事

夫との夜の営みが不満で、ついつい友人の男性と一夜の浮気をしたところを団地の主婦仲間に見られ、それをネタにゆすられて団地内売春グループに強制的に入らされるも、やがて大金を手にするようになるにつれ、自分の中で何かが変わっていく……という、今となってはありふれた話かもしれません。

しかし、ここには後のロマンポルノが内包するほぼすべての要素が詰まっているようにも思えます。

特に性に対する不満という要素は、今でこそオープンになってきているでしょうが、当時は女性がそういった不満を漏らすこと自体タブーだったのではないでしょうか。

また、だからこそこの映画のラストは悲劇で終わらせないと、当時は欲望丸出しで映画館に見に来た男性観客をも戸惑わせることになったことでしょう。

これが70年代末から「にっかつ」とひらがなに社名を変更して以降は、その柔らかさに伴うライト感覚の青春ポルノ作品も増えていきますが、その奥底にはやはりどこか隠微なものを魅せるという要素に怠りはありませんでした。
(そもそも思春期なんて、あれほど淫靡で悶々とした時期はないわけで……)

もちろん当時、一般的な女性たちの中でロマンポルノを支持する向きはごく少数ではあり、むしろ生理的に毛嫌いする向きが多数ではあったかと思われますが(ある意味当然でもありますが)、一方で徐々に性への興味を露にしたがる向きも増えていったのではないかと思われます。

ロマンポルノ終焉から2年後、テレビドラマ『東京ラブストーリー』のヒロインの名セリフ「カンチ、SEXしよ!」なんて、その象徴でもありました。
(ちなみにTVに関しては、現代の方がむしろ保守的になりすぎて性表現の自己規制なども激しくなっており、それはそれでちとやばいのではないかと危惧してもおりますが……)

日活ロマンポルノ・リブ-ト
そのカギを握るのは?

そして今、ロマンポルノを見る若い女性たちの多くは、性描写そのもののことよりも、映画としての面白さやオシャレさなどに着目しているようです。

つまりは女性たちがロマンポルノを映画として認めてくれるようになった。

しかし、それを成し遂げるまで、45年の月日がかかり、ここに至るまでの白川和子さんや風祭ゆきさんたちの苦労を忘れてはならないところでしょう。
(一度引退して結婚し団地に住んでいた彼女は、そのキャリアを吹聴され、周囲の団地妻たちのイジメに遭った時期もあったとのこと)

今回、日活ロマンポルノは真にリブートできるのか? そのカギは、今やAVすら当たり前のように見られて性に対する欲望が薄れがちで、ついには生身の女性との交わりを汚いとみなす者まで出てきたと聞く男性ではなく、性に対して自由になりつつある女性たちが、それぞれの立場で、いかにこれらの作品群を捉えるかにかかっているような気がします。

実は今回のプロジェクト、女性スタッフが多数参入し、今の時代にロマンポルノを蘇らせることの意義を腐心し、探求し続けています。

そんな彼女たちが世に放つ今回の5作品が幅広い女性層に受け入れられ、引き続きプロジェクトが続投されるようになれば、いずれは女性監督によるロマンポルノもごく当然の行為として作られていくことでしょう。
(ピンク映画の世界では、昔から浜野佐知、珠瑠美、吉行由実など優れた女性監督が、ごくごく普通に作品を撮り続けてきています。その点に関しては、日活ロマンポルノは後れをとっていました)

男だけでなく女の欲望も受け入れるだけの度量は、昔も今もロマンポルノには備わっているはず。

あとは、現代における性とは何なのか? を、おのおのの作り手がそれを見いだせられるかでしょう。

まずは26日公開の第1弾『ジムノペディに乱れる』を見てみましょう。劇場まで行くのはちょっと……と、まだこういった作品に不慣れな女性の方々には、実は各作品とも初日の深夜、BSスカパーにてR-15版がオンエアされますので、そちらでもお楽しみいただけます。

老若男女(ただし18歳以上ね)、今回のリブート作品を鑑賞してみてください。みなさんひとりひとりの感想が、このプロジェクトの成否を、ひいては今後の人と性の問題意識を高めてくれるかもしれないのですから!

(文:増當竜也)

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    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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