9月公開作品の歴代ヒットベスト5は?

おくりびと

(C)2008映画「おくりびと」製作委員会

シネコンの増加は、興行のノンシーズン化を促した。

先輩 先日、ちょっと興味があって調べてみたんですが、9月というシーズンは、意外にヒット作が多い時期なんですね。

爺 最近はね。昔は秋の興行といえば、ヒット作が出ない時期だったんだよ。だから各配給会社はツナギ的な作品や、再映作品とかでお茶を濁し、年末の正月映画の公開に備えたものだった。

先輩 確かに昔の資料を見ると、9月は夏休み映画のロングランを行ったりと、公開される新作の数が少ないんですよね。他の月よりも休日や祭日の数が多いから、ファミリー映画などの稼働も見込めると思うんですが。

爺 一時期、松竹がウルトラマン映画を9月に出していたね。

先輩 そんな配給・興行の方法論がシネコンの増加によって、変わり始めたわけですね。

爺 時期的に言うと、今世紀が始まった直後ぐらいからかな。シネコンそのものは90年代の半ばあたりから増え始めたんだが、それが全国に拡大し、お客さんの注目を集めたのが2000年あたりから。だから2001年の夏休み興行は、コケた映画がないぐらい大ヒット作がたくさん出た。

先輩 ジブリの「千と千尋の神隠し」が、まさに2001年夏の公開ですよね。

爺 それと「A.I.」やら「パール・ハーバー」やら「ジュラシック・パークIII」やら・・・。

先輩 昔の映画館は、1本ヒット作が出ても、次の作品の公開初日が決まっていたりすると、そこで打ち切らざるを得なかった。スクリーンがひとつしかないから。ところがシネコンになって、別の作品が出ても、ヒット作は別のスクリーンに移動してまだまだ上映出来る。これは大きな違いですね。

爺 プロック・ブッキングという言葉を聞いたことあるだろう。邦画系と称する映画館には、そこと契約した配給会社が年間を通して作品を供給するんだが、映画が完成する前から公開初日と公開終了日が決まっているんだよ。

先輩 誰が、いつ決めるんですか? そういうことは。公開してみなければ、5週間上映出来るのか、2週間で終わるのか分からないじゃないですか。

爺 配給会社の人に聞いたら「あのデイトは、あくまで期待値です」だって(笑)。例えば「クレヨンしんちゃん」シリーズなどは、毎年邦画系で3週間の上映なんだよ。それなのに3週間で終了する映画館なんてありゃしない。

先輩 シネコンになってから、3週間を超えても別のスクリーンで続映出来ますしね。このところ「クレヨンしんちゃん」シリーズはヒットが続いていますし。池袋の上映館なんて、3週間どころか3ヶ月近く、7月まで上映していますよ。

夏公開でも秋公開でも大ヒット「踊る大捜査線」シリーズ

先輩 ま、そんなことを背景として、9月のヒット作を調べてみたので、そのベスト5を発表したいと思います。

爺 大げさなやっちゃなあ・・・(笑)。

先輩 えー、では発表します。9月公開作品の歴代ヒット作第5位は、「踊る大捜査線THE FINAL/新たなる希望」。2012年9月公開で、興行収入59.7億円をあげました。

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

爺 フジテレビの映画だね。「踊る・・」シリーズの完結篇とのふれこみだが、これって夏休み公開じゃなかったっけ?

先輩 「踊る・・」シリーズは全部で4作品あって、2作目と3作目が夏休みである7月公開。1作目に至っては1998年10月31日と、秋興行のどん尻に公開されましたが、当時の興行収入で101億円上げる大ヒットになっています。

爺 そうしてみると、TVシリーズで固定ファンがいる作品は、どのシーズンに出してもヒットする、ということになるかなあ?

先輩 その傾向は強いと思います。コンテンツに対する忠誠心を持ったユーザーが多いと、まあそういう表現も出来ますね。

新ピカと丸ピカ、シネコンと既存館が「おくりびと」を盛り上げた!

先輩 では9月公開作品の歴代ヒット作第4位ですが、これが面白い。「おくりびと」。2008年9月の公開で、興行収入64.8億円。アカデミー賞も取りました。

映画「おくりびと」【TBSオンデマンド】

爺 ほほお。地味な作品だと思っていたが、これほどの大ヒットになったとはなあ。

先輩 僕はこの映画がアカデミー賞をとった時、プロデューサーに取材する機会があったのですが、これは幹事会社のTBSとしても、かなり戦略的に動いたようです。

爺 どういうこと?

先輩 実は公開する1年前に、作品は完成していたというんです。なのにすぐ公開しなかった。その1年間延々試写会を行って、作品の良さをアピールしていった。それと、公開を2008年9月に決めていたのは、新宿ピカデリーがオープンするのを待っていたと。

爺 なるほど。新宿2番目のシネコンだからな、新宿ピカデリーは。2008年7月にオープンしている。確かに新しくオープンするのであれば、話題にもなるし集客も見込める。

先輩 ひとつ注釈を加えると、興収64.8億円というのはファーストランだけでなく、アカデミー賞を受賞した翌年3月の公開分を併せた成績なんです。2008年年末の時点では興収30.5億円でしたから、アカデミー賞受賞によって、34.3億円上積みされたことになります。

爺 凄いことが起こったんだなあ。まあ確かに、これは例外中の例外で、9月公開作品と単純にはくくれないかな。

先輩 でも、新宿ピカデリーは延々この映画の上映を続けたんですよ。これも幹事会社のTBSの意向に沿ってだと思いますが、1日数回での上映になっても、着実にお客さんは来たとのことですし。

爺 逆に丸の内ピカデリーは、ファーストラン終了の時点で上映を終了した。それでアカデミー賞受賞の際に、再度上映したところ、連日満席になった。

先輩 シネコンである新宿ピカデリーは、アカデミー賞受賞時1日数回の上映だったのですが、丸の内ピカデリーは、1日フルに上映したんですよ。確か1日5回上映していたと思います。受賞直後は、そのすべての回が満席になったと、当時聞きました。

爺 それと、この映画の場合客層のメインが中高年層からシニアにかけて。そういう人たちは、新宿に出来た新しいシネコンは知らなくても、有楽町マリオンにある丸の内ピカデリーは認知している。この時点で30年近く営業していたんだからな。そのあたりの差というものも、この凱旋上映の成績にも出たんじゃないかな?

先輩 そうですね。知名度のある作品で、中高年層がメインであれば、長く営業している映画館は強いですよ。

「スター・ウォーズ」を避けて9月に公開した「マトリックス」

爺 第3位はどの作品?

先輩 なんと前世紀公開の作品ですよ。3位は「マトリックス」。1999年9月に公開されて、興収78.8億円あげています。当時は大騒ぎでした。

マトリックス (字幕版)

爺 いや、配給会社としてもさほど自信があったわけではないと思うけどね。

先輩 あまりにも作品が斬新すぎて。どう扱って良いか分からなかったということですか?

爺 なにせメイン館にしても、丸の内ピカデリー2系と渋谷東急系のダブル・チェーンだからな。当時はチェーンマスターと呼ばれる、主幹興行会社の直営館の力がとても強かったから、勝負作ということなら、松竹・東急系なら丸の内ピカデリー1系、丸の内ルーブル系あたりに出すことが常套手段だった。メガヒットを狙う大作となれば、この2つのチェーンの両方に作品を出す。シネコン以前の洋画興行は、そういうことが一種の業界常識になっていたもんだ。

先輩 さすがに、昔のことはお詳しい(笑)。

爺 さほど昔のことでもありゃせんよ。その「マトリックス」だが、監督のウォシャウスキー兄弟(現・姉弟)は当時「バウンド」しか日本公開されてない、無名の監督。主演のキアヌ・リーヴスにしても、「スピード」がヒットした程度の知名度だった。

先輩 監督や俳優のネームバリューよりも、この圧倒的な映像のトリッキーな感覚が話題になりましたよね。

爺 それもまた、映画を見た人たちが騒いだから、というのが正解なんじゃないかなあ? 配給会社としては、ここまでの大ヒットを見込んでいなかったというか、とにかくどう扱って良いのか判断出来なかったと思うよ。この映画が公開された頃、シネコンはもうあちこちにあったのかな?

先輩 手持ちの資料を見ると、全国興収のうち36.79%がシネコンによるものだそうです。

爺 なんで夏休みに公開しなかったのかな?

先輩 この年の夏休み興行は、「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」がありましたら、同じSF映画としてぶつけるのは得策ではないと判断したのでしょう。

1位「HERO」、2位「THE LAST MASSAGE/海猿」

先輩 さて第2の作品の発表ですが、あまり面白くない結果が出ていますので、第1位の作品と続けて発表したいと思います。

爺 投げやりじゃのお。

先輩 だって、第2位が「THE LAST MESSAGE/海猿」第1位が「HERO」なんですよ。

THE LAST MESSAGE 海猿

HERO 特別限定版(3枚組) [DVD]

爺 なんじゃ、両方ともフジテレビの作品か。

先輩 ね。面白くないでしょ(笑)?

爺 まあな。

先輩 ちなみに「THE LAST MESSAGE/海猿」は2010年9月の公開で興収80.4億円をあげ、「HERO」は2007年9月に公開されて、興収81.5億円を計上しています。

爺 「HERO」って第2作も同じタイトルなんて、紛らわしいんだよな。

先輩 確かに、「HERO」(2007)と表記しなくてはならなくなりますし。

爺 じゃが、両方ともフジテレビの作品とは言っても、これだけの大ヒットになっているのは、何か理由があるんだろうに。

先輩 まず「THE LAST MESSAGE/海猿」の場合は、3D映画にしたんですね、シリーズで初めて。というのも、この年の正月に「アバター」が公開されて、興収156億円の大ヒットを記録。以後「アリス・イン・ワンダーランド」が128億円、「トイ・ストーリー3」が108億円あげるなど、3D映画がブーム現象を起こしました。それで「海猿」の新作にも3Dを導入した、と。

爺 つまり流行に乗ったわけじゃな。

先輩 そう言ってしまえば身も蓋もありませんが、大事なことですよ。ヒットする要素が顕在化してるんですから、乗らない手はないですよ。

爺 まあ確かにそうじゃな。とにかくこの時は、3D映画であることが、興行的に有利であったと。今はそうでもないけど。

先輩 歴代トップの「HERO」にしても、「踊る大捜査線」や「海猿」と同様、TVドラマや映画で既に知名度があるわけですから、いつ公開しても確実にヒットするとは思うんです。ただし、ここで注目したいのは、なぜ夏休みではなく9月に公開したかということで。

爺 製作スケジュールが間に合わなかったんだろう。

先輩 それもあると思いますが、やはり夏休みシーズンといえば、ハリウッド映画の超大作がたくさんのスクリーンを占拠して大々的に公開されるじゃないですか。もともと知名度のあるタイトルならば、そうした大作とガチンコ勝負する必要はない。むしろ避けたほうが有利な展開になる。

爺 ハリウッド映画の大作だというので、1つのシネコンで2つも3つもスクリーンを空けてみたら、まったくお客が入らなくてがっかりという、特にこの数年はそういう話をよく耳にするぞ。

先輩 そういう営業的な事情もありますが、いざ宣伝という段階でも、大きい作品のない秋シーズンならば、注目してもらえる。メディアにも大きく扱ってもらえるメリットはありますね、確かに。

爺 とにかく、スクリーンぶんどり合戦は、もう無駄だと言ってるんだ。「HERO」のオープニング・スクリーン数はいくつだった?

先輩 えっと・・・475スクリーンです。

爺 不毛と言われた秋口、9月の公開で475スクリーンでの上映。それで興収81.5億円も上がるんだから、夏休みに800スクリーンも900スクリーンも占拠して興収30億円にも達しなかった作品は、とんでもない無駄遣いをしているじゃないか。

先輩 こうして見ると、我が国の映画マーケットは、徐々に変貌を見せていることに気づきますね。

爺 そう。興行は経過観察が最も重要だからな。ところでこの企画は、毎月やるのかな?さし当たって10月の歴代ヒット作とか。

先輩 さて、どうなんでしょうねえ?じっくりと分析すれば、色々と新しい発見があるかもしれませんね。

(文:斉藤守彦)

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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