鬼才・園子温が全てを脱ぎ捨て本当の自分を見せた!映画「園子温という生きもの」

園子温という生きもの ポスター
(C)2016「園子温という生きもの」製作委員会

同日公開「ひそひそ星」についてはこちら

今週末より、「ひそひそ星」と同時期公開されるドキュメンタリー映画「園子温という生きもの」を、今回はひと足お先に鑑賞させて頂いた。
映画「ひそひそ星」のメイキングとしても楽しめる、園子温監督のプライベートに密着したドキュメンタリーである本作は、映画ポスターのメインコピーにもある言葉、「時間がない!生きることを出しおしみするな」この言葉の真意が心に響くような、まさに「俺が園子温だ!」的な内容満載の映画となっている。

作品から受けるイメージとは180度違う、人間・園子温の姿

「ひそひそ星」の撮影中、「いい映画になるかな?自信がない」と、思わずスタッフにもらす姿や、渋谷駅前でのゲリラ撮影中、駆けつけた警官たちに職質されるところまでも、本作のカメラはしっかりと捉えている。この部分など、普段作品を通してしか監督を知らない我々には、貴重な映像だと言えるだろう。

本編中には、園監督が子供の頃につけていた映画鑑賞ノートが出て来るのだが、なんとそこにはすでに「園子温第一回監督作品」の考想が!しかもスタッフ・キャスト、ストーリーだけで無く、しっかりと制作費の金額まで書かれているとは!

その他にも、公私にわたり名パートナーである神楽坂恵をはじめ、染谷将太や二階堂ふみなどの過去作出演者へのインタビューによる、「客観的に見た園子温」像の証言もあり、映画のメイキング以外にも、園子温監督の自宅やアトリエなどのプライベート映像も多く紹介されているので、この部分もファンには要チェックと言える。

本作に登場する園監督の絵の描き方を観れば判るように、確かに最終的にどんな絵になるか?それがいい絵か悪い絵なのかは、完成してみないと判らないような描き方をしている。園監督の映画作り精神にも似たこの場面が、実は冒頭で述べた「時間がない!生きることを出しおしみするな」という言葉と共に、ラストに向かって密接に関係していくことになるのだが、それはぜひ劇場でご確認を!

量より質!その熱い思いとは

本編中、雑誌関連の授賞式に出席した園監督の映像が出て来るのだが、その受賞スピーチで監督がはなった言葉が、次のようなもの。

「質を考えてると前に進めないんで、とにかく前進するために量産する。量産する中で、なんか偶然いいものが出来ればいいな、そういう考え方でやってきました」

そう、監督自身のフィルモグラフィーが雄弁に語る通り、園子温流の映画作りとはまさに「質より量」なのだ!

映画が量産されることで技術も演技も磨かれ、知識と体験が蓄積される。その中で、ある日突然突発的に大傑作が生まれる光景を、思えば我々映画ファンは何度も眼にしてきた。そう、これこそ、日本の映画産業が黄金時代を迎えていた頃の「プログラム・ピクチャー」的量産体制そのものではないか。

ひょっとしたら、園子温は生まれる時代を40年遅く間違えたのかも知れない、そう思ってしまった。

本作の終盤で語られる、園子温監督が映画を取れなかった10年間という空白の期間の存在。その経験が現在の園子温監督の原動力となっているのは間違いないだろう。自分の撮りたい作品だけを撮って、その代わり5年、10年に1本しか撮れないのと、仕事として不本意な作品でもとにかく撮り続けて、その中で時に傑作が生まれるのを待つやり方と、どちらを選択するか?それは映画監督という職業の持つ、究極の選択なのかも知れない。

「風化しかけた記憶に対しての小さな詩を作りたい」 by 園子温

今も尽きない、園監督の福島への熱い思い。使命とか義務ではなく、今自分が為すべきもの、という点を考えると、自然と福島にたどり着くと答える園監督。
監督自身が、「これは記憶に関する映画だ」と語る「ひそひそ星」では、モノクロで映し出されていた福島の被災地が、不思議なことに同じ町並みでも、本作のようにカラーで撮影されると、とたんに人の生活の気配や温かみが感じられてしまうことが判る。

映画「ひそひそ星」での園子温監督の目線は、ことさらに被災地である点をアピールせず、あくまでも現状に寄り添うかたちで淡々と映し出していく。

まるで、いつもの熱量をそぎ落とした様な絵作りからは、その代わりに優しさと暖かさが感じられる。個人的にはそれを、福島の被災地と、とことん向き合おうとする監督が到達した境地なのでは?そう感じたような気がした。

最後に

「人間というものは、いいとか悪いとかじゃない、描いて表現して生きることがいいことなんです!」

オープニングとラストで印象的に語られる、園子温監督のこの言葉通り、福島で被災された現地の方々を、出演者として起用し生きる希望を与えること、そして今の福島の様子をスクリーンで描き続けること。それこそが園子温監督にとっての「いいこと」なのだろう。おそらく、そこに世間の評価というものは、もはや二の次なのだ。

普段の園子温監督作品のような「残酷描写」に魅力を感じるファン、そしてここ数作の園子温監督作品を観て、ちょっと劇場から足が遠のいていた方にこそ言わせて頂く。
今回の「ひそひそ星」こそ、園子温監督の前進を示す大きな一歩だと。そして、この「園子温という生きもの」こそ、その背景と創作過程を記録した貴重な資料なのだと。

「ひそひそ星」を観た方には、ぜひこの「園子温という生きもの」をあわせて観ることをオススメしたい。

同日公開「ひそひそ星」についてはこちら

(文:滝口アキラ

    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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