「スター・トレックBEYOND」/えらく「ワイルド・スピード」っぽい内容じゃないかと言われても、この監督だからなあ。

スター・トレック BEYOND1

(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

J.J.からジャスティン・リン監督へ。

先輩 リブート開始以来3作目となった「スター・トレック」のリブート・シリーズだけど、新作「スター・トレックBEYOND」は、前2作のJ.J.エイブラムス監督からジャスティン・リン監督にバトンタッチした。

後輩 オリジナルのTVシリーズはおろか、ロバート・ワイズ監督の映画版第1作をはじめとする、最初の映画シリーズも、ピカード艦長のシリーズも知らない僕でもJ.J.監督の「スター・トレック」「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」は楽しめました。でもなんで監督が交代したんですか?

先輩 さあなあ。J.J.はプロデューサーとして参加しているんだが、「スター・ウォーズ」の新シリーズもあるから、忙しいんじゃないか?

スター・トレック BEYOND3

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「スター・トレック」の世界観を構築しているのは、メカやガジェット類でなく、キャラクターたちだ。

後輩 ジャスティン・リン監督は「ワイルド・スピード」シリーズで知られていますが・・・。

先輩 映画を見て思ったけど、その起用は明らかに狙いがあってのことだね。

後輩 どんな風にですか?

先輩 「スター・トレック」シリーズといえば、その独自のSF的世界観が多くのファンを掴んでいるわけだが、それを支えているのは何だと思う?

後輩 エンターブライズ号でしょうね。

先輩 オレもそう思った。「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」の冒頭でエンターブライズ号が水中から姿を現すカットを見て、胸が熱くなったよ。やっぱりエンタープライズ号と宇宙戦艦ヤマトは、自分にとって別格なんだと(笑)。

後輩 あとやっぱり、転送装置とかトライコーダーとかのガジエット類ですね。今見ても、けっこう未来っぽい。

先輩 ところが今度の「BEYOND」では、エンタープライズ号は最初と最後しか出てこないんだよ。映画の前半でエンタープライズ号は大破し、助かったクルーたちは、未知の惑星でバラバラになってしまう。

後輩 それじゃあ「スター・トレック」にならないじゃないですか(笑)。

先輩 いや、そういうシチュエーションはオリジナルのTVシリーズにもけっこうあったしね。映画版で言えば、「スター・トレック4/故郷への長い道」が、過去の地球にクルーがやってきてミッションを遂行する傑作だった。

スター・トレック BEYOND

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「仲間を大切にするあたりは、確かに『ワイルド・スピード』シリーズ的」

後輩 確かに、エンタープライズ号の内部だけでドラマが終始してしまう傾向はありました。これは「スター・トレック」シリーズだけではありませんが、宇宙を舞台にしていると言いながら、宇宙船のブリッジで、みんなでモニターを見ながら指示や命令の応酬だけというパターンは、SF映画によく見られます。

先輩 もしかしたら、ジャスティン・リン監督はそういったシリーズのパターンを、いったん解体する狙いで起用されたんじゃないかな?と思ったんだよ。

後輩 でも「ワイルド・スピード」シリーズの監督ですよ。アクション映画とSF映画では、演出の仕方が違うでしょう?

先輩 リブート版「スター・トレック」も「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」も、良く出来た作品であることには違いないし、そもそもこのリブート・シリーズはこれまでの「スター・トレック」シリーズよりもキャラクター描写に念を入れていると思うよ。だから「スター・トレックBEYOND」を見て、ああ、このシリーズの世界観を支えているのはエンタープライズ号やガジェットの類いじゃなくて、カークやスポック、マッコイたちキャラクターだということが、よーく分かった。

後輩 舞台が未知の星で、レギュラークルーはバラバラになってしまうわけですから、ドラマとしてはそのクルーがどう集結するかという見せ場も出来ますね。

先輩 それ以外にも、カークの下すある決断とか、スポックが受けた衝撃とか、キャラクターひとりひとりに見せ場がある。だから、「スター・トレック」とは必ずしもエンタープライズ号が登場して、ブリッジでのやりとりやガジェット類を使って冒険を繰り広げたり、そういった要素がなくても成立するのだということを、この「BEYOND」は立証してくれた。その上で、バラバラになったクルーたちが危機を乗り越えたり、力を合わせたり、仲間を大切にするあたりは、確かに「ワイルド・スピード」シリーズ的と言えばそうだね。これまで「スター・トレック」シリーズは、最初のTVシリーズ以来、「トレッキー」と呼ばれる熱狂的なファンに支えられてきたけど、今回の映画ではよりキャラクター・ドラマを前面に押し出し、もっと広範囲な客層にアピールしようという狙いも感じられるよ。とはいえ、カークがバイクに乗って疾走するあたりは、僕も驚いたけど(笑)。

スター・トレック BEYOND サブ2

(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

それでもキャラクターたちは、生きつづける・・。

後輩 ところで、スポックを演じたレナード・ニモイが、「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」を最後に2015年2月に亡くなられましたが。

先輩 そのあたりも、ドラマに入れこんであるんだ。これは言ってもかまわないだろう。なんたって彼はスポック大使の役で、このリブート・シリーズのレギュラークルーだからね。それと「スター・トレックBEYOND」でも活躍した、チェコフ役のアントン・イェルチンが今年6月に死去したのも、哀しい出来事だった。

後輩 演じている俳優たちが死んでしまっても、キャラクターたちは生きつづける。

先輩 そう。キャラクターたちこそ「スター・トレック」シリーズの世界観を構築し、牽引していく存在だ。その重要性と可能性を、ジャスティン・リン監督はこの映画で改めて見せてくれた。

後輩 リブート版第4作のためにも、この作品は必見ですね。

先輩 「スター・トレック」という長寿シリーズの可能性を、この映画は拡大してくれたように思うな。さて第4作はどんな展開になるのかな。

(企画・文:斉藤守彦)

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    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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