任侠映画スター藤純子(ふじじゅんこ)から名優・富司純子(ふじすみこ)への道

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.35

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

富司 純子(藤純子)さん

今も繰り返し特集上映やテレビ放映などがなされる“緋牡丹博徒”シリーズなどの名作で知られる藤純子(ふじじゅんこ)。男たちが切磋琢磨する任侠映画の世界で可憐な花を咲かせ続けた彼女は、やがて引退し、富司純子(ふじすみこ)として再生し、今や日本映画界になくてはならない名優として君臨し続けています。

藤純子と富司純子、甲乙つけがたいふたつの名を持つひとりの女優の足跡を振り返ってみましょう。

“任侠映画の花”
藤純子として

富司純子は1945年12月1日、和歌山県御坊市の生まれ。
父は東映任侠映画の伝説的大プロデューサー俊藤浩滋で、5歳のときに大阪市に移り、7歳で日本舞踊を始めます。

中学3年のときに宝塚歌劇団に魅せられ、本気で宝塚音楽学校を受験しようと思ったものの、父に反対されて断念。

62年、高校2年で大阪よみうりテレビの歌謡番組『ハイハイ、マヒナです』(62~63)のカバーガールとして姉・充子とともに出演し、芸能界デビューしました。

同年、一家で京都へ引っ越し、翌63年、松竹からスカウトされかかったことで、東映京都撮影所のマキノ雅弘監督のもとを訪れて相談したところ、女優になるのなら自分が面倒を見ようと、その後すぐに『八州遊侠伝・男の盃』(63)に出演させ、マキノ監督自らの命名で映画女優“藤純子(ふじじゅんこ)”としてデビューを飾ります。

この後、時代劇から現代劇とさまざまな作品に出演し、男まみれの世界での紅一点として注目されていきますが、当時の東映は時代劇から任侠映画に移行しようとしていた時期で、65年、沢島忠監督の『股旅・三人やくざ』や加藤泰監督『明治侠客伝・三代目襲名』などの好演が認められ、同年度の製作者協会新人賞を受賞。

66年にはマキノ監督『日本侠客伝・血斗神田祭』や中島貞夫監督『男の勝負』、山下耕作監督『兄弟仁義・関東三兄弟』などで女の想念を発露させながら、多くの男性観客を魅了していきました。

またこの年、NHK大河ドラマ『源義経』に静御前の役で出演し、後に主演の尾上菊之助(現・七世菊五郎)と結婚することになります。

東映が任侠路線をひた走り、女優たちの出番が少なくなって所属女優たちが次々と去っていく中、藤純子だけは“任侠映画の花”としてスター街道を邁進していくことになります。

その決定打となったのが68年、初主演となった山下監督『緋牡丹博徒』に始まる緋牡丹博徒シリーズ全8作(68~72)で、ここでの女やくざお竜はまさに凛とした美とさっそうとした殺陣など彼女の魅力を存分に発揮させたもので、かくして藤純子は鶴田浩二、高倉健と並んで東映の屋台骨を支える存在と化していきます。

ほかにも“日本女侠伝”シリーズ全5作(69~71)や、内田吐夢監督『人生劇場・飛車角と吉良常』(68)、中島監督『日本暗殺秘録』(69)、マキノ監督『昭和残侠伝・死んで貰います』(70)などこの時期の数多くの任侠映画で好演しています。

しかし71年11月、尾上との婚約を発表し、それとともに映画界からの引退を発表。

「散ってこそ花。散らない花なんて造花です。散りたくなくても散らされてしまう花も多いようですが、私は満開のうちに散りたかった」

といった名言を残し、翌72年のマキノ監督によるオールスター映画『純子引退記念映画・関東緋桜一家』を最後に、銀幕から去っていきました。

寺島純子から富司純子へ
映画スターとしての再生

この後、藤純子は寺島純子と本名に戻り、フジテレビのワイドショー『3時のあなた』で74年から77年、そして80年から88年まで司会を担当。また83年にはNHKドラマ『勇者は語らず』に出演しています。

そして89年、寺島純子は富司純子(ふじすみこ)と改名し、降旗康男監督『あ・うん』で17年ぶりに銀幕復帰を果たします。本作は高倉健主演映画でもあり、そのヒロインを務めるということでも大きな話題になりました。

この後、大林宣彦監督『ふたり』(91)で主人公少女の母親を熱演。相米慎二監督『あ、春』を経て99年の深作欣二監督『おもちゃ』では数々の助演女優賞を受賞しています。

21世紀に入っても映画出演は定期的になされ、特に2006年は、恩人マキノ監督の血を引く津川雅彦がマキノ雅彦と名を改めて監督した『寝ずの番』や、板倉真琴監督『待合室』で長女・寺島しのぶと、市川崑監督『犬神家の一族』で長男・尾上菊之助(五代目)と共演。また李相日監督『フラガール』でブルーリボン賞など数多くの助演女優賞を受賞するなど、大いに飛躍した年となりました。

最近では芸者の世界を舞台にした周防正行監督『舞妓はレディ』(14)で、さすが“和”の世界を熟知した存在感を発揮するとともにミュージカルシーンにも挑戦し、往年のファンを喜ばせてくれました。

テレビではNHK連続テレビ小説『てっぱん』(10)でギャラクシー賞を受賞しています。

そこにいてくれるだけで、どのような作品も“映画”にしてくれる稀代の名優・富司純子。個人的にはそろそろ“緋牡丹博徒”お竜さんのその後の人生なども見てみたいと思ったりもしますが、いかがなものでしょうか?

(文:増當竜也)

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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