『ホドロフスキーの虹泥棒』と伝説の名優の共演

2014年の夏に日本公開された『リアリティのダンス』、そしてその直前に公開されたドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』で久々にその名前を聞いた南米チリを代表する映画監督アレハンドロ・ホドロフスキー。その後、代表作『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』がリマスター化されDVDで観ることができるようになった彼のフィルモグラフィの中で、最も一般向けの作品と言われていた『ホドロフスキーの虹泥棒』が、ついに日本初公開となる。

ホドロフスキーの虹泥棒 メイン

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〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.6:『ホドロフスキーの虹泥棒』と伝説の名優の共演>

奇特な大富豪が昏睡状態に陥り、その遺産を狙う親族たちの話を耳にした甥のメレアーグラは大富豪の飼い犬を連れて、ひっそりと地下水道に暮らし始める。いずれ叔父が亡くなったら、多額の遺産が入り込んでくると信じ、その金を欲するコソ泥のディマと暮らしていた。5年の歳月が経ったある日、ついに叔父が亡くなったとの知らせを受けるが、なんと遺産を相続する権利を得たのは、叔父が懇意にしていた娼館の女性たちだったのだ。

本作の注目すべきポイントは、何と言っても名優たちの共演だ(このキャスティングでなぜ日本公開されなかったのか、不思議でならない)。序盤のみに登場する奇特な大富豪を演じているのは、『吸血鬼ドラキュラ』としても有名で、50年代から第一線で活躍するクリストファー・リー。そして物語の主軸は、甥のメレアーグラを演じるピーター・オトゥールと、その相棒でコソ泥のディマを演じるオマー・シャリフの二人が担っている。

2013年にオトゥールが亡くなり、昨年にはリーとシャリフの二人がこの世を去ったタイミングでようやく日本公開となるのは非常に残念なことではあるが、彼らが役者として円熟期を迎えた姿を一つの画面で観ることができるというのは至福の一時だ。
オトゥールとシャリフの二人は、今作が3度目の共演となる。67年にアナトール・リトヴァクの『将軍たちの夜』で共演して以来、23年ぶりの共演となったわけだが、やはりこの二人といえば、デヴィッド・リーンが手がけた超大作『アラビアのロレンス』が思い浮かぶだろう。

アラビアのロレンス (字幕版)

62年に製作され、その年のアカデミー賞では作品賞を含む7部門を受賞した3時間27分にも及ぶ超大作は、実在の英国陸軍トマス・エドワード・ロレンス少尉を描いている。トルコ軍への反乱を起こすアラブ軍の、軍備の乏しさを目の当たりにしたロレンス少尉が、ゲリラ戦によるトルコ軍打倒を提案し、見事にアラブ軍を率いる。しかしそんな矢先、アラブ種族内での争いまで起こってしまうのである。

初めてこの映画を目の当たりにしたとき、そのシネスコ画面いっぱいに広がる雄大な砂漠の映像に圧倒されっぱなしだったことを鮮明に覚えている。所々に描き出される近代的な西欧文化とアラブ文化の対比や、強力な自然の中でもがく人間の弱さ。あらゆる名シーンが生まれたこの大作には、一端の戦争映画と括ってしまうのはあまりにも勿体ないほど、映画のすべてが込められているのだ。

数多くの大作/メロドラマを手がけてきたデヴィッド・リーンのマスターピースと呼ぶにふさわしい貫禄を備えているだけでなく、撮影部にニコラス・ローグが参加していたのも映画ファンとしては見逃せないだろう。ローグの代表作『美しき冒険旅行』で登場人物に残酷な試練を与える砂漠の光景というのは、もしかすると『アラビアのロレンス』から受け継がれたものなのかもしれない。

そしてやはり、主人公ロレンスを演じたピーター・オトゥールの好演が秀でている。しかも彼は、シェイクスピア劇で培った演技力を活かし、映画界に進出してわずか2年での抜擢だったというのが驚きである。また、エジプトでは著名な映画スターだったオマー・シャリフが演じるハリス族の首長・アリの姿も非常に素晴らしく、アレック・ギネスやアンソニー・クインといった名優が並ぶ中で、シャリフはアカデミー賞助演男優賞の候補にあがったのだ。

本作の当時、オトゥールもシャリフもまだ30歳。とてもキャリア初期とは思えない素晴らしい演技を見せたこの二人が『ホドロフスキーの虹泥棒』で3度目の共演を果たすまでに積み上げてきたその実績は、もはや語るまでもない。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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