「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」に描かれていない、ふたつの出来事。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
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ダルトン・トランボが偽名で書いた「ローマの休日」

爺 このところ、ドキュメンタリーというか事実を元にした映画で面白いものがいくつかあったので、伊達に年を取ってないこのわしが、その内容をチェックしてみようと思うぞ。

女の後輩 まずはその第1弾が「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」ですが、トランボって人の名前なんですか?

爺 おーよ。ダルトン・トランボという脚本家で、1940年代から70年代にかけて、アメリカ映画で活躍した人だ。残念ながら1976年に亡くなったが、ハリウッドで所謂「赤狩り」が起きた時代。その最大の被害に遭ったのが、このトランボじゃ。

女の後輩 赤狩りって、何をやったんですか? 具体的に。

爺 要するに共産主義者を追放しようという気運が高まり、レッド・パージと呼ばれる排他活動がアメリカで続発するようになり、そこから「あいつはアカだ。共産主義者だ。」と仲間うちを密告するようなヤツらが出てきて、トランボもそうした人にチクられて投獄されてしまったのさ。

女の後輩 なんで共産主義者だといけないんですか?映画を作るのに関係ないじゃないですか。

爺 まあ一種のバッシングだよなあ。自分たちと考えや思想が違う人間は悪であるという、歪んだ正義感。それがこの時代、アメリカにも色濃く残っていて、名指しされたトランボは公聴会に呼ばれるんだが、出席を拒否する。それで「あいつはアカだ。間違いない!!」ということになってしまうんだよ。

女の後輩 一種の同調圧力なわけですか。こないだ辞職した都知事みたい(笑)。

爺 これこれ、それではトランボに対して失礼ってもんじゃぞ(笑)。

女の後輩 で、そのトランボって人は、どんな映画のシナリオを書いたんですか?

爺 昔の映画をさっぱり見ていない君でも知っているのは、やはり「ローマの休日」かなあ。

女の後輩 「ローマの休日」!! 見てますよお!! 中学生の時、デートで行きました。もーあの映画のヘップバーン、大好きい!!!

爺 ミーハーめ・・・。

女の後輩 あんなに素敵なお話を書ける人だから、ロマンティックな紳士に違いないと思っていましたが。

爺 トランボがレッドパージに遭ったのは1947年のことなんだが、彼はもうその頃、妻と子供たちを養っていたから、例えアカだと言われようが、シナリオを書いて生活費を稼がなくてはならなかった。だから色々な変名を使ってシナリオを書いた。そのうちの1作が「ローマの休日」。この時は友人のイアン・マクレラン・ハンターの名前を使った。

女の後輩 それをウィリアム・ワイラー監督が映画化したわけですね。

爺 それもちょっと違う。最初に映画化を考えたのはフランク・キャプラ監督だった。

女の後輩 キャプラって・・・あの、何撮った人ですか?

爺 知らんのかいっ!! 情けないなあ。「或る夜の出来事」とか「オペラハット」とか、この監督も30年代から50年代にかけて活躍した人なんじゃが、彼は「ローマの休日」のシナリオこそ気に入ったものの、レッドパージに遭ったトランボが書いたのを知って、監督を降りてしまう。

女の後輩 なんでですか?

爺 それだけ世間の風当たりが、赤狩りに晒された人たちにとって冷たかったってことだろうな。それで「じゃあ、自分がやります」と手を上げたのがワイラー。彼はどんな人が書いたシナリオでも、気にしなかったようだよ。

女の後輩 とにかく、あの素晴らしいラブストーリーが作られたわけですね。

「ローマの休日」デジタル版から、クレジットにトランボの名前が

爺 その「ローマの休日」をトランボが書いたことは、もはやハリウッドでは公然の秘密だったわけだな。それでトランボの死後になるが、製作もとのパラマウントがこの映画の50周年記念バージョンを作る時、ある決断をするんだ。

女の後輩 どんなことですか?

爺 正式にトランボの名前をクレジットに入れようというんだよ。

女の後輩 そんなこと、出来るんですか?

爺 現在のデジタル技術を持ってすればね。だから2003年に、我が国でも劇場公開された「ローマの休日/製作50周年記念デジタル・ニューマスター版」には、クレジットに「story by DALTON TRUMBO」と入ったバージョンが公開され、わしはそれを見た時、もう涙が・・・・。

女の後輩 あらら、ご隠居泣き始めちゃった。年を取ると涙もろくなるから、もう・・。

爺 ご隠居って呼ぶなあ!!

女の後輩 デジタル・リマスター版ってことは、映像や音声もレストアされてキレイになっているわけですね。

爺 そう。DVDにもなっているから、見てご覧。

女の後輩 それにしても、製作後50年経ってから、ようやくクレジットに名前が載るなんて。

爺 ところが、何の理由があるのか分からないけど、「トランボ/ハリウッドで最も嫌われた男」には、このくだりが語られてないんだよ。

女の後輩 知らなかったんじゃないですか? 監督が。

爺 そんなこたあないだろう。これは大変なことなんだがなあ。

トランボ唯一の監督作品「ジョニーは戦場へ行った」にも触れられていない謎。

爺 それどころか、トランボが唯一監督した「ジョニーは戦場へ行った」に関しても、この映画ではまったく触れられていないのが不思議なんじゃよ。

女の後輩 それ、モノクロの地味な反戦映画だと、どこかで読んだことがありますけど・・。

爺 若い君が見たら、グロいと言い出すだろうなあ。第一次世界大戦で両手両足と視聴覚を失った兵士ジョニーが、病院のベッドの上で過去を回想したり、看護師に意思を伝えようとする、とても静かな映画だよ。これには原作があって、トランボが1939年に書いた小説をもとにしているんだ。反戦小説とのことで、当時は増刷が禁止されたり、ここでも手痛い目に遭ったトランボだが、実に65歳になってこの自作を映画化しようとしたのは、相当な思い入れがあったんだと思うぞ。

女の後輩 それも「トランボ」では触れられていないのは、確かにちょっと不思議ですね。映像がグロくて出せないとか?

爺 この間、NHKのBSプレミアムでオンエアしていたから、問題ないんじゃないか? 権利関係の問題かもしれないな。けど、脚本家トランボの人生にスポットを当てた、つまり事実を題材にした作品であるのなら、やはり「ジョニーは戦場へ行った」には、何らかの形で触れて欲しかったよ。

(取材・文:斉藤守彦

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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