今夏全米でヒットした映画たちと、敗者となった映画たち

日本では新海誠の『君の名は。』が歴史的な大ヒットとなっている夏の終わり。庵野秀明の『シン・ゴジラ』が興収65億円を超えるヒットとなり、抜群のオープニングを飾った『ONE PIECE FILM GOLD』は初動の勢いこそ失速したものの、シリーズ2番目の好成績をあげた。もちろん洋画の勢いも負けてはいない。ピクサーの『ファインディング・ドリー』は春の『ズートピア』には劣るが、息の長い興行で興収67億円を超えた。

日本の映画界が元気なのとは打って変わって、今年の夏の全米興行は少し寂しい印象を受けた。もちろん、日本とは映画興行の質が圧倒的に異なり、大ヒット作は生まれたものの、期待した作品が軒並み不本意な成績に終わったのである。

世界中を愕然とさせた夏の始まり

『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』スマホムービーネタバレ

(C)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

まず何と言っても衝撃だったのは、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』の大失敗から始まったことだろう。いくら『X-MENアポカリプス』と初週が重なり、2位スタートとなったとはいえ、3億ドルを超えるメガヒット作となった前作の4分の1にも満たないオープニングにガッカリせずにはいられない。しかも最終的な興収が、前作が最初の3日間で稼いだ額にも満たないなんて、一体誰が想像できたであろうか。

ティム・バートンが監督から離れたことが原因か、公開直前のジョニー・デップのスキャンダルが原因か。いずれにしても、それまで春シーズンに驚異的な成績を記録していたディズニーが今年初めて見せた不甲斐ない姿に、かえって親近感を覚えてしまうほどだった。

X-MEN:アポカリプス

(C)2016 MARVEL & Subs. (C)2016 Twentieth Century Fox

そのアリスを退けた『X-MEN アポカリプス』も、国内では制作費を回収できない微妙な結果に。さすがに『デッドプール』のサプライズヒットの直後では、もう少し伸びしろがあったはずなのだが。『スタートレックBEYOND』(以下ST:B)と『グランド・イリュージョン/見破られたトリック』(以下NYSM)も、期待を裏切る興行成績に終わったが、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』(以下TMNT)と『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(以下IDR)に比べれば大きな失敗とは呼べないだろう。

これらの失敗の原因がどこにあったのか、非常に難しいところだ。『IDR』や『ゴーストバスターズ』のように、かなり前作との間隔を開けて製作された続編は、1億ドルを超えたには超えたわけだし、高額なバジェットが仇になっていただけだ。シリーズファンというより監督ファンに支えられていた『ST:B』や『NYSM』の下降は何となく頷けるし、おそらく『アリス』もその一例だろう。

ミュータント・タートルズ 影

(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

しかし『TMNT』に関しては、前作のジョナサン・リーベスマンよりも明らかに才能豊かなデイヴ・グリーン(『アース・トゥ・エコー』に続く2作目)にバトンタッチして、作品の質も上がっていたのに、この興収は原因不明だ。前作が入りすぎた、と見ることもできるが、それでも90年版の1作目すら超えられなかったのだ。
これはもはや、続編・リメイクが当たり前の現代において、評判云々ではなく興行データとして、その問題点が見えるサマーシーズンとなったのではないだろうか。端的にいえば、この作品の続編を、誰も求めてはいない。そういうことだろう。わかりやすく言えば、このまま惰性でシリーズばかり作っていては、『Ice Age : Collision Course』のようになってしまうということだ。

ディズニーの汚名を晴らしたのはディズニーだった

ファインディング・ドリー

(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

こんな暗い話をしていても仕方があるまい。久々の続編といえども大ヒットしたのが『ファインディング・ドリー』だ。ディズニー作品が失敗したことで始まったサマーシーズンの暗雲を切り開いたのは、やはりディズニーだったのだ。

まさか、あの『ファインディング・ニモ』の続編が作られて、こんなにも大ヒットとなり、しかもこんなにも大傑作となるなんて、とても13年前の前作からは想像ができない。現在全米興収4億8000万ドルで、歴代全米興収で7位に入り、上位6本を見れば如何にとんでもないことになっていたかがわかることだろう。

13年という時間経過を一切感じさせない、キャラクターの力をまざまざと見せつけるストーリーテリング。スピード感とユーモアも余すことなく発揮され、まさにディズニー/ピクサーにしかできない娯楽映画の完成形だけあって、この大ヒットは全世界が納得するだろう。おかげでアリスの失敗など誰も記憶に留めてはいない。

一時は『ダークナイト』に迫る5億ドルも夢ではないと思えたが、さすがに失速ムード。海外興収も、頼みの綱の中国が、同時期に『ウォークラフト』(全米興収と海外興収の比が1:9という珍しい形になるほどの大ヒット)に熱狂していた影響で、今ひとつ伸びを欠く結果となったのだ。

万が一、『ズートピア』とのアカデミー賞争いに向けて再上映されれば大台達成も見えてくるかもしれない。もはや今年のアカデミー長編アニメーション賞はディズニーvsピクサーの5度目の直接対決が注目となる。過去ピクサーの4勝だが、今年は果たしてどうなることか。

真のサマーシーズンの勝者は『ペット』だ!

ペット

(C)Universal Studios.

アカデミー賞で2強に何としても割って入りたいのがイルミネーション・エンターテインメントの『ペット』だろう。しかし、同作はすでにこの2強に勝利している。今年のサマーシーズンの覇者は、間違いなく『ペット』だ。

オリジナル作品でありながら、オープニング週末から1億ドルを超えるサプライズヒットを記録。さすがにトータル興収では『ファインディング・ドリー』を下回るが、『ズートピア』を上回ることに成功した。

ましてや、客層が被る『ファインディング・ドリー』の勢いが衰えないうちに、首位から陥落させて存在感を示したことは何よりも大きい。日本でもお盆休みの子供向け映画の目玉として、『シン・ゴジラ』を首位から引きずり下ろしたのだ。

このイルミネーション・エンターテインメントの強みは、看板キャラクターのミニオンズではなく、そのコストパフォーマンスの良さだろう。2億ドルの制作費をかけた『ファインディング・ドリー』は世界興収で9億5000万ドル。海外興収が今ひとつ伸び悩んだのは前述の通りだ。一方、『ペット』の世界興収は7億8900万ドル。単純な数字比較では負けているわけだが、制作費はたったの7500万ドル。つまり、バジェットの10倍以上稼ぎ出したということだ。

絶対的なインパクトは弱いとはいえ、映画というビジネスにおいて、低コストで大きく回収するということは極めて重要なことだ。近年の大作では、『ジュラシック・ワールド』や『デッドプール』が10倍超の回収を実現したのだ。これなら味をしめて続編の制作決定を早々に発表したのも頷ける。とにかく惰性にはならないように注意してもらいたいところだ。

いよいよ始まる賞シーズン

スーサイド・スクワッド02

(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

8月に入ってからの興行は例年通りの安定感を見せ、『スーサイド・スクワッド』が低評価を覆し、3億ドル超のメガヒット。久々の続編となった『ジェイソン・ボーン』もまずまずのヒットを飛ばしている。

そして先週公開されたクリント・イーストウッドの最新作『ハドソン川の奇跡』を皮切りに、いよいよアカデミー賞に向けた興行がスタートする。ここからは、数字と批評の両面で、どの作品が強い印象を残せるかが楽しみとなる。

(文:久保田和馬)

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    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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