テレビドラマでの人気を経て、80年代映画女優として大きく羽ばたいた十朱幸代

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.31

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

十朱 幸代さん

80年代の日本映画をリアルタイムに見てきた世代としては、ほぼ毎年賞レースに顔を出す十朱幸代の存在には注目せざるを得ないものがありました。勢いづいているというのはこういうことをいうのかなと思うくらい、名匠や俊英監督の話題作で主演も助演も問わずの活躍ぶりに、とりあえず彼女が出ている作品は見ておいて損はないだろうという、そんな指針にもなり得ていたほどです。

お茶の間の人気を博した
デビューから若き日の軌跡

十朱幸代は1942年11月23日、東京市日本橋区の生まれ。父は俳優の十朱久雄で、自身も56年に父親に連れられてテレビ局に出入りしていたところをスカウトされ、父と一緒にクイズ番組に出演し、芸能界デビューを果たしました。

58年から63年まで続いたNHKの初の帯ドラマ『バス通り裏』で美容院の娘・元子役でレギュラー出演し、素直で明朗な個性がお茶の間の人気を呼び、その間の59年、木下惠介監督に見出されて『惜春鳥』で映画デビュー。
以後、松竹に在籍して『月見草』(59)や木下作品『春の夢』(60)等に出演しますが、決定打に乏しいものがあり、63年に松竹を退社して日活と年間契約を結びますが、やはり石原裕次郎作品の相手役や、吉永小百合主演作の助演など、決定的な代表作を産むには至りませんでした。

むしろ東映の山下耕作監督作品『関の弥太っぺ』(63)で自分を救ってくれた中村錦之助扮する主人公に恋い焦がれる若きヒロイン役が、この時期の彼女の映画における代表作といってもさしつかえないでしょう。
また降旗康男監督、高倉健主演の『地獄の掟に明日はない』(66)や山本薩夫監督の『天狗党』(69)なども個人的には印象に残っています。心臓病と闘うヒロインを演じた森永健次郎監督『ぼくどうして涙がでるの』(65)といった主演映画も作られています。

一方で、テレビのほうでは安定した人気を保ち続け、数多くのドラマに主演し続けていきます。

この時期の彼女の若々しく明るい魅力は、テレビのほうが光を放ちやすかったのかもしれません。

映画のほうも70年代に入ると、『新座頭市・笠間の血祭り』(73)や『悪名・縄張(シマ)荒らし』(74)ヒロイン、また『男はつらいよ・寅次郎子守唄』では13代目マドンナを好演するなど、徐々に波に乗っていきます。

そして80年、野村芳太郎監督の『震える舌』で幼い愛娘が破傷風にかかり、悲痛な看護を続けていくうちに、いつしか自分も破傷風に感染したとノイローゼ状態に陥るなどギリギリの精神状況まで追い込まれていく母を熱演し、この年のブルーリボン賞主演女優賞を受賞しました。

壮麗なまでのキャリアで彩られた
80年代の映画女優としての歩み

ここから始まる80年代の十朱幸代の映画出演は特筆すべきものばかりで、83年には長崎原爆の惨禍を描いた木下惠介監督『この子を残して』とマグロ釣り漁師の痛烈な生きざまを描いた相米慎二監督『魚影の群れ』に出演し、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。
85年は宮尾登美子原作、五社英雄監督作品『櫂』で緒形拳扮する女衒の夫と対峙していく妻を、伊藤俊也監督『花いちもんめ』ではアルツハイマーの義父を始めは疎ましく思いつつ、やがては人間的に介護していく嫁を演じ、2度目のブルーリボン主演女優賞および日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。

86年には出目昌伸監督の医学界内幕もの『白い野望』と、根岸吉太郎監督、森田芳光脚本の異色ホームドラマ『ウホッホ探検隊』。特に後者の自然体の演技派素晴らしいものがありました。

87年は再び宮尾登美子もの、山下耕作監督『夜汽車』で秋吉久美子扮する妹に愛する男(萩原健一)を奪われてしまう姉妹の愛憎を体現し、宮本輝原作、須川栄三監督『螢川』で三國連太郎と歳の離れた夫婦役で共演。こちらは正妻から彼を奪った負い目を感じながら生き続ける妻を静粛な佇まいで見事に演じており、個人的にはこの作品の十朱幸代が一番好きです。またこの年はご存知『極道の妻(おんな)たちⅡ』もあり、これらを合わせて毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。

89年『桜の樹の下で』で助演し、『社葬』『ハラスのいた日々』で日刊スポーツ映画大賞主演女優賞、またこの年は田中絹代賞を受賞しています。

90年の中島貞夫監督の時代劇大作『女帝・春日局』は貫録の主演、91年は『首領(ドン)になった男』『江戸城大乱』でそれぞれ松方弘樹と共演しました。

しかし十朱幸代の映画的快進撃はこのあたりまでで、95年の『日本一短い「母」への手紙』で好演して以降の彼女は舞台に専念するようになります。

もともと演劇界では70年に『おせん』で主演を果たし、受賞歴も多数ある彼女なので、映画ファンとしてはちょっと残念な気もしないではありませんが、舞台では変わらず活躍中。またときおり『カーネーション』(11)などテレビドラマ出演もあるだけに、久々の映画出演も望みたいもの。

2003年紫綬褒章、13年には旭日小綬章をそれぞれ受章しています。

※「東京スポーツ」「中京スポーツ」「大阪スポーツ」は毎週月曜、「九州スポーツ」は毎週火曜発行紙面で、「生誕100年 写真家・早田雄二が撮った銀幕の名女優」を好評連載中。

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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