フィルムセンター「自選シリーズ 現代日本の映画監督4 根岸吉太郎」開催記念/根岸吉太郎監督インタビュー


今もフィルムに優位性があるのか
調べ直してみたい


根岸監督は現在、東北芸術工科大学の学長として学生たちを指導されていますが、今の若者や世相などを見て、何か思われることは?

「僕は撮影所で助監督から監督になった最後の世代ですけど、今はいきなりカメラを持って作品を作れれますから、それこそ小学生でも監督になれちゃう時代ですよ。もちろん僕らの時代も8ミリ小僧はいましたけど、今はもっとカメラと一体になれた人たちが、これからの映画を作っていくのでしょう。

デジタルの時代になり、映画の作り方は今後まるっきり変わると思います。ごくごく少数スタッフで作られるものと、ある種のしっかりしたバジェットの許で作られるものにはっきり二分化していくでしょうし、これからはその両方を操れる人が監督として生き残っていくのではないでしょうか。

でも、考えてみると映画の歴史はまだ120年くらいですから、今後もいろいろな変遷を経ていくことと思われますし、新しい映画の作り方を提示していく人たちも今後どんどん出てくることでしょうね。監督という呼び方も変わってくるかもしれない」

根岸監督自身、『ヴィヨンの妻』まではすべてフィルムによる映画を撮ってきましたが、デジタル時代の今、今後はどういう方向性をもってやっていかれるのでしょう。

「『近代能楽集』2作はデジタルで撮りましたが、あれらは“映画”とは少し異なるものとしてやってましたので、まだデジタルで映画そのものは撮ってないんです。実際、今もフィルムに優位性があるのかどうか? デジタルとの差はほとんどわからないくらいになってきていますが、撮影監督は絶対フィルムがいいと訴えるし、フィルムにこだわり続ける巨匠もいらっしゃる。そんな中で自分もフィルムというものをもう一度きちっと調べ直してみたいと思いますね。もっとも今は、フィルムで撮ってもフィルムで上映できるわけでもないですけど」

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『近代能楽集 卒塔婆小町』



次のステップへ向かう転換としての
今回の特集上映


「フィルムって長さが決まってまして、1000フィートでせいぜい10分くらい。たとえば長廻しの撮影でNGが出たりすると、フィルムの場合、カメラに詰め替えるのに5分くらい間が空いちゃうんです。でも、デジタルだとすぐに撮影再開できるわけで、そうなると現場のテンションが切れることが果たして良いのか悪いのか。もう1回テンションを上げてやるのは俳優さんもこちらも大変ですけど、その5分の間にみんな冷静になれることもあるわけで、もうすべてがアナログなわけですけど、実はそのことが映画の現場には合っているような気はしています」

根岸監督作品は長回しが多いのも特徴です。

「フィルムってかなり高額ですから、それを1本廻して無駄にするなんて、とんでもないことというか、ガラガラ回っている間に万札が飛んでいくわけですから(笑)、その緊張感たるやね。僕なんか多いときに10万フィートくらい廻したことがありますけど、『東京物語』なんて4万フィートくらいですんでいるそうです。また名カメラマンの宮川一夫さんの日記等を読むと1万9千フィートなんて書かれてあって、つまりほとんどNGなんか出していないというか、失敗が許されない時代だったわけですよ。それがアナログであり、そういった物理的体感による緊張が数々の名作を世に出していったのだとも思います。
一方デジタル時代の今は、失敗してもすぐにやり直せるし、お金もかからない。ちょっとした問題もデジタル処理で消したり直したりできるわけだから、つまりは自分たちを許してしまっているとも言えますね。その意味でもフィルムを使う意義は、実は十分にあるかもしれない」

さて、長きにわたる映画人生の中、相米慎二、池田敏春、森田芳光といった、同世代の良きライバルたちが次々と逝ってしまったことに関しては……。

「何でこんなに死ぬんでしょうね……。才能がある人がどんどんいなくなっていく。本来なら、僕より前に彼らの特集上映がなされてしかるべきですよ。たまたま僕は生きているから今回やってもらったわけでね。でも、先ほどの質問にもあったいくつかの転換期ということで、『近代能楽集』2作は次に向かうタイミングになっているかなとも思いますし、それらを上映できるということも含めて、今回の特集上映はお葬式を済ませて一度死んだつもりで(笑)、これから新しいものを作っていきたいですね」

※5日間にわたり、根岸監督とキャスト、スタッフとのトークショーも開催されます[3月15日(火)ゲスト:荒井晴彦、19日(土)ゲスト:伊勢谷友介、20日(日)ゲスト:柄本佑、24日(木)ゲスト:松本花奈、26日(土)ゲスト:岡田裕、白鳥あかね]。上映スケジュールの詳細などと併せて、フィルムセンターのホームページをご参照ください。
http://www.momat.go.jp/

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(取材・文:増當竜也)

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