「こんがらがって生きるのがつらい」大人になりきれない大人へ。映画『永い言い訳』西川美和監督がエール
子どもと過ごすことは
決してきれいごとではない
── 劇中でたびたび登場する『ちゃぷちゃぷローリー』というアニメもすごく印象に残りました。
あのアニメ自体は、特にメッセージ性はないんです。これまで幸夫の洗練された大人の生活にはなかった雑音を感じさせるために取り入れたものです。
アニメの内容が重い話になっているのは、単に私がイマドキの作品を知らなくて(笑)。不幸を背負った悲しい主人公が、逆境の中で理不尽な目に遭いながら、仲間を見つけて幸せを知る…みたいな、70年代や80年代のアニメで育ったものだから。スタッフから“イマドキこんなアニメはないですよ”って言われましたけど、私の作品なんで、好きに書かせてもらいました!
ちなみに、Blu-ray限定の特典DVDに『ちゃぷちゃぷローリー』の絵コンテ完尺版が収録されています。声優さんも、涙なしには観られないとおっしゃってくださって。まるまる1話分ちゃんと収録したんですよ。
── それは見応えがありそうですね! 子役のお二人はオーディションで選出されたそうですが、長い撮影期間を経て、成長が感じられた部分はありますか?
クランクインの頃は、灯(白鳥玉季)は撮影にならなくて…。ちゃんとテストを重ねて、段取りつけて本番を迎えるんですけど。当日を迎えると“やりたくない!”って大泣きしたこともあったなぁ。
(C)2016「永い言い訳」製作委員会
── 最初の撮影はどのシーンからだったんですか?
ビストロで灯がアナフィラキシーショックを起こすところ。ほぼ順撮りでやっていましたので。
店舗を借りての撮影だから時間も限られているのに、特殊メイクなんかやだよ、と言いだしちゃった。でも、言うことを聞いてくれる子がよかったなら、最初からうまい子役にお願いすればよかったわけですし。こちらが天を仰いでしまうほどの、手の付けられない感じを切り取るのがあーちゃん(灯)の役目だったのかな、とも思いますね。
撮影中はまさに虚実入り乱れる感じでね。私たちも幸夫になった気持ちで、右往左往していました。
── 最終的には慣れてくれたのですか?
まぁ、こちらも慣れていきましたよね。家庭があって子供がいるようなスタッフは少なかったから、最初はどうしていいものかわからなかったんです。
だんだんと“これがダメなら、こうしてみる”とか、対応が手馴れてきて。スタッフや本木さんも一緒になだめすかして、なんとかやってもらうという感じでした。それでもやっぱり、頭にくるときはあるんですよ(笑)。それでも、みんなで悪戦苦闘しながら育てていく雰囲気が、作品自体とリンクしていたと思います。
子供と過ごすということは、きれいごとではないですよ。緊張感もあるし、あーちゃんが来る日は、毎日戦闘モード(笑)。“来るぞ来るぞ!”って、怪獣を迎え撃つ気持ち! ちなみに、特殊メイクを嫌がって大泣きするあーちゃんの姿から、メイキングは始まります。
── 真平役の藤田健心くんはどうでしたか?
彼は逆で、こちらが思っていたよりも内面が大人でした。難しい本も普段から読んでいて、知識や想像力もある子だったので、途中からは大人の俳優と同じように、脚本を読んでもらって、彼の解釈でお芝居してもらうのがいいなと思いました。
(C)2016「永い言い訳」製作委員会
撮影が終わるころには思春期に入ったみたいで、照れくさいのか、だんだん目を見て喋ってくれないようになりましたが(笑)。それも含めて、子供って成長するもんだなと思いましたね。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。