癌を患った夫、若年性アルツハイマー病の妻、二人の絆『八重子のハミング』



(C)Team「八重子のハミング」



こんにちは、八雲ふみねです。

今回ご紹介するのは、5月6日から全国順次公開となった『八重子のハミング』。
12年にわたる夫婦の純愛ストーリーです。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.104




4度のがん手術を受けた夫と若年性アルツハイマー病を発症した妻の絆を、実話をもとに描く


胃がんが発病した夫・石崎誠吾を支え続ける妻の八重子に、若年性アルツハイマー病の疑いがあることが明らかになりました。自らも闘病しながら八重子の介護を続ける誠吾。

彼女の病状は進行し徐々に記憶を失いつつも、大好きな歌を口ずさめば笑顔を取り戻すこともありました。やがて誠吾は妻の介護を通して、あることに気付きます。

妻はゆっくりと時間をかけて、別れを言おうとしているのではないか、と。

それならば自分も、妻が記憶をなくしていく様子を、思い出としてしっかりと心に刻もう、と。介護に苦闘しながらも八重子との時間を愛おしむ家族たちと、妻に寄り添い続ける誠吾の12年にわたる日々が描かれていく……。




(C)Team「八重子のハミング」



いよいよ全国順次公開、感動の輪がさらに広がる!


4度のがん手術を乗り越え、同時に妻の介護を約12年間続けた陽信孝氏の手記を映画化した『八重子のハミング』。夫婦の強い絆と深い愛情を紡いだ感動のドラマは、昨年秋、山口県で先行ロードショー。

感動が感動を呼び、じわじわと公開規模を拡大しています。

自らもがんと闘いながら妻を介護する誠吾を演じるのは、数多くの作品に出演しているベテラン俳優の升毅で、意外にも本作が初主演。そして若年性アルツハイマーで記憶を失っていく八重子を演じるのは、28年ぶりの映画出演となる高橋洋子。

共演には、井上順、梅沢富美男といったベテラン俳優から、文音、中村優一、安倍萌生ら若手俳優まで顔を揃え、深みある演技で作品を盛り上げています。

メガホンを取ったのは、『半落ち』などの佐々部清監督。山口県萩市を舞台に、夫婦愛あふれる温かな人間ドラマが完成しました。



(C)Team「八重子のハミング」



誰の身の上にも起こりうる重要なテーマと向き合った“自主的映画”


本作で描かれているのは、老老介護。

「4人に1人が65歳以上」とも言われている超高齢化社会の日本が抱える切実なテーマに、真正面から斬り込んでいる作品です。

実話がベースなだけに目を背けたくほどリアルな介護問題も描かれていますが、どんな状況下にあっても夫婦仲睦まじく、命の尊厳と向き合いながら献身的に介護する姿は、涙なしに観ることは出来ません。

とは言え、決して“お涙ちょうだいモノ”ではなく、夫婦や家族の温もりと同時に希望を感じる人も多いのではないでしょうか。

本作の底辺に流れているのは、深く静かで豊かな愛情。

老老介護という社会映画的な側面を併せ持ちながら、いつかやって来る夫婦の別れまでの時間を愛おしく映し出した究極の純愛ストーリーなのです。



(C)Team「八重子のハミング」



日本映画の良心、佐々部清監督の情熱


佐々部清監督と言えば、時にダイナミックに時に繊細に“人間”を活写することで定評のある映画監督。

私が初めてお会いしたのは『夕凪の街 桜の国』の公開時。

対談インタビューでは、作品への想いや映画を世に送り出す自分の使命について、目に涙を浮かべながら熱っぽく語って下さったのが印象に残っています。

お酒が大好きで人情派の佐々部監督が、本作を「自主映画」もとい「自主的映画」と呼ぶのには理由があります。8年前に脚本が完成したものの、大手映画会社やテレビ局映画部からは「中高年夫婦が主人公で、アルツハイマーが主題の映画は地味すぎる」と断られ続け……。

それでも「大人が観られる映画が少ない」というシニア世代の声に後押しされて、佐々部監督やスタッフが自分たちで資金を集めて製作にこぎつけた……とのコト。

その期間、実に8年。

「この作品を撮りたい。世に送り出したい」という並々ならぬ情熱が、インタビュー時の熱っぽさと重なります。

人それぞれ運命があるように映画にもその作品が持つ運命があると、私は常日頃から思っています。

完成まで長い時間を要しても、実はそれは最良のタイミングで世に出るための“調整時間”だったり。

とても良い映画なのに似たような題材のものが並列して公開されて、イマイチ脚光を浴びなかったり。聞けば本作は、以前にも映画化の話があり、紆余曲折の末、原作権が佐々部監督の手元にやって来たのだとか。

本作を観客に届けるために信念を貫いた佐々部清という映画人の手で映画化されたことは、この作品の持つ運命であり必然だったのかもしれません。



(C)Team「八重子のハミング」



作品情報


八重子のハミング
2017年5月6日から有楽町スバル座ほか全国順次公開
監督・脚本:佐々部清
原作:陽信孝(「八重子のハミング」小学館)
出演:升毅、高橋洋子、文音、中村優一、安倍萌生、辻伊吹、二宮慶多、上月左知子、月影瞳、朝加真由美、井上順、梅沢富美男 ほか
©Team「八重子のハミング」
公式サイト http://yaeko-humming.jp/

(文:八雲ふみね)


八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。
八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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