『借りぐらしのアリエッティ』徹底解説!わからなかったこと教えます。



5:ラストの別れで“与え合った”ものとは




(C)2010 Studio Ghibli GNDHDDTW



最後の別れの時、翔は角砂糖を、アリエッティは自身の髪を留めていた小さな洗濯バサミを、お互いに渡します(これは米林監督もお気に入りのシーンだそうで、「翔は消えるものを渡し、アリエッティは残るものを渡しているんですよね」と語っていました)。

今までコミュニケーションにおいてギスギスしっぱなしだった2人が、ホミリーを救うために協力したうえで、夜明けの風景を前に“与え合う”ラストは感動的です。そして、翔は「君は僕の心臓の一部だ。忘れないよ、ずっと」と翔はつぶやきます。

この“心臓の一部”という翔の言葉も、「君たちは滅びゆく種族なんだよ」と同様に、やや仰々しさを感じてしまった方もいるしょう。しかし、この言葉がそのまま、“残るもの”である洗濯バサミとシンクロしていることで、十分な説得力が生まれている、とも思うのです。

アリエッティは、これまでその行動を責めてばかりだった翔に「守ってくれてうれしかった」と感謝を告げました。翔が「君のおかげで生きる希望が湧いてきた」と言ったのも、自身の孤独と絶望のせいで傷つけてばかりだったアリエッティを、“守る”立場になれたことも理由なのでしょう。

これは、今まで一方通行的なコミュニケーションしかできなかった、翔とアリエッティ、それぞれの成長物語とも言えるかもしれませんね。


おまけその1:“音”をよく聞きながら観てみよう!


本作を再び鑑賞して何よりも感動したのは、“音”の演出でした。たとえば、初めて“借り”をしたアリエッティが翔に見つかってしまうシーンでは、振り子時計の音が、次第にアリエッティの“心臓の音”に変わっていく、という演出になっています。翔の部屋にカラスが侵入し、アリエッティが葉っぱに包まれた時の“周りの音がくぐもって聞こえる”表現も見事というほかありません。

また、ジブリ作品の多くでは、“1回きり”のために収録した“生音”を使うことが多くあります。過去には、全国で数台しかない蒸気自動車の音を録りに茨城県まで出張したり、電気がない時代の環境音を録るためにヨーロッパの地方都市にまで、スタッフが出かけたこともあったのだとか。

その努力の甲斐あって、『借りぐらしのアリエッティ』の劇中の音は(ファンタジー作品であるのにも関わらず)リアルかつ繊細なものになっています。葉っぱの擦れ合う音や、そよ風の音まで、存分に堪能してほしいです。

おまけその2:アリエッティに似たキャラがゲームに登場していた!?


本作のキャラクターデザインを手がけていたのは米林宏昌監督自身。アリエッティのトレードマークとも言える髪留め代わりの洗濯バサミは、「何か人間から借りたものを身につけさせたかった」、「シルエットで彼女とわからせるシーンで必要だった」、「『魔女の宅急便』のキキのリボンのようなある種の自己主張のようなもの」ということで取り入れられたアイデアだったのだそうですが……その昔、アリエッティと同じように、髪に洗濯バサミを付けた女の子が主人公のゲームがあったことをご存知でしょうか。

そのゲームとは、1996年に発売されたニンテンドー64用ソフト『ワンダープロジェクトJ2 コルロの森のジョゼット』。実は、このゲームでキャラクターデザインを務めていた山下明彦は、後にスタジオジブリに所属し、『借りぐらしのアリエッティ』にも作画監督として参加していたりするのです。

『ワンダープロジェクトJ2』の絵柄や世界観には、どこかジブリ作品を思わせるところがあります。ひょっとすると、米林監督もこのゲームも意識していたところもあるのかもしれませんね。このように、有名な作品に関わったスタッフの経歴を遡ると、意外な作品に出会えることも、面白いですよ。

※参考文献


「床下の小人たち—小人の冒険シリーズ〈1〉 (岩波少年文庫)」
「ジブリの教科書16 借りぐらしのアリエッティ (文春ジブリ文庫) 」

(文:ヒナタカ)

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