映画コラム

REGULAR

2017年12月05日

『gifted/ギフテッド』天才子役に泣かされた観客続出!予想外に重いその内容とは?

『gifted/ギフテッド』天才子役に泣かされた観客続出!予想外に重いその内容とは?



(C)2017 Twentieth Century Fox



未だに映画ファンの間で根強い人気の名作、『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督待望の最新作が、この映画『gifted/ギフテッド』。

今回はこの話題作を、公開初日の午後の回で鑑賞して来た。『ジャスティス・リーグ』や『花火』などの話題作と公開日が重なったためか、上映スクリーンは122席とかなり小さめ。だが満席の場内からは、本作への観客の関心の高さが伺えたのが印象的だった。

事前に見た予告編の印象からは、少女と父親代わりの叔父との心の交流を描いた感動作?そんな印象で鑑賞に臨んだ本作だったが、果たしてその内容と出来はどうだったのか?

ストーリー


姪で7歳のメアリー(マッケンナ・グレイス)と片目の猫フレッドと共に、フロリダの小さな町で生活している独り身のフランク(クリス・エヴァンス)。平穏に過ごしていた彼らだったが、メアリーに天才的な数学の能力があることが判明する。フランクは彼女に普通の子供と同じように育ってほしいと願っていた。だが、彼の母イブリン(リンゼイ・ダンカン)は二人を引き離し、メアリーに数学の英才教育を受けさせようとするのだが・・・。


予告編
https://www.youtube.com/watch?time_continue=24&v=mv4vT3uVYwg

泣かせる感動作だけでは無く、
実は非常に難しい問題を扱った作品だった!


実は、予告編やポスターから想像した印象とは、かなり違っていた本作。

単純に親子愛や、子役の可愛さで泣かせるだけの映画では無く、予想よりも遙かに硬質な内容だったのは意外だった。もちろん、天才子役マッケンナ・グレイスの表情と見事な演技に、泣かされ感動させられるのは事実なのだが、本作で重要なのは、実はフランクとダイアンの姉弟と母親であるイブリンとの関係であり、果たして彼ら親子の不幸な過去を再び孫娘のメアリーに味わせるのか?という部分だ。

不幸にも自ら命を絶った姉と、姉の死により母親の敷いたレールからドロップアウトしたフランク。大学教授の職を捨て、ボートの修理で生計を立てながらメアリーを育てるその姿は、まるで亡き姉に対する贖罪と母親に対する抗議の様に見える。

この不幸の連鎖と親子のすれ違いを、再びメアリーに味わせまいとするフランクの行動は、自殺に至る思いに気付かなかった姉への償いと同時に、姉の死は母親のせいだと責める気持ちを捨てられない、彼の複雑な心境を良く現している。

そして、孫娘のメアリーを手元に置いて数学の英才教育を受けさせようとするイブリンもまた、自殺した娘ダイアンへの想いとトラウマに囚われての行動であることが描かれているのだ。

gifted/ギフテッド メイン


(C)2017 Twentieth Century Fox



親の期待に応えようと、言われるままに従う子供たち。だが、それがうまく行かずに挫折した場合、そこで親子の愛情や関係も終わってしまうのだろうか?過去に良くあった類似作品の様に、決して「子供には勉強よりも自由が一番!」とは結論付けていない本作。

例えば、小学校の教室でもメアリーは担任教師のボニーに対して見下した態度を見せるし、クラスメイトに対しても不遜な態度を取るなど、一つの分野に突出した物の「いびつさ」も、本作は同時に描いている。

実際、数学という特定の分野に対しては素晴らしい才能を見せるものの、それ以外の分野では7歳相応の能力であるメアリー。

だが、スクールバスの中でクラスの男の子が「いじめ」にあったのを助けるなど、彼女の心の発育には今の環境が必要な点もちゃんと描かれている。メアリーが「いじめ」をやめさせようとしたのも、普段は目立たないその男の子が作ったジオラマが、自分の物よりも遙かに上手に出来ていたのを認めたからであり、ここには確かに彼女の人間的成長に一般学級での学習がプラスになったことが描かれている。ただ、このシーンの「いじめ」をやめさせる方法があまりに過激な点は、ひょっとしたら母親が自殺した原因かも知れない、天才が持つエキセントリックさがメアリーに遺伝している?と取れるかも知れない。

様々な問題と経験を経て、最終的に天才児教育プログラムのある学校に通うことになるメアリーだが、同時に地元のガールスカウトに加入して、同年代の友達と遊ぶ姿も描かれる本作。

この、数学の才能を伸ばしながら普通に友人関係を築くという選択こそ、正に母ダイアンの願った環境と生活であり、それはまたダイアンが得られなかった自由な選択肢でもある。つまり、自分が実現出来なかった夢や理想を子供に託すという点では、ダイアンもイブリンも何ら変わりは無いのだ。

自分の出来なかったことの実現を、次世代に期待するのは決して悪とは言えないが、本人の気持ちを無視しては何にもならない。

親の期待や夢を押し付けて、子供の将来への無限の可能性を消すことは、果たして許されるのか?

親が選んで与える環境が、果たして子供の幸せのためになるのか?

果たしてフランクたちの選択は正しかったのだろうか?

本作ではその結果や答えは明確には出されないのだが、周囲の人々の想いと愛情に包まれて成長するであろうメアリーの姿は、彼女の幸せな未来を予感させるに充分だと言える。

もちろん大いに泣けて感動出来る映画には間違い無いのだが、決してしそれだけが見せ場の薄っぺらい映画ではないので、ぜひその問題の本質をご自分で感じていただければと思う。



(C)2017 Twentieth Century Fox



最後に


前述した様に、単純に親子の愛情を描いた泣ける映画だと思って見に行くと、扱われる問題の重さに「えっ?」と思う本作。

ただ、脚本上どうしても弱かったり説明不足の部分が散見されるため、何故ここにいるのか?が説明されないキャラや、登場した方が話がスッキリ進行するのでは?と思われるフランクの父親など、鑑賞後に思い返すと「うーん、」と思う部分も多々見受けられるのは、実に残念。

特に隣人の黒人女性の存在理由と動機が不明なのが非常に惜しまれるのだが、正直マッケンナ・グレイスの演技のおかげで、鑑賞中はこうした人間関係の穴には気にならずに済むので、その点はご心配無く!



(C)2017 Twentieth Century Fox



自身のフィルモグラフィの中で、常に男女の関係とコミュニケーションの難しさを描いて来たマーク・ウェブ監督。ただ、今回は脚本家の個性が強い作品だっただけに、恋愛要素よりも親子関係の方に正面から取り組んでおり、正直マーク・ウェブ監督の過去作とは若干テイストが異なる様に思える本作。

一つだけ気になったのが、飼い猫のフレッドが片目という設定。単に、ラストで自分のネコだと見分け易くするためだけの「片目」だと思っていたのだが、実は脚本家のトム・フリンが実際に飼っているネコが片目で、そのネコをモデルに本作の片目の猫フレッドが作られたのだそうだ。

果たして、これからメアリーがどの様に成長するのか?それは、全ては彼女自身が選択すべきこと。我々大人は彼女が困ったり迷ったりした時、側にいて力になれば良いという暖かいメッセージこそは本作の救いであり、我々観客の求める理想のラストだと言えるだろう。

クリスマス前のこの時期には最適のデートムービーであり、また一人で見ても大いに人生についての教訓を得られる本作、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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