映画コラム

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2018年03月07日

偏差値低めの愛すべきバカ映画『ビール・フェスタ〜世界対抗・一気飲み選手権』

偏差値低めの愛すべきバカ映画『ビール・フェスタ〜世界対抗・一気飲み選手権』



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「偏差値低めの愛すべきバカ映画」とタイトルに付けられた本コラムだが、まず「偏差値低め」と「バカ」というワードは、ここでは褒め言葉である。

世に数多ある映画のなかで、「バカ映画」と言い切れる作品はそうそうない。

バカのなかにも良いバカと悪いバカがある。つまり「良いバカ映画」と「悪いバカ映画」があるわけで、バカをやるにもスキルと風格が必要であり、制作側に要求されるレベルはかなり高い。

そのなかで、一番良いのが「誠実に、用意周到にバカさを狙い、そのバカさ加減が成功している」作品であり、対極にあるのが「バカ映画を作ろうとバカなノリで作ってしまった結果、ギャグは すべて滑り、映画としても成り立っていない」作品である。

ちなみに「悪気のないバカ」はバカ映画のなかでも最も質が悪い。バカバカ書いててカバに空見してきてしまったが、カバが悪いという訳でもないし、バカが悪いというわけでもない。

つまり、素晴らしい「バカ映画」は、登場人物などの偏差値は低いが、バカとしての偏差値は高いことになる。だから別に「偏差値高めのバカ映画」とタイトルを付け直しても良いのだが、あまり偏差値偏差値言っていると、書いている本人が偏差値のことをよく理解していないのがバレてしまい、バカなコラムをバカが書いていると思われてしまうのでこれくらいにする。

とにかく、本コラムでは、「良いバカ映画」のなかでも特に映画として面白く、良作足り得るけれども、やっぱりどう考えてもバカな作品を取り上げる。今回登場するバカの名は『ビール・フェスタ〜世界対抗・一気飲み選手権』(2006)である。

ビール・フェスタ 無修正版 ~世界対抗・一気飲み選手権 (字幕版)


ほぼ酔っぱらいしか出てこない、
乱痴気騒ぎのドリンキング・ムービー


『ビール・フェスタ〜世界対抗・一気飲み選手権』は、ドイツで行われているビールの祭典、オクトーバーフェスの期間中に、極秘裏に地下で開催されている「ビール・フェスタ」に参加する兄弟とその仲間たちを描いた作品だ。「ビール・フェスタ」では各国の酒呑みたちがチームを組み、一気飲みやビアポン、コイン投げなど、ビールにまつわるゲームの腕を競う。

監督はジェイ・チャンドラセカールで、彼が創業したコメディアン・映画制作グループである「ブロークン・リザード」によって制作された。

本作は、タイトルだけ切り取ってみるとただの一気飲み対抗戦的な作品で、学生が安居酒屋で繰り広げるようなコールを連発するようなノリの作品だと思われがちだが、単なるドリンキング・ムービー(あるのかそんなジャンル)ではなく、意外や意外、正統派な「スポ根」モノという側面を持つ。

映画は、マフィアとチンピラが対峙し、ポーカーをプレイしているようなシーンからはじまる。実際に行われているのはビールが注がれたグラスに向かってコインを投げ入れるゲームで、一連の流れは本作が「ビールを使ったゲームがあること」、「コメディ映画であること」を的確に示す。

ここから葬式のシーンに違和感なく繋げるスムーズさは、単なるバカ映画ではないことを示すに充分な演出で、カメラワークも手抜かりはみられない。と、ここで撮影はなんと『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(2001)』のフランク・デマルコである。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』や『パーティーで女の子に話しかけるには(2017)』で見られたライブ撮影の手法は、本作の一気飲みバトルシーンで活かされている。

葬式後、祖父の衝撃的なビデオレター遺言によりレストランを受け継いだトッド・ウルフハウス(エリック・ストルハンスク)、ジャン・ウルフハウス(ポール・ソーター)兄弟は、曾祖母(クロリス・リーチマン)に言われ、「ウルフハウス家のしきたり」に倣い、ドイツにある墓所まで遺灰を持っていくこととなる。

ときに、大女優であるクロリス・リーチマンの無駄遣い度は凄まじく、「良く出ましたねこんな映画に」としか言えないが、素晴らしくキュートで、愛らしい演技を見せつけてくれる。また、出演者がおしなべてハイスキルかつ酩酊状態のようなハイテンションを保ち続けているのも本作の大きな特徴であり、単なるバカ映画と切って捨てられない強みがある。

ドイツに降り立った兄弟は、オクトーバーフェスの会場で一悶着を起こしながらも、案内人と出会い、墓所へと導かれる。この時点でエキストラ含め、素面の奴より酔っぱらいの方が多いのだが、映画中アルコール濃度は更に濃さを増していく。

兄弟は怪しい路地裏からアヘン窟のような地下施設に降りて行く。最奥にある頑丈な扉をくぐると、そこは各国のエリート酒飲みたちが国の威信を賭けて戦う「ビール・フェスタ」の会場であった。

飛び交う札束、弾け飛ぶビール、狂ったようなテンション、余りの光景に興奮し、目を輝かせる酒好きのウルフハウス兄弟、会場にはバカしか存在しない。

狂乱の会場のなかで、ひときわ大きな声援を受け、圧倒的な実力を見せつけるのが宿敵、ドイツチームである。ウルフハウゼンと名乗る彼等はビール醸造所を持つ名門一族で、過去にウルフハウス家と確執があったことが明かされる。

曾祖母を「娼婦」、祖父を「娼婦の子」となじられたウルフハウス兄弟は、ドイツチームに対し果敢にもビール飲み勝負を挑むが、あっさりと負けてしまう。プライドをズタズタにされた兄弟はドイツ野郎から面罵され、大切な遺灰をかけられ、失意のなか帰国する。

一族を馬鹿にされ、一気飲みでも負けたズタボロの二人はどうするのか。曾祖母と祖父の名誉を回復し、ドイツ野郎を打倒せんと一念発起するのである。そこで、まずは頭数を揃えるために酒飲みとゲームの達人を集めはじめる。

大食漢で失業中のランドフィル、国立衛生研究所で働く変わり者の科学者フィンク、ビールゲームの達人であり、変態の名をほしいままにするバリーらを口説き落とし、次回の「ビール・フェスタ」に向けて、一年にも及ぶ壮絶な飲酒ブートキャンプをはじめる。

というのが序盤の展開である




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このように、物語は主人公がライバルと出会い、最初の敗北を喫し、リベンジを誓う、といったお約束で展開していく。そして、この後もチーム解散の危機が訪れたり、危機を乗り越え結束が強くなったり、ドイツチームに再び陥れられたり、知られざるウルフハウス家の血の物語が描かれたりと、やっぱりお約束の展開である。

しかし、お約束で展開していくというものの、主人公含めた登場人物が漏れなく酒飲みであり、競い合うジャンルがビールという、そもそもの設定がどう考えてもおかしいので、不思議と嫌なベタさを感じない。

この手の映画は観客を置き去りにした演出や描写が多くなりがちだが、本作は様々な映画のオマージュを散りばめつつも、丁寧に話を進行させていく。この匙加減は絶妙で、『U・ボート(1981)』に出演していたユルゲン・プロホノフを劇中でもU・ボートに乗せるなど、「気付かれなくてもいいし、気付いたら笑ってくれるだろう」といった演出も鼻にかからず、エゴにならない程度に散りばめられている。

また、酔っぱらいならではのエピソードも盛り沢山だ。開けっ放した冷蔵庫の前でハムを食いながら気絶しているランドフィル、ソファでぐったりと動けないウルフハウス兄弟、仕事に身がまったく入らないフィンク、どれもこれも、酒飲みであれば似たような二日酔いの経験があるはずだ。筆者は全部ある。

また、泥酔したバリーが美女と勘違いして巨漢の女性を口説いてしまうシーンでは、語らずとも自然に「ビール・ゴーグル効果」が示されている。この効果を乱暴に説明すると、「酔っ払った状態で異性を見ると魅力的に見える」というもので、マンチェスター大学が「ビールをどれだけ飲めば魅力的でない女性が魅力的に見えるか」を算出した数式も存在する。

このような小ネタがテンポよく随所に挿入され、どれもが牽強付会ではない範囲にキッチリと収まっている。もっとも、やや無理目な演出があったとしても、「まあ酔っ払ってるからな」と片付けられるという利点もある。これはズルい。粗相をしたときに「酔っ払っててさあ」と言い訳する輩とまったく同じである。が、どこか憎めない魅力がある。

昔、バカみたいに飲んで、バカみたいに騒いだことって、ありませんでしたか?




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後半、別に乗り越えなくても良いような出来事を乗り越えつつ、ついにウルフハウス率いるアメリカチームは「ビール・フェスタ」の会場に千鳥足で舞い戻る。かくして、各国のプライドを賭けた最終戦は幕を開ける。

勝負の行方は作品を観ていただくとして、とうとう最初から最後まで、本作はバカしか出てこない。そして、やっていることもバカである。

だが、酔っ払ったウルフハウスたちを見ていると、皆が本当に仲睦まじく、「昔の仲間っていいな」なんて思ってしまう。学生の時に友人たちとバカみたいに飲んで、バカみたいに騒いで、バカみたいに真面目な話を、バカみたいに恥ずかしい話をした経験がある人は多いんじゃないだろうか。

本作はバカ映画ながら「ああ、昔は俺もこんな馬鹿したな、でも、もうできないな。そういえばあいつら、元気かな」と思わせてくれる作品でもある。その点では、大人が観るための青春映画であると言っても言い過ぎではないだろう。

ただ、今の感覚から見るとセンシティブな問題を軽く扱いすぎているのでは、という懸念もある。本作はコメディなのだからして、これくらいやってしまっても問題無いとは思うが、憤慨してしまう人もいるかも知れない。と、突っ込みどころもあるにはあるし、むしろ満載なのだが、あら捜しをするのも野暮天だよなと思える内容であり、それを狙ってやっているのなら凄い。

そして、最後の最後、エンドロールにワイプで映されるは、信頼と実績のNG集である。全部が全部NG集のような本作であるが、飲んだ翌日に色々と思い出して必ず反省するように、観客は映画の内容を反芻できる。もちろん、忘れていることもある。それでもいいじゃないか、酔っぱらってたんだから。酒も恋も映画も、浸っている間は酩酊しているようなものだ。

『ビール・フェスタ〜世界対抗・一気飲み選手権』は、最初から最後まで、徹頭徹尾ユーモアに徹した文句なしのバカ映画である。コメディーとB級映画のマナーに誠実に則って、下世話なユーモアと、くだらなくも「なんか良い」友情を、たっぷりと描ききった制作陣に乾杯を。

(文:加藤広大)

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