ただのテニス映画じゃない理由はこれだ!『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』監督インタビュー

7月6日(金)より、映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が公開されます。本作は1973年に行われたテニスの試合を題材とした、いわゆる“実話もの”。その試合というのがただの試合ではなく、世界中で9000万人がその行方を見届けようとした“決戦”だったのです。



それはなぜか。現役の女子テニスの世界チャンピオンと、55歳の元男子チャンピオンという対決カードが組まれた上に、実はタイトル通り“Battle of the Sexes(性差を超えた戦い)”でもあったからなのです。

当時は男女差別が根強く残っている反面、男女平等を訴える運動も活発化しており、このテニスの試合はそのムーブメントの象徴でもありました。そのテニスでの女子の待遇というのがまさに理不尽な差別で、なんと女子の優勝賞金は男子の8分の1! 主人公がその事実に抗議するという“掴み”がバッチリで、各キャラクターの魅力で物語をグイグイと引っ張ってくれていました。



(C)2018 Twentieth Century Fox


そして、スタッフとキャストも超豪華! 『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンと『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のスティーヴ・カレルが共演し、監督は日本でも圧倒的な支持を集めた『リトル・ミス・サンシャイン』のヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン。しかも、ダニー・ボイルが製作、サイモン・ボーフォイが脚本という『スラムドッグ$ミリオネア』のチームが再び手を組んでいるのです。この時点で、一定の面白さがあることは保証済みと言っていいでしょう。

ここでは、そのヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン監督へのインタビューをお届けします。読めばきっと“ただのテニス映画ではない”ことがわかりますよ!

1:何も知らない日本人でも楽しめる理由とは?




(C)2018 Twentieth Century Fox


──私はビリー・ジーン・キングとボビー・リッグスというテニスプレイヤーのことも、この性差を超えた戦いがあったことも、この映画を観るまで知りませんでした。そして、今作はこの出来事を知らない日本人でも楽しめて、また勇気が持てる内容であると思いました。制作にあたり、“知らない人”にも向けて何か工夫などはされたのでしょうか。

ジョナサン・デイト(以下、デイト):この試合のことを全くご存知ないということは、“誰が勝ったか”ということがわからないということですよね。そうした日本の観客にこの映画を観ていただくことは、とてもうれしいことです。「ああ、これはテニスの映画ね」と単純な先入観を持たないわけでもありますから。

ヴァレリー・ファリス(以下、ファリス):これは単なるテニスの映画というわけではなく、ラブストーリーでもあり、“人間関係”も描かれています。ボビー・リッグスとその奥さん、ビリー・ジーンとその旦那さん、そして“恋人”などがそうですね。その他にも男女差別など多くの要素や多層的なテーマがあることこそが、何も知らない人が楽しめる理由かもしれませんね。

──こうした差別を扱った作品では、差別をする人物が憎たらしい悪人として描かれることもよくありますが、本作の“対決の相手”が全く憎めないというのが印象的でした。元々のボビー・リッグスがそういう人物であったということもあるのでしょうが、彼を描くにあたって気をつけたことや、重視したことはありますでしょうか。

デイト:この映画の中では、差別を感じている人、差別を持っている人を、単なる悪役という風には描きたくはなかったんです。もしかするとあなたの親戚、または大好きなおじさん、おじいちゃんやおばあちゃんも、こう言った差別の考えをもっていたかもしれませんよ。何しろ、昔の話ですからね。

ファリス:どんなことであれ、相手を過小評価してはいけないとは思うんですよ。女性だからと言って過小評価をするのではなく、女性であっても男性と同じように社会に貢献できるかもしれない。そういったことにも警鐘を鳴らしたいと考えていました。この映画を観た方が、差別に対してそうした知見を得られるのであればうれしいです。

2:エマ・ストーンとスティーヴ・カレルの入念の役作りとは?




(C)2018 Twentieth Century Fox


──私の主観ではありますが、エマ・ストーンがスター選手というよりも、どこにでもいる普通の女性のように見えたことも印象的でした。

ファリス:実は、1973年当時のスーパーアスリートと呼ばれる人たちは今と体格が全然違うんですよ。それはトレーニングの差のせいかもしれないし、技術的な面での差かもしれません。実際のビリー・ジーン・キングも、女性のチャンピオンだからと言って、セリーナ・ウィリアムズのような体つきではないんです。

デイト:この役を演じるにあたって、エマ・ストーンは4ヶ月間に渡りトレーニングを続けて筋肉をつけ、15ポンド(6.8kg)体重を増やしました。そうすることで、アスリートの精神、考え方に自分が入り込んでいったようですね。実際のビリー・ジーン・キングの写真や映像を観ていただくと、体つきが今のアスリートと違うことがわかりますよ。

──スティーヴ・カレルは、『フォックスキャッチャー』などでは本当に近寄りたくない雰囲気を醸し出していましたが、本作ではもうかわいくって仕方がありませんでした。特別な演技指導や演出などはされたのでしょうか。

ファリス:スティーヴは4ヶ月間を費やして、実際のボビー・リッグスの試合時の担当コーチやその親友に人物像を聞いていました。もちろん実際の当時の映像を観て研究もされていましたね。

デイト:実際のボビーも、全く憎めないんですよ。とても人を楽しませることに長けていて、調べれば調べるほどに魅力的に感じました。その人柄を最大限に捉えようと、演出では努力しましたね。

──彼とは反対に、ビル・プルマンが演じていたジャック・クレーマーはいい意味でイライラしました。「生物学上の当然の違いを言っているだけだよ」という発言など、差別を差別とも捉えていないような……。

ファリス:彼は確かにボビー・リッグスとは違って、男尊女卑の思想を一番強く感じる人物になっていますね。

デイト:彼こそ“世代が違う人物”なんだと思います。でも、こういう人は現代にもいるのかもしれませんね。

3:“テレビをそのまま観ている”感覚になる? 驚きの映像のこだわりがあった!




(C)2018 Twentieth Century Fox


──35mm フィルムでの撮影や、“テレビを観ているかのような試合”など、まるで70年代当時の実際の映像を観ているかのような感動がありました。これらの映像のこだわりや、意識したことなどがあれば教えてください。

デイト:それは映画の構成に深く関係しています。試合まではとてもパーソナルな物語なので、まさにパーソナルに感じられる映像にしました。そして試合が始まったら、それはもう公(おおやけ)のものということで、感覚が全く異なる映像にしたんです。カメラアングルも、実際のテレビの映像そのままに撮っていますよ。

ファリス:この映像の切り替わりで私たちが見せたかったのは、“試合が始まってから世間の目が2人に注がれていた”ということです。映画の観客だけでなく、当時の社会に生きていた人たちがまさに“観ている”という印象を与えたかったんです。だからこそ、実際のテレビの映像だと感じられる映像を作り上げました。

デイト:実は、本物の映像の権利も買って、ところどころに入れているんですよ。例えば、観客の映像や、コメンテーターの方が映るシーンがそうです。そのコメンテーターの声やコメントの権利も買ったりもしましたね。こだわりのシーンになっていますので、これから観る人にもぜひ楽しんでもらいたいです。

まとめ




『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』はテニスの試合のそのものもさることながら、そこに至るまでの人間ドラマも丁寧に描かれている作品です。監督の2人が語ったように、スポーツものだけでなくコメディやラブストーリーなどの多くの要素をもっており、老若男女が楽しめるエンターテインメントとしても高い完成度を誇っていると言っていいでしょう。

この特徴や魅力は、2017年に公開され日本でも多くの方に絶賛された『ドリーム』と同様。現代にも通ずるフェミニズムのメッセージは、多くの方の琴線に触れることでしょう。ぜひぜひ、劇場でご覧ください!

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(取材・文:ヒナタカ)

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