映画コラム

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2018年08月04日

『2重螺旋の恋人』は双子に翻弄されるオトナのエンタメサスペンス!その4つの魅力!

『2重螺旋の恋人』は双子に翻弄されるオトナのエンタメサスペンス!その4つの魅力!



 (C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU


映画『2重螺旋の恋人』が8月4日より公開されています。監督は『スイミング・プール』や『8人の女たち』のフランソワ・オゾンで、一見すると小難しい文芸的な作品であるように思われるかもしれませんが、実際は「誰が観ても楽しめる」素晴らしい“オトナのエンタメ作品”でした! その魅力をネタバレのない範囲で解説します。

1:容姿と職業が恋人と同じでも“中身がクズな双子の兄”に翻弄されてしまう!
これは妄想か現実か?


本作のあらすじは、原因不明の腹痛に悩んでいる25歳の女性が、カウンセリングをしてくれた精神分析医と恋人となり同居を始めるものの、街でその分析医と瓜二つの男を見つけてしまう……というもの。その男は恋人の双子の兄で、職業も恋人と同じく分析医であることも明らかになり、以降はいくつもの張り巡らされた“罠”に翻弄されてしまう、良い意味で安心させてくれない物語になっていました。

その“恋人と瓜二つの男”は挑発的かつ不遜な性格で、時には暴力をも奮ってしまうという、有り体に行ってクズ男です。しかしながら、ヒロインがその男の(性的な意味を含めた)支配から逃れられなくなってしまう……というのはかなりスリリングかつ、良い意味でイヤな気分にさせてくれるでしょう。

特筆すべきは、現実に起こっている出来事なのか、それともヒロインの妄想なのかという、境界線が次第に曖昧になっていくこと。それでいて一定のリアリティラインも備えているため、ファンタジーになりすぎることもなく、観ていて混乱することもありません。観ながら「どこから現実で、どこからが妄想か」と考えると、より楽しむことができるでしょう。



 (C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU



2:主役2人の名演に注目!
登場人物が少ないからこそのサスペンス!


本作は主要登場人物が非常に少なく(ヒロインと双子の精神科医と、彼らを取り巻く3人の女性のみ)、そのぶん実力派の役者の演技をじっくりと堪能できることも大きな魅力になっています。

双子の精神分析医を“一人二役”で演じるのは、『クリミナル・ラヴァーズ』と『しあわせの雨傘』でもフランソワ・オゾン監督とタッグを組んでいたジェレミー・レニエ。同じ顔であっても“優しい男”と“挑発的かつ不遜な男”の違いがすぐにわかる演じ分けが実に見事で、優しい男の方にこそ“ミステリアスな雰囲気”や“内面が読めない恐ろしさ”をも持たせていました。

ヒロインを演じるのは、オゾン監督作品『17歳』で売春を繰り返してしまう女子高生を演じていたマリーヌ・ヴァクト。オゾン監督は企画が始まった4年前は「若すぎる」という理由でマリーヌの起用を考えていなかったのですが、後に企画を考え直した時にマリーヌが子供を授かり大人の女性になっていたことから、再びヒロインにすることに決めたのだとか。

マリーヌは『17歳』では男に弄ばれてしまう(時には搾取されてしまう)精神的に不安定な少女を熱演しており、今回の双子の男に翻弄される『2重螺旋の恋人』の役とは、ある意味で“地続き”になっているとも言えるでしょう。両作品を見比べると、女優としての成熟ぶりもわかりますよ。



 (C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU



3:美術にも注目!
対照的な診療所や“鏡”が示しているものとは?


これまでのオゾン監督作では、人間の持つ本質的な醜さや嫌らしさが丹念に描かれていました。今回は“視覚的”にも、さらにサスペンフルかつ象徴的に、人間の内面が描かれていたと言っていいでしょう。

その理由の1つが“性格の変化”や“心理”を美術で表現していること。例えば、ヒロインが働く美術館の展示物は、冒頭では美しく見えるものの、次第にグロテスクなものに変わっていきます。これはヒロインの心情をそのまま展示物に投影したためなのでしょう。

また、優しい恋人の診察室は皮革や絨毯があり、暖色ならではの温かみを感じさせる快適さがある一方で、挑発的かつ不遜な双子の兄の診察室は大理石で作られており、冷たく無機質な印象を持たせます。この診療所の違いは言、双子の男それぞれの人間性を反映しているのでしょう。

さらに映画を印象的にしているのは“鏡”の使い方です。言うまでもなく鏡は自己を映すものであり、“双子”という要素を象徴しています。

オゾン監督自身も本作について「最初の10分だけに言葉を凝縮して、あとは視覚的に語った構成にしている」と語っています。セリフで説明しすぎることなく、映画ならではの美術や演出で物語っていることは本作の大きな美点です。裏を返せば、初めの10分間のセリフには“ヒント”がたっぷりと込められているので、聞き逃さないように頭をフル回転させおくことをオススメします。



 (C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU



4:双子というモチーフを選んだ理由とは?
オゾン監督の新境地!


オゾン監督はかなり前から双子というテーマに興味を持っていたそうで、“双子は自然が生んだ傑作”、“同じ体の人間が2つ存在するという驚異を映画で展開させたかった”と語っています。オゾン監督は以前に『危険なプロット』でも双子の女性を登場させており、双子というモチーフを今回でメインに置いたのは“満を持して”のことでもあったのでしょう。

本作の原作はアメリカの作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説で、「ある女性が恋人の精神分析医に同じ職業の兄弟がいることを知る」という物語の出発点を用いている他、ノイローゼやセックスや双子出産など、その原作者が偏愛する要素を取り入れたのだそうです。また、物語をさらに心理的にして、とある“医学的な新事実”をも付け加えたのだとか。

その結果と言うべきか、本作はオゾン監督の“人間の心理をスリリングに描く”という作家性が存分に発揮されつつ、“双子”というモチーフもこれ以上はないと言えるほどに活用された、新境地とも言える面白さも備えています。これまでの監督作よりもさらにエンタメ性も高いため、オゾン監督のファンはもちろん、今までの作品を知らないという方にもオススメできます。

また、本作はR18+指定がされていますが、性的なシーンが過度に執拗に描かれることもなく、グロテスクなシーンもほぼないため、意外にも“観やすい”内容とも言えます。とは言え官能的なシーンに妥協はなく、存分にエロスに満ちた雰囲気を堪能できるでしょう。18禁映画を観たことがないという方にとっての“入門”としてもうってつけです。

また、『2重螺旋の恋人』という邦題も秀逸です。劇中には螺旋階段も登場し、それは螺旋状のDNA、ひいては同一のDNAを持つという双子の特徴をも示しているのでしょう。



 (C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU



おまけ:合わせて観て欲しい“瓜二つの男”が登場する映画はこれだ!


最後に、本作『2重螺旋の恋人』と合わせて観て欲しい、双子または“瓜二つの男”が登場する3つの映画を紹介します。

1.『双生児 -GEMINI-』




江戸川乱歩の短編小説を原作とした作品です。医者の父と母が謎の死を遂げてしまうばかりか、その医者自身が謎の瓜二つの男に“成りすまされてしまう”という物語で、奇抜かつおどろおどろしい美術、主演の本木雅弘の“怪演”も大きな見どころになっていました。

瓜二つの男が医者に成り代わって好き放題する物語かと思いきや、その医者の妻の反応がかなり意外なもので、その後も思いもしない方向に物語が転がっていきます。明治末期の日本における差別意識、ある欺瞞に満ちた選択への批判もあり、単純なサスペンスだけに止まらない多層的な構造を持っていました。84分という短い上映時間ですが、そうとは思えない満足感が得られるでしょう。

2.『レジェンド 狂気の美学』




『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ヴェノム』のトム・ハーディが、実在の双子のギャングを演じた作品です。特筆すべきは、この双子が全く似ていないということ。方やカリスマ性が抜群でクラブのオーナーとして成功している男、方や統合失調症を患っており言動も行動もめちゃくちゃな男で、もはや双子だとは思えないほどでした(演じているのはどちらもトム・ハーディなのに)!

わかりやすいナレーションがあり、かつ登場人物も整理されているので、ギャングものに馴染みがないという方でも受け入れられやすいはず。何より、“真っ当な仕事をしていない男の恋人は大変”や“兄弟で結託していたはずなのに次第に不協和音が生まれていく”という物語はどなたでも感情移入がしやすいでしょう。

3.『複製された男』




『メッセージ』や『ブレードランナー2049』といった大作も手がけているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるサスペンスなのですが……端的に言ってその内容はわけがわかりません。「主人公が瓜二つの男を偶然見つけ、困惑しながらも会いにいく」というシンプルなプロットがあるものの、意味があるのかどうかもわからない奇妙なシーンがつぎつぎに映し出され、結末はもちろん“過程”でさえも、観る人によって解釈が異なる作品になっているのです。

どう論理的に考えても矛盾が生じてしまう物語、劇的な展開に乏しいことも含めて、極めて好き嫌いが分かれることは間違い無いでしょう。“同じ顔の人物がいる”というのはそれだけで奇妙で、かつ現実離れしたファンタジーに“一歩踏み入れている”ような曖昧さがあるものだと思い知ることができました。『2重螺旋の恋人』も『複製された男』と同様の“妄想か現実かわからない”ことに翻弄される面白さに満ち満ちていますよ。

(文:ヒナタカ)

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