映画コラム

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2018年08月30日

なぜ芸能人も大絶賛?『カメラを止めるな!』人気を改めて分析してみた

なぜ芸能人も大絶賛?『カメラを止めるな!』人気を改めて分析してみた



※ご注意:ここからは映画本編の一部ネタバレがございます。

芸能人が軒並みハマる面白さ


そもそも、今回の『カメラを止めるな!』のムーブメントの一翼を担っているものとして、芸能界の名立たる面々が本作を猛烈にプッシュしている点も挙げられる。例えばHKT48の指原莉乃はたびたびツイッターで話題にし、当初は「会う人全員にすすめてるんだけど誰もみてくれない」と嘆きの声を上げるほどだった。しかし指原の熱心な布教活動が功を奏したのか芸能界にも徐々に“感染”は拡大していき、お笑い界からもカンニング竹山が「最高の映画」と評し、チュートリアル・徳井義実も「良い作品というのはお金じゃなくて、発想と熟考だなぁと思う」と評価している。ほかにも多くの著名人が絶賛しており、宣伝といった野暮ったいしがらみもなく近年稀にみるほど芸能界でも話題の作品となった。

なぜ『カメラを止めるな!』がここまで芸能人をも魅了したのか。それはおそらく、芸能人こそが普段体験しているライブ感が本編に詰め込まれているからなのではないか、と思う。例えばバラエティ番組経験者になればなるほど、本編を観ていれば「あるある!」と手を叩きたくなる瞬間が多かったと思う。そのライブ感とは“ハプニング性”にあり、本編開始直後から漂う違和感とゾンビ襲撃の意味が後編で明らかになってからの怒涛の展開こそ、いわゆるタレントが収録時に味わう“現場あるある”そのものだといえる。



(C)ENBUゼミナール


実は筆者もテレビ関連の仕事の関係でバラエティ番組や生放送番組、ドラマ収録に幾度となく携わってきた経験がある。そこで味わう“現場あるある”といえば、まずは台本の決定稿が本番直前になっても平気で書き換えられること。いわゆる改稿版の登場で、本番とは常に流動的になることだった。ディレクターを筆頭にカメラチームや音響チームといった各部署大勢のスタッフが一つの現場で乱れ動く中、例えば1カットカメラ割りが変わるだけでもカメラの動線や編集など影響は多方面に及び、ともすると撮影がストップしかねない状況が起きる。そういったハプニングが発生した時こそフロアディレクターや演出家といった面々の瞬間的な判断や新たなアイデアが待たれるのだ。その間の出演者といえばどっしりと構えているかほかの場面をチェックしているわけだが、変更点が明確になればすかさずスタッフとの打ち合わせに入る。ここからはキャストにも柔軟な対応力が求められ、そういった“現場の統制力”如何によって、改稿があってもオンタイムで撮影が終わるか或いは押しに押しててっぺん(午前0時)を超えてしまう、といった状況になる。

これはあくまで経験上の話だが、正直台本の変更やNGなくして収録や撮影が終わるなんて本当に稀だ。逆を言えば何かしらどこかで“ハプニング”は起こるものであり、キャストもスタッフも常に緊張の糸が張り詰めた状態で挑んでいる。人的なミスもあれば機械的なトラブルもあり、本番にのし掛かる重圧の形はさまざまだが、そういった困難をアイデアと努力で乗り越えた先にテレビに映し出されている番組があると思ってほしい。

話が逸れてしまったが、要は芸能人にとって『カメラを止めるな!』とは、一般の観客とはまた違ったノンフィクション的な視点で鑑賞する作品でもあるということだ。衝撃的なファーストカット37分を体験したのち2カット目以降で常日頃経験している現場のドタバタが同じように展開し、その要素がどれも一切ブレることなくしっかり96分の世界の中に収まっているのだから爽快感は尚更のはず。芸能人のみならず映画やドラマで自分と同じ職業がテーマになっているといつも以上にウキウキしてしまったり、ほかの観客よりも一層深い視点で楽しめるというメリットにちょっと鼻高々な気分になったりしないだろうか。『カメラを止めるな!』がまさに芸能人にとってのそれであり、そんな著名人がこぞって絶賛しているのだから、いかに本作が撮影現場の臨場感を再現しているかが窺い知れる。そんな臨場感を上手くユーモアへと変換して笑いへと昇華する脚本の妙は、何度も見返したくなるほどの構成力の上に成り立っているのだ。

まとめ


ビジュアルとしてはホラー映画としての体裁をとりつつ、ふたを開けてみれば純度100%のエンターテインメント。劇場の観客が固唾をのみ、大いに笑い、ときにほろりとなるあの一体感こそ、まさに映画の醍醐味であり映画の理想形ではないだろうか。そんな作品を作り上げたスタッフ・キャストもまた“映画”という夢に包まれながら本作に挑んだのだと思うと、もはや『カメラを止めるな!』はエンターテインメントの枠を超えて“ひと夏の経験”として記憶に刻まれるのではないか。上映後に巻き起こる拍手が、そんな様子を物語っている気がする。

(文:葦見川和哉)

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