『ダウンレンジ』の「3つ」のおもしろさを語る!北村龍平監督が原点回帰した快作だ!



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映画『ダウンレンジ』が9月15日より新宿武蔵野館で2週間限定でロードショー、大阪の第七藝術劇場で9月22日より公開されます。極めて小規模公開ではありますが、劇場で見逃すのはもったいない、「残酷描写が大丈夫という方であれば絶対におもしろい」と言える快作でした!

本作はワンアイデアと、緊迫感溢れる舞台が何よりの魅力。予備知識なく観ても(そのほうが)存分に楽しめるでしょう。どういった特徴があり、また面白さがあるのか、以下に紹介します。

1:突如として謎の銃撃を受けてしまった!
車を盾にして生存を画策するワンシチュエーションスリラーだ!


本作の内容は端的に、一行で言い表すことができます。それは「謎の凄腕のスナイパー(?)VS車を盾にして生存を画策する6人の若者」ということ! クルマがパンクして立ち往生をしていた大学生たちが、突如として何者かの襲撃を受けてしまい、彼らは命からがら車の後ろに隠れ、その状況だけで90分が展開していきます。舞台が極めて限定されている、いわゆるワンシチュエーション(ソリッドシチュエーション)スリラーになっているのです。

それからどういった展開になっていくのか? ということはもちろんネタバレになるので書けません。しかし、“6人の若者の中に軍人の娘がいる”ことや“携帯電話の電波がギリギリで届かない場所にいる”ことなどが物語上の重要なフックになっており、限られた場所でありながら(むしろそれを逆手に取った)驚きのアイデアがたくさん配置されている、ということだけはお伝えしておきます。

本作を観て、スティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』を思い出す方も多いでしょう。殺意を持って追い詰めてくる敵との攻防をスリリングに描き、巧みな演出とひとつひとつのアイデアで観客をスクリーンにクギ付けにし、何よりも一方的に命を狙われる状況そのものがめちゃくちゃ怖い……そんなエンターテインメントおよびホラーの原点に立ち返ったような面白さが全開なのです。

そして、「今後語り継がれるであろう、ラスト37秒の戦慄と衝撃」という触れ込みどおり、驚天動地という言葉がふさわしい、絶対にネタバレ厳禁なエンディングが待ち受けています。どういうラストになるかを、予想しながら観ても楽しいでしょう(おそらくその予想は外れます)。

ちなみに、タイトルの『DOWNRANGE』とは、銃弾の射程圏内を指す用語で、兵士の間では“戦闘地帯”を表しているのだそう。その言葉どおり、徐々に(時には急激に)戦場の様相を呈してくる展開のひとつひとつを、見逃さないでください。



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2:北村龍平監督の原点回帰的な1本!
その作家性とは?


本作で重要なのは、監督が北村龍平であること。『ゴジラ FINAL WARS』や実写映画版『ルパン三世』などの(評価そのものは決して芳しくはない)日本の大作映画でも知られていますが、実は『ミッドナイト・ミート・トレイン』や『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』というアメリカ映画も手がけており、こちらはグロテスクな描写のある大人向けの作品になっていました。

そのバイオレンス描写は本作『ダウンレンジ』でも健在、ケレン味たっぷりのカメラワークや演出も多く、北村龍平監督のファンであれば「待ってました!」な作風になっているとも言えるでしょう。なぜなら、それは長編デビュー作であり出世作でもある日本映画『VERSUS』でも発揮されていた、北村龍平監督の作家性そのものとも言えるからです。





『VERSUS』は実にとんでもない作品で、物語はゾンビとヤクザが森の中で戦いまくり、ガンアクション!カンフー!剣技バトル!とにかくハイスピードアクションの連べ打ち!というもの。ストーリーはないに等しいですが、銃の構え方がいちいち“中二心”を刺激してくれるカッコよさで、血が吹き出したり胴体に穴が開いたりするバイオレンス描写も詰め込まれていて“好き者”にはたまらない要素ばかり。配信サービスに登録されておらず、レンタル店でも探すのが難しくなっているのが勿体無い!

『VERSUS』は低予算のインディペンデント映画であり、残酷描写でのサービスが満点。その特徴を受け継ぐ『ダウンレンジ』は北村龍平監督にとっての“原点回帰”的な作品と言えるでしょう。また、流石に『ダウンレンジ』には『VERSUS』ほどの(良い意味での)ハチャメチャさはありませんが、代わりに「そうはならないだろ」というツッコミどころもあまりない、限られた場所ならではの十分な説得力のある展開が紡がれているのも美点です。脚本家のジョーイ・オブライアンの力も大きいのでしょうが、北村龍平監督の作家性が十分なリアリティのあるワンシチュエーションスリラーと上手く融合していることも嬉しくなりました。

また、北村龍平監督自身も『ダウンレンジ』について「自分自身を証明するためにどうしても作らなければならなかった」と語っています。それは、監督自身がインディペンデント映画で、大きな後ろ盾や予算がなかろうとも、強力なワンアイデアを仲間と一緒に広げ、その作品の力だけで評価を勝ち取ってきていたという経歴から来る自信の表れでもあったようです。この言葉からでも、監督にとって原点回帰的な作品であることがわかりますね。

余談ですが、『VERSUS』で主演を務めた坂口拓(TAK∴)さんは、2017年公開のインディペンデント映画『RE:BORN』も素晴らしいアクションを披露していました。その坂口拓さん主演の未完の作品、“77分ワンシーンワンカット”を売りとする映画『狂武蔵』がクラウドファンディングを実施しており、リターン特典が“世界初の移動式ドーム型シアター”での上映権など、ここまで豪華かつ、出資者への愛に溢れたクラウドファンディングが今まであっただろうか?と思えるものになっています。ぜひ、その他のリターン特典もチェックをしてみてください。(クラウドファンディングは2018年10月30日まで)

<『狂武蔵』クラウドファンディングキャンペーンページ>



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3:『カメラを止めるな!』との共通点も?
無名の若手役者たちの熱演を見届けて!


本作『ダウンレンジ』のもう1つの特徴は、キャスト全員が無名の新人であるということ。北村龍平監督のオーディションには1万人を超える応募があり、そこから書類審査、ビデオ審査を経て、最終的に北村監督は数百人と直接会ったのだそうです。最終的に選ばれた先鋭6人の演技は、ただただ素晴らしいの一言! それぞれが個性の強い役にハマっており、命がすぐに奪われかねない極限状態の心理を見事に演じ切っていました。

北村龍平監督には、将来性のある若手役者を起用し、スターダムに押し上げてきたという実績があります。『あずみ』の上戸彩は国民的に知られるようになり、『ミッドナイト・ミート・トレイン』のブラッドリー・クーパーは『アメリカン・スナイパー』などで主演を務め、『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』のルーク・エヴァンスはディズニー実写版『美女と野獣』などへの出演を果たすのですから。『ダウンレンジ』に出演した若手役者たちも、これからメジャー作品へ進出していくことは想像に難くないのです。

また、『ダウンレンジ』が低予算のインディペンデント作品であり、無名の役者たちを起用していること、ワンアイデアを生かした舞台や、監督にとって限定回帰的な作品であり、映画の根本的な面白さを追求していることなどは、日本の映画界の話題をかっさらっている『カメラを止めるな!』にも通じています。



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『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督はテレビの取材で「無名の役者であるから誰が生き残るかわからない。広瀬すずだったら生き残るのがわかってしまう」などと語っていましたが、これは本作『ダウンレンジ』でも当てはまります。誰が初めに死に、誰が最後に生き残るのか? そうしたことがキャスティングからわからないからこそハラハラする、インディペンデント映画だからこその面白さがあると言ってもいいでしょう。

『カメラを止めるな!』は大ヒットを記録していますが、これは異例中の異例のこと。ほとんどのインディペンデント映画はここまで多くの方に観られるということはありません。その意味でも、野心と情熱に溢れた、北村龍平監督の新たな(でも原点に立ち返った)挑戦でもある『ダウンレンジ』を、強くおすすめしたいのです。

余談ですが、前述した北村龍平監督の出世作『VERSUS』の制作費は3000万円で、『カメラを止めるな!』の300万円のちょうど10倍であったりします。どちらも「限られた条件と予算で最高に面白いゾンビ映画を作る!」という点において素晴らしい作品なので、ぜひ合わせて観てみてください。



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おまけその1:この2017年のワンシチュエーションスリラー映画も観てほしい!


ワンシチュエーション(ソリッドシチュエーション)スリラー映画には、『SAW』 や『フォーン・ブース』など数多くの作品があります。ここでは比較的最近の、昨年(2017年)に公開された作品の中から、オススメのワンシチュエーションスリラー映画を紹介します。

1.『ノー・エスケープ 自由への国境』






端的に表現すれば「メキシコ移民たち VS ゴルゴ13並の狙撃能力を有した凄腕スナイパーwithワンちゃん」という内容です。広大な砂漠だけでなく、死角のある岩場という“地の利”を活かした駆け引きもあり、“鬼ごっこ”のハラハラドキドキが存分に味わえる内容になっていました。日本でもスマッシュヒットを記録したホラー『ドント・ブリーズ』との共通点も多く、こちらが好きだという方も存分に楽しめるでしょう。こうしたワンシチュエーションスリラーは、犬が活躍すると面白くなる法則があるような気がします。(実は『ダウンレンジ』でも…?)

2.『海底47m』




『MEG ザ・モンスター』が大ヒット中で、サメ映画界が盛り上がっていますね。こちらは海底47mまで沈んだ檻に閉じこめられてしまい、急浮上すれば潜水病!海中に留まればいずれはサメの餌食!ボンベの酸素はあとわずか!という極限状況が売りのサメ映画となっており、あの手この手で(恐怖という)おもてなしをしてくれる、これまたサービス精神が満載な内容になっていました。ちなみに、同監督の前作『ストレージ24』というモンスターパニック映画は、アメリカでの興行収入がわずか72ドルに止まったことも(悪い意味で)話題になっていたりもしました。『海底47m』はヒットして良かった!

3.『トンネル 闇に鎖された男』




トンネルに生き埋めになってしまった男と、彼を救助しようと奮闘する救助隊員の姿が描かれた映画です。『アポロ13』や『オデッセイ』を彷彿とさせる構図ですが、手抜き工事がまかり通る建築業界、不誠実な政府対応、倫理観の欠けたマスコミ報道など、韓国社会に対する不満とメッセージもありありと表れてもいました。主人公の過酷なサバイバル生活や、彼の生存を待ち望む妻の言葉などには感情が揺さぶられることでしょう。偶然ではありますが、今年7月に世界中から注目を集めていた、タイ洞窟での少年たちの救助の実例を彷彿とさせる展開も待ち受けています。

おまけその2:全編パソコンの画面のみ!
10月公開の『search/サーチ』も要チェック!





2018年10月26日に、また新たなワンシチュエーションスリラー映画が公開されるのをご存知でしょうか。それは、映画情報サイトIMDbで7.9点、Rotten Tomatoesでは92%という圧倒的な高評価で迎えられている『search/サーチ』。その売りは“全編がパソコンの画面上だけで展開する”ということなのです。

この『search/サーチ』もまた『カメラを止めるな!』との共通点が多い作品で、アイデアを最大限に生かした練りに練られた脚本がすごい!有名なスター俳優がキャスティングされていないけど皆が超ハマり役!評判が評判を呼び大ヒット!新鋭監督の劇場用長編映画デビュー作!低予算!家族愛が全開で子供から大人まで楽しめる!ネタバレなしでは何も言えないからすぐに観に行って!という内容なのですから。

こうしたワンシチュエーションスリラー映画は、舞台が変わらないため下手をすれば途中で飽きてしまいそうなのに、作り手が細かいアイデアをたっぷりと込めてくれたおかげで、グイグイと観客の興味を引き出してくれる……そのエンターテインメント性そのものに感動します。「とにかくおもしろい映画が観たい」という方は、ぜひ『ダウンレンジ』と『search/サーチ』を劇場で鑑賞してみてください!

(文:ヒナタカ)

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