『蜘蛛の巣を払う女』は、女性版『007 スカイフォール』だった!




全世界で実に累計9,000万部以上を売った大ベストセラー・ミステリー小説「ミレニアム」シリーズ。 三部作となる原作小説は本国スウェーデンで映画化され、ハリウッドでも第一作目の『ドラゴン・タトゥーの女』がリメイクされているなど、その人気はもはや世界的規模となっている。

作者の急逝により三作目で中断されていた原作小説だったが、その後、新たな作者が引き継いで再始動したシリーズ四作目『蜘蛛の巣を払う女』の待望の映画版が、ついに日本でも1月11日から公開された。

今回は、あの『ドント・ブリーズ』の監督を迎えて製作されただけに、かなりの期待を胸に鑑賞に臨んだ本作。

果たしてその出来と内容は、どの様なものだったのか?




ストーリー


冷え切った空気が人の心まで凍てつかせるストックホルムの厳しい冬。
背中にドラゴンのタトゥーを背負う天才ハッカー、リスベット・サランデル(クレア・フォイ)に、新たな仕事が依頼される。
「君しか頼めない――私が犯した“罪”を取り戻して欲しい」
人工知能=AI研究の世界的権威であるフランス・バルデル博士(スティーヴン・マーチャント)が開発した核攻撃プログラム“ファイアーフォール計画”を、アメリカ国家安全保障局から取り戻すこと。
それは、その天才的なハッキング能力を擁するリスベットにしてみれば、簡単な仕事のはずだった。
しかし、それは16年前に別れたリスベットの双子の姉妹、カミラ(シルヴィア・フークス)が幾重にも張り巡らせた、狂気と猟奇に満ちた復讐という罠の一部に過ぎなかった。


予告編


原作は、新たな作者による人気シリーズ再始動作!



本国スウェーデンでは、オリジナル小説三部作が既に映画化され、その後テレビドラマ版も放送されているほどの人気を誇る、この「ミレニアム」シリーズ。

第一部「ドラゴン・タトゥーの女」に続く、第二部「火と戯れる女」では、前作の事件にまつわるリスベットへの復讐が描かれ、第三部「眠れる女と狂卓の騎士」に至っては法廷劇に変貌するなど、作品ごとにその内容を変化させ、その度に読者を魅了してきた人気ミステリー小説だ。


残念ながら第一巻発売前にこの世を去ってしまった、原作者であるスティーグ・ラーソンは、この「ミレニアム」三部作に続き、生前に第四作目の大半を下書きとして遺していたと言われている。だが、それは未だに日の目を見ることはなく、今回映画化されたシリーズ第四作に当たる『蜘蛛の巣を払う女』は、新たな作者として、ダヴィド・ラーゲルクランツを迎えて執筆された新シリーズとなっている。

オリジナルの三部作を十分に研究した上で、新たな作者を迎えて再スタートを切った、この『蜘蛛の巣を払う女』だけに、過去作のファンにはより深く楽しめて、同時に新たな読者がシリーズに入り込みやすい様に様々な配慮が加えられているのも、その人気の秘密の一つと言えるだろう。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-1)



後述する様に、原作未読の方が新たに「ミレニアム」シリーズの魅力に触れるための作品としても、実は最適なこの『蜘蛛の巣を払う女』。

リスベットという、虐げられた女性を救う現代ならではのヒーロー像に興味を持たれた方は、是非過去の映画化作品や、原作小説にも目を通して頂ければと思う。


前作から7年を経ての映画化! 根強い人気の理由とは?



デヴィッド・フィンチャー監督によるリメイク版『ドラゴン・タトゥーの女』の公開から実に7年を経て製作された、この『蜘蛛の巣を払う女』。今回製作に回ったデヴィッド・フィンチャーに代わり、本作の演出を担当したのは、あの傑作サスペンス映画『ドント・ブリーズ』や、リメイク版『死霊のはらわた』のフェデ・アルバレス監督。

残念ながらその後シリーズ化には至らなかった、デヴィッド・フィンチャー版とは違い、今回はリスベットの活躍を見所に据えた、エンタメ要素満載の内容となっている点は、我々観客にとっても非常に嬉しいところだ。




既に日本でも公開された、過去の映画化作品とは大きく違って、実は本作の主役は完全にリスベットの側であり、協力する男性記者のミカエルも、過去作品よりかなり若返った風貌に描かれている。そのためか、原作小説で親子ほど年の離れたミカエルに恋心を抱くに至った部分は、今回かなり脇に追いやられてしまった感が強い。

原作小説三部作では、リスベットが過去に父親に対しての殺害未遂により、精神病院に隔離されたという記述があったが、今回の映画化ではその部分が変更されており、自分の地位や財力を利用して、女性を自分の物の様に扱う男に対してのリスベットの行動が、実は彼女の父親へのトラウマによるものであり、虐げられた弱い存在である女性の解放と復讐を代行するリスベットの行動原理も、実は過去に救えなかった妹、カミラへの贖罪であることが明らかにされることになる。

この様に、非常に魅力的なキャラクターであるリスベットを中心にして、その過去や周囲の人物を深く掘り下げたくなる点も、本作がこれほど映画化される理由の一つだと言えるだろう。




そう、今回重要な役割を担うリスベットの双子の妹カミラも、実は初期の原作小説においては、その名前のみが登場するに留まっていたのだ。

同様に初期の作品では、自身も男たちから虐げられた被害者であることが描かれたリスベットだったが、何と本作では“女性の復讐”という枠を大きく超えて、世界規模の陰謀に立ち向かう、一種のヒーローとしての活躍が描かれることになる!

かってないほど巨大な陰謀と危機の中で、重要なカギとなる子供の命を守りながら、過去の悪夢と戦うリスベットの姿は必見です!

本作でより人間味を帯びた、リスベットの魅力とは?



過去の映画化作品でリスベットを演じた二人の女優、ノオミ・ラパスやルーニー・マーラの、他人を拒絶するかの様な強烈な外見に比べて、本作でのリスベットはシリーズ中、一番観客が感情移入しやすい女性的な風貌となっている。

それに代わって強烈な印象を残すのが、今回登場する最大の宿敵カミラを演じる、シルヴィア・フークスの圧倒的な存在感だ。前述した通り、オリジナル版の小説にはその名前が登場するだけだった、このカミラという妹のキャラクターを、今回リスベットに負けない強烈な悪の存在として登場させたことは、この新シリーズが果たした最大の功績と言えるだろう。




原作者であるスティーグ・ラーソンが過去に体験した事件を反映させたことで、女性への性的虐待や暴力、そしてそれらへの告発・復讐を描く内容となっていた、初期の原作小説三部作。

それに対して、ラーソンの死後、「ミレニアム」シリーズの執筆を引き継いだダヴィド・ラーゲンクランツによって、完全にリスベットの過去の因縁に的を絞り、更に世界的規模の事件が絡んでくるという、よりエンタメ性を高めた、“女性版007”とも言える内容になっている本作。

加えて、虐げられた女性の陰の部分を象徴するかの様な過去のリスベットとは違い、妹への複雑な想いや自身の家族関係に悩む姿など、より人間的な魅力と女性としての弱さを感じさせる本作の設定は、きっと多くの女性の共感を呼ぶに違いない。

虐待された女性の恨みを晴らす一種のダークヒーローから、人間味を帯びた悩む女性として再登場したリスベットの魅力は、是非ご自分の目でご確認頂ければと思う。

最後に



長編ミステリーシリーズの、しかも四作目の映画化となる、この『蜘蛛の巣を払う女』。そのためか、原作未読や過去の映画化作品を未見という理由で劇場での鑑賞を躊躇されている方も、きっと多いのではないだろうか?

だが大丈夫、本作に関してはそんな心配は一切無用!

実は本作をスタートに、リスベットという実に魅力的なヒロインの冒険が本格的に始まる! という内容なので、予備知識無しでもアクションスリラーとして、十分に楽しめてしまうからだ。


初期の小説三部作と同様、本作でも女性に対する性的虐待や暴力は、重要なテーマとして描かれるが、同時に初期の「007」シリーズを思わせる部分が非常に多く、世界的規模の陰謀や、敵に捕らえられて死の一歩手前まで追い詰められたリスベットが、かろうじて自力で脱出する展開など、その先の読めない展開に観客側もハラハラさせられるのは確実な本作。





思えば『ドラゴン・タトゥーの女』でも、ミカエルが敵に捕まって死の一歩手前まで追いつめられる描写があるなど、観客の予想を覆すその展開は、常にこのシリーズの大きな魅力となってきた。

特に今回は、父親を巡る過去の因縁に対して、自分の生家で決着を付ける展開や、壮絶な拷問を受けた人物がその後遺症を見せる箇所など、近年の007映画の傑作である『007 スカイフォール』からの影響や、共通点を感じずにはいられなかった。

更には、ボンドの宿敵プロフェルドの女性版とも言える、魅力的で凶悪な敵役のカミラを得て、今後のシリーズ化が実に楽しみな作品となっているのだ。この点は、前作『ドラゴン・タトゥーの女』がシリーズ化に結びつかなかった点を反省・改良していて、実に見事だと言える。


その優秀な頭脳により、敵の裏側を見事に読んで先手を打つ姿と、怒りに動かされて自身の危険を顧みず敵地に飛び込むという、相反する面を持つリスベット。

そして、彼女の双子の姉妹でありながら、悲しい過去の因縁によって生き別れとなり、復讐の相手として再会することになる妹のカミラ。


あの時、あの状況では、他に選択の余地が無かったとお互いに分かり合いながら、それでも過去のトラウマを消し去るために、対峙し敵対せずにはいられないこの姉妹の宿命の対決は、果たしてどこへ向かうのか?

過去の悲しい出来事が、再び現在に蘇るかの様なその見事な結末は、是非劇場で!

(文:滝口アキラ)

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