『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!
1:原作や原案と呼べる作品やモチーフが複数存在していた?
本作には、原作または原案と呼べる作品やモチーフが複数存在しています。(1)主人公のモデルおよび名前は実在の航空技術者の堀越二郎から
(2)タイトルおよび後半の展開は堀辰雄の小説「風立ちぬ」から
(3)ヒロインの名前およびエピソードの一部は同じく堀辰雄の小説「菜穂子」から
(4)宮崎駿の父親の存在も意識されている
(5)それらを踏まえた原作となるマンガが模型雑誌に連載されていた
(4)の宮崎駿の父親は9歳の時に関東大震災を経験しており、まさに激動の時代を生きていながら、大義名分とか国家の運命には全く関心がなく、家族のことばかりを考える人だったそうで、どのようにしてああいう人になったのか、父親が生きた時代はどういった時代だったのかを知りたいとも、宮崎駿は考えていたのだそうです。
そして、(5)のマンガ版「風立ちぬ」の執筆にあたって、宮崎駿は堀越二郎の書いた著書を「零戦」を読んで「すっきりしなかった。本当のことは書いていない気がする」と考え、また「昭和大恐慌の時代に裕福であった人物のことを考えていたら、堀辰雄の世界になるんです」などと語っていました。
いわば、『風立ちぬ』は(その著書を読んでもはっきりとは見えてこなかった)堀越二郎の内面および人物像を、堀辰雄の小説の物語を借りて、その他の要素もいろいろとごちゃまぜに描いていくというフィクションなのです。下世話な感じに表現すれば、宮崎駿監督による“俺の理想の堀越二郎”を作り上げていると言っても良いでしょう。
ちなみに、マンガ版「風立ちぬ」は宮崎駿が“趣味の範疇”で描いていたと自覚していたため、鈴木敏夫プロデューサーからアニメ映画化を提案された時は「鈴木さんはどうかしている」などと反発したのだとか。そこには「アニメ映画は子供のために作るべきであって、大人のものなんてとんでもない」という考えもあったようです。つまりは、『風立ちぬ』は“元々は趣味として好き勝手に描いたもの”であり、しかも“今までのように観客である子供のためには作っていない”のです。そのために、宮崎駿作品の中でも(後にも詳しく書きますが)その作家性が強く表れている一方で、大衆には迎合しない異質な作品になったとも言えるのです。
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