2020年01月16日

『ジョジョ・ラビット』のレビュー:ヒトラー大好き少年とユダヤ人少女の数奇な交流

『ジョジョ・ラビット』のレビュー:ヒトラー大好き少年とユダヤ人少女の数奇な交流


差別と偏見に辛口ユーモアで対峙
勇気と知性あふれる傑作


本作の秀逸な点は少年の純粋な目線を通してナチズムを見据え、さらにはファンタジックかつユーモラスにその本質を解き明かしながら、ひとりの少年が成長していく過程を瑞々しく捉えていくところにあります。

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何よりもヒトラーを空想上の友人とする設定がユニークながらも、子供の頃は誰しもそういった事象は大なり小なり経験していることを思い起こすことができれば、それは実にリアルであることにも気づかされるでしょう。

戦争を肯定しながら自国を讃え、他国やそれらの民族を排斥しようとする歪んだプロパガンダは、当然ながら戦時中の子どもたちをも洗脳してヘイトの思想へと導いていき、それは戦時下の日本も同様であったわけですが、ここでは差別される存在=ユダヤ人少女を少年の家にひそかに同居させるという、ふと『アンネの日記』を彷彿させられるような設定から、人種差別の糾弾はもとより、徐々にナチズムの残酷な本質に気づかされていく少年の衝撃と戸惑い、そして年上の少女に対するほのかな想いを通して、まもなく思春期の入口へ到達しようとする少年の繊細な情感が好もしく醸し出されていきます。

主演の少年少女の初々しい好演は当然ながらの特筆事項ではありますが、同時に母親役のスカーレット・ヨハンソン(彼女も本作でオスカー候補に!)や、ナチズムにうんざりしているシニカルな大尉役のサム・ロックウェルの存在感など、大人たちの描出がきちんとなされていることも訴えておくべきでしょう。

本作の監督タイカ・ワイティティはマオリ系ユダヤ人で、幼いころから偏見や差別にさらされながら育ったというキャリアを辛口のユーモアに転じさせながら本作の中に盛り込み、さらにはヒトラーを自身で演じながら、最初は飄々としながらも徐々に邪悪な本質を露呈させてくれています。

また本作は英語台詞のアメリカ映画ではありますが、その言い回しはあえて現代口調を採用しているとのことで、英語の読解力が皆無な身としては残念ながらその要素を堪能できないのが残念ではありますが、ヒアリングが達者な方はそうした部分にも注目していただけれると、より本作を楽しめるでしょう。

日本はもとより世界中どことなく差別や偏見の思想が際立ち始めている昨今、こういった勇気と知性あふれたエンタテインメント作品の存在は非常に貴重かと思われます。

第44回トロント国際映画祭観客賞受賞、アメリカのレビューサイト“シネマスコア”では「A+」の最高評価。昨年の東京国際映画祭上映後の観客アンケートでは★★★★★の満足度となった『ジョジョ・ラビット』は1月17日より全国公開。文字通り見逃し厳禁の傑作です!

(文:増當竜也)

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