映画コラム

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2020年02月29日

『地獄の黙示録 ファイナル・カット』レビュー:「戦争ほど美しいものはない」ことの怖さを描いた名作の最終版!

『地獄の黙示録 ファイナル・カット』レビュー:「戦争ほど美しいものはない」ことの怖さを描いた名作の最終版!



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このところ新作は映画館で、旧作はTVやブルーレイなどのソフト、もしくはネット配信で、といった映画鑑賞の基本的区分けを自分の中でしています。

理由は単純で、この仕事をしている以上はあくまでも“今”の映画をメインに見据えていたいという想いからです。

人間どうしても10~20代の青春期にかけて見た映画が一番印象深く、そこを基準に古今東西の作品を比較しながら見てしまいがちで、そのこと自体を否定する気は毛頭ありませんが、それが高じて「昔の映画は良かった。それに比べて今の映画は……」などと口にすることだけは、個人的に絶対に避けたい。

(正直、過去の名作を映画館の大画面で接すると、心は一気に“懐かしいあの頃”にタイムスリップしてのめりこみ、なかなか現実世界に戻れなくなってしまうことへの不安もあるのです)

しかし、それでもやはり、新作だ旧作だの域を越えて、これは映画館で見ておくべき! と絶対的にお勧めしたい作品もままあります。

ヴェトナム戦争を題材にしたフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(79)もその中の1本です。

さまざまなトラブルを経て完成した問題作であり、第32回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した名作であり、さまざまなヴァージョンが存在する超大作でもありますが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街444》

ここに至ってコッポラ監督直々に編集した最終版ともいえる『地獄の黙示録 ファイナル・カット』が、何とIMAXにて日本上陸!

自身の王国を築いた大佐暗殺の
命を受けた大尉の地獄の旅


『地獄の黙示録』はウィリアム・コンラッドの『闇の奥』を原案に大きくアレンジしたもので、その大筋はヴェトナム戦争が激化していく1960年代末、アメリカ陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)は軍上層部から、軍規を無視して自らの王国をカンボジアの奥地に構えたカーツ大佐(マーロン・ブランド)を暗殺せよとの命を受け、4人の部下とともに哨戒艇でヌン川を遡っていく……というもの。

その旅の中で、戦争がもたらすさまざまな狂気を、我々観客はウィラードの目を通して体感していきます。

ヘリコプターにサーフボードを積んで、さらにワーグナーの《ワルキューレの騎行》を流しながら敵の村を襲撃するキルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)……。
(戦闘後にキルゴアが感慨深く漏らす「ナパームの朝は格別だ」の一言は、映画史に残る名台詞として讃え続けられています)

慰問のプレイメイトに興奮するあまり、飢えた狼のように彼女らに群がる兵士たち……。

指揮官が誰かもわからないまま戦い続ける最前線……。

一方で任務を知らされない苛立ちも手伝って対立を深めていく部下との葛藤などを経て、ついにウィラードはカーツの王国へ到達し、そこで彼と対峙します……。

冒頭でヴェトナム戦争のアイコンともいえるヘリコプターとジャングル、そしてウィラードをオーヴァーラップさせた画にドアーズの名曲《THE END》をかぶせていく、いわば《終わり》から始まる“現代の黙示録(APOCALYPSE NOW/原題)”は、一貫して幻惑的で美しい映像と幽玄な音楽などを駆使して、戦争がもたらす魅惑を描いていきます。

「戦争ほど美しいものはない。そうでなければ、これほど人が戦争を繰り返すはずはない」

これは初公開時のコッポラ監督の発言です。

一方、彼がこよなくリスペクトする黒澤明監督も本作に関して当時「戦場では時に地獄が天国に見えるから怖いのだ。」といったコメントを寄せていました。

(ちなみに本作の中でカーツ大佐が最後につぶやく“HORROR…HORROR”の台詞は、字幕では「地獄だ 地獄の恐怖だ」と訳されていますが、確か「キネマ旬報」誌だったと記憶してますが、黒澤監督は「あそこは『怖い』と訳してほしかった」といった批評も書かれていて、子ども心に「すごい!」と唸らされたものでした)

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