映画コラム

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2020年10月27日

『スパイの妻』レビュー:そこに生きていると感じさせる高橋一生の美しい一挙手一投足に目が釘付け

『スパイの妻』レビュー:そこに生きていると感じさせる高橋一生の美しい一挙手一投足に目が釘付け

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。
68回目の更新、今回もよろしくお願いします。

映画観賞後、ここまで各シーンが脳内に滞留しているのも珍しい、そんな状態のわたしです。いまだに新型コロナウイルスが蔓延している世界で、それとずっと隣り合わせでいることの恐怖に囚われている毎日ですが、唯一、エンタメがそのことを忘れさせてくれるものだということも再認識できました。

自分は作品を作る側でもありますが、その根底にはやはり好きだということ。あらゆるものの、いちファンであるということ。それに助けられているということ。それをこれでもかと今浴びてます。こういうことをこのような場で書くと、とーーーーーっても、嘘くさく安っぽいように感じてしまうかもしれませんが、、しょうがないです、だって本当に心から思っているんだもの。と、開き直っています。

周りの目、評価、印象、そういうものに気が行きがちですが、まずは自分が何をしたいのか、何に感動するのか、何を伝えたいか、それに立ち戻ることの大切さを思い起こす。

真っ直ぐに誠実に。

そんな生活も、悪くないでしょう、きっと。

それでは、今回はコチラの作品をご紹介します!

『スパイの妻』





1940年の神戸。福原優作(高橋一生)は貿易会社を経営している。ある日、憲兵隊の隊長に任命され神戸にやってきた津森泰治(東出昌大)が会社に訪れ、優作の友人であり仕事仲間のドラモンドがスパイ容疑で逮捕されたことを優作に伝える。優作は何かの間違いだと、笑い飛ばすが、優作の妻である聡子(蒼井優)の幼馴染でもある泰治は、彼女の為にも人付き合いをあらためるように注意をする。しかし、優作は、ドラモンドの罰金を払い釈放をさせる。ドラモンドは礼を述べつつ、日本を離れ上海に渡ること優作に伝える。

突如、優作は満州に行ってくると聡子に伝える。聡子は心配するが、優作は「危険になる前に、大陸をこの目で見たい」と聡子を説得し、撮影機材とともに満州へ渡る。ひと月の渡航と聞いていたのだが、優作から聡子のもとへ2週間帰国を遅らすことを伝える電報が届く。不安が大きくなる聡子だったが、無事に帰国した優作。船着場では、再会を喜び駆け寄り優作に抱きつく聡子であった。そんな二人の横を通り過ぎる草壁弘子(玄里)と竹下文雄(坂東龍汰)。優作は2人に、目配せで何かを伝えていた・・・。

福原物産での忘年会。そこで文雄が、会社を辞めて有馬の旅館「たちばな」に篭って戦争をテーマに長編小説に取り組むことを報告する。その忘年会の終わりに、一息つく優作と聡子。そこで優作が、ポツリと敵国になる前に、自分はアメリカに行くかもしれない告げる。

海に浮かぶ女の死体。憲兵である泰治に呼び出された聡子は、旅館「たちばな」で仲居をしていた草壁弘子が亡くなったことを知らされる。その女のことは知らなかったが、その女を満州から連れ帰ったのは優作だということも聞き、動揺が走る。

戦争が間近にせまる緊張感ある流れの中、それぞれの正義や幸福を追い求めて、それぞれの思いが交錯していく。。。




第77回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を見事受賞した黒沢清監督の最新作です。

終始、画面に漂う異質な感じと薄くピンと張った緊張感が持続している。サスペンスでありホラーのようにも取れる作りで、邦画を観ていることを忘れるほどの緻密さに驚きます。

表面上では普通に会話を交わすものの、水面下では激しいものが渦巻き続けているのがハッキリと伝わってくる。決してそれは、表現をして、無理に伝えてくるのではなく、観客が嗅覚や感性で感じ取れるように丁寧に提示しているのです。黒沢監督や演者の、質や純度の高い"品性"がなせる技なのでしょう。




そして、主演2人が見事。特に、正義と幸福についての夫婦の論争にシーンでの長回し。クラシカルな台詞だけれども、決して違和感なく言葉が入ってくる。きっと活字で見たら説明で一杯のシーンを、二人はきっちりと言葉を落とし込み、自分を理解して欲しいというそれぞれの思いをぶつけ合う論争シーンに昇華されていた。

言葉、立ち居振る舞い、香り、雰囲気、その時代に生きる人を真似るのではなく、きっちりそこに生きていることが出来ることのすごさたるや、、、お見事です。高橋一生さんの描く、美しい一挙手一投足に目が釘付けです。




終盤の蒼井優さんの台詞、
「わたしは狂ってはいません。ただ、この国では、それが狂ってるということなのです」
と、真っ直ぐにこちらを見据えて(実際は笹野高史さんに)訴えるシーンでは鳥肌が立ちました。これが、この映画を通して伝えたいものの、ひとつではないかなと個人的には解釈しました。

黒沢清監督が残すものに、いつも心にずっと残る何かをいただけるのですが、今回もきっちりと、そして果てしなく重いモノを受け取りました。

邦画でここまでのものを見せつけられたことの感動と勇気を、皆様にも是非味わってもらいたく今回はこちらをご紹介しました。

是非、映画館で!

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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