映画コラム

REGULAR

2020年11月13日

『フード・ラック!』を見つつ、遥か昔『武士の献立』の料理と夫婦の絆を想う

『フード・ラック!』を見つつ、遥か昔『武士の献立』の料理と夫婦の絆を想う



 (C)2020 松竹



ダチョウ倶楽部でおなじみ寺門ジモンが映画初監督した『フードラック!食運』(11月20日公開)は、これが実によくできた「食(焼肉)」映画の快作でした!

芸能界屈指の食通で、特に“焼肉の達人”でもある彼が描いたザッツ焼肉エンタテインメント!

幻の人気焼肉店の息子でもあったフリーライター(EXILE NAOTO)と編集者(土屋太鳳)が、グルメ情報サイトを立ち上げるため、さまざまな焼肉の名店を行脚していくという基本ストーリーの中から、いつしか驚くほどの人生泣き笑いのヒューマン・ドラマが好もしく醸し出されていきます。

また、さすがは焼肉の達人が監督しただけあって、焼肉シーンの諸描写の何とも美味しそうなこと! まるで画面から焼肉の臭いが漂ってくるかのようで、見ているだけで口の中は唾液まみれになること必至! 

鑑賞後は絶対、焼肉屋に行きたくなるほどのグルメ・テロ映画なのでした。

というわけで、今回は『フードラック!食運』公開を記念して、はるか昔の「食」を描いた時代劇快作『武士の献立』(13)をご紹介!(唐突?)

ダメダメ包丁侍に嫁いだ
料理の達人の奮闘記!




 (C)2013「武士の献立」製作委員会



『武士の献立』の舞台は江戸時代、加賀騒動で揺れていた時期(18世紀前半)の加賀藩の台所方として仕えた“包丁侍”こと舟木家の人々を、嫁の立場から描いたものです。

商家に嫁いだものの気の強さが災いして1年で離縁されてしまったお春(上戸彩)は、藩主側室お貞の方(夏川結衣)の女中として仕えていたところ、その優れた舌と料理の腕を台所方の舟木伝内(西田敏行)に見込まれ、次男・安信(高良健吾)の嫁となります。

この安信、城下でも屈指の剣術使いとして知られた存在でしたが、長男の急死でやむなく家を継ぐことになったものの、父親とは正反対に料理がからっきし苦手で、仕事にも興味を持てないまま鬱屈した日日を過ごしていたのでした。

つまり春の役目は、舟木家の嫁として安信に料理を仕込んでほしいというものでもあったのです。

4つ年下の安信から「古だぬき」「包丁侍なぞつまらぬ」などとののしられながらも、「離婚か料理指導か」を賭けた料理勝負に勝った春は、スパルタで安信に料理を指導していきます。

その甲斐あって徐々に料理の腕が上がっていき、少しずつ春にも心開いていく安信ではありましたが、かつて彼には結婚する予定だった剣術道場の娘・佐代(成海璃子)がいて、やがてその婿である今井定之進(柄本佑)ともども、改革派の大槻(緒形直人)を自害に追い込んだ保守派・前田土佐守(加賀武史)暗殺に加担しようとしていました。

そのことを知った春は身を賭して安信を救い、病に倒れた伝内に代わって、夫婦で藩が催す饗応料理のための食材探しの旅に出かけるのですが……。

和食の数々を通して
時代と愛を醸し出す巧みな演出



本作は加賀騒動を背景に、包丁侍の家に嫁いだ女性の目線で、夫婦の絆や家族愛などを描いていきます。

そうしたドラマの中で重要なフックとなっていくのが料理の数々。

もちろん江戸時代の話なので『フード・ラック!』みたいに焼肉などは出てきませんが(ニワトリは出てきますが)、代わって和食料理の数々が一見シンプルながらもその実奥深く画面を彩ると同時に、その時代のみならず現代にも通じる「愛」を醸し出していきます。

単に料理そのものではなく、食材の見分け方や切り方などにもさりげなく言及しているのも、本作の美徳の一つではあるでしょう。

『釣りバカ日誌』シリーズで知られる朝原雄三監督の端正な演出は、「大船調」とも呼ばれる松竹映画伝統の人情の機微を好もしく醸し出すと同時に、加賀騒動のスリリングな過程をもってドラマに起伏をこらしながら時代劇エンタテインメントとしての情緒を醸し出していきます。

上戸彩が扮する勝ち気ながらも奥ゆかしいヒロイン像は、現代の女性にも大いに共感してもらえること必至。

また、今から7年ほど前の作品ですが、ここで時代劇を体験した高良健吾や柄本佑ら若手俳優は、前者は『多十郎殉愛記』(19)など、後者は『居眠り磐音』(19)などの時代劇作品でも見事な存在感を示しています。

料理の伝統ともども時代劇の伝統も、キャリアを積んでいくことでこそ継続していくものなのでしょう。

(文:増當竜也)

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